第31話 勝負
異世界ツアーが始まって4日目。
今日が決戦の日だ。これでダメだった場合、新しい師を見つけて、弟子入り志願して……うん、何が何でも今日勝とう。
朝のうちにクマの店に行く。
「2つ質問がある。正直に答えて欲しい」
正面からクマに向き合い、真剣に問う。
それに合わせてクマも居住まいを正した(気がした)。
「何でしょうか」
「1つ、スズの本音が知りたいか。
2つ、死にたいか、生きたいか」
俺は指を2つ突き出した。
クマは少しの沈黙の後、はっきりとした口調で答えた。
「私は――」
◇◇◇
約束の時間が近づき、シンカを店に残して約束の地に向かった。
錆びれたドアをノックして家に入る。
そこにはテオが仁王立ちで待ち構えていた。
関節部分など、糸がほつれやすい箇所や破れやすい部分に色とりどりの当て布がしてある。
昨日の準備期間はテオを補強する為だったのだろう。
テオの後ろにスズが立っていた。徹夜だったのか機嫌が悪いのか一昨日よりも目つきがキツイ。
「随分とカラフルになったな。花柄似合ってるぞ」
とりあえず軽口をたたいいてみる。
「う、うるさい!」
気にしてたのか。
「それより女はどうした」
「シンカは野暮用。後から来るから先に始めとこうぜ」
「随分と余裕だな。女が来る前に決着がつかないといいがな」
「おぅおぅ、自信満々じゃん。
じゃあ賭けの確認。負けた方が勝った方の言うことを聞く。で、異論ないな?」
スズとテオが頷く。
どうしたら負けになるのかは敢えて決めない。向こうは「参った」って言ったら、くらいに思っているかもしれないが、俺の方はそうもいかない。
そこに触れられる前にさっさと始めてしまおう。
「よし。ならスズ、スタートの合図をしてくれ」
スズが右手をスッと挙げる。
「始めっ!!」
俺は声と同時に右上にジャンプする。
ドゴッ
先ほどまで立っていたコンクリートの地面に穴が開く。
やっぱり先手必勝でくるよな。
って言うか威力増してるし。
俺は飛び退いた先にちょうどいい高さの鉄筋を発見した。
不自然に思われないように、そっとアームウォーマーの端を結びつける。
「こないだから思ってたんだけど、お前、猛獣のくせにムチ使いってどうよ」
「うるさい!これがオレのスタイルだ!」
俺はテオを挑発して、俺を追いかけるように誘導する。
「しっかし、ぬいぐるみのどこにそんな力あんの? その中身1回見せてよ」
俺は、捕まえようと腕を伸ばす。
しかし、案外テオは素早く、後ろにバク天してそれをよける。
「思いが強ければいくらでも力は出せる!」
すぐにムチで反撃してきた。
これだけぬいぐるみで動けるってほんと、どういう原理で動いてるのか気になる。
「じゃあお前の思いって何? スズにどうなって欲しいわけ?」
俺は会話に注意を反らせながらムチを避ける。そのついでに毛糸をあっちこっちに引っ掛けていく。
瓦礫が多いので糸を引っ掛ける場所などいくらでもある。
「オレは、ただスズにこれ以上傷ついて欲しくないだけだ」
「今のままだと傷がいつまでも塞がらないままだぞ」
「お前にスズの何がわかる!!」
テオが力任せにムチをふるう。
天井の一部が崩れ、破片が降ってくる。俺は怪我をしないよう、全身厚着にしてきたから頭さえ守れば平気。ぬいぐるみもたぶん大丈夫だろう。問題はちょうど真下にいたスズだ。
テオも、「しまった!」と慌てた駆け寄るが、俺の方が近い。
スズをかばいながら、破片の届かないドア近くまで走った。
ふう、危機一髪。
「怪我ないか?危ないからここで見てな」
スズは、戸惑いながら小さくうなずいた。
俺は改めてテオと向き合う。
「確かに知らないけどさ、外から見た方が分かることもあるんだよ」
テオのムチを持つ手が止まった。
「どういうことだ」
「テオ、お前の望みはスズの幸せってことでいいんだよな?」
「あ、あぁ」
テオの気持ちは確認はできた。
あとは……
ちらっと外を見ると、割れた窓ガラスの奥に潜んでいるシンカとクマの姿を発見。その近くにいるスズは気づいていないようだ。
予定通りだな。
「なぁスズ、お前クマのことホントはどう思ってんの?」
「何よ、いきなり。まだ勝負終わってないわよ!」
よほどクマの話題は嫌らしい。すごい目でこちらを睨む。
「よそ見している暇はないぞ!!」
スズが嫌がると、テオの怒りもわくようで、一段とテオの攻撃が激しくなった。
飯いっぱい食ってきて正解だったな。
これで腹減ってたら、たぶん天井落っこちてくるぞ。
さて、舞台は整ったし、これ以上崩れる前に仕上げだな。
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