第28話 作戦
街に戻ってから、明日に備えて宿を探すことにした。
あの騒動以来、廃業した宿屋が多いらしく、空いていた宿屋は一つだけであった。
「え、1部屋しか空いてないの?ツインで?」
残念なことに、シングル2つは空いていないらしい。
仕方なくツインに泊まることにする。
不運のこともあるし、今後の話し合いもあるから、一部屋の方がありがたくはあるのだが……気が乗らないなぁ。
「で、どうやってスズと接触するかだが」
「その心配はいらないわよ」
「は? 何で?」
「だってリンちゃんがスズちゃんだもの」
「は? いや、確かに気になる点はあったけど……写真と全然違うだろ」
写真をもう一度思い出す。
うん。違うよな。
「髪は染めてるわよ。髪の根元は金髪だったから」
「もしかして、最後に頭撫でた時?」
「そう」
すげぇ。
「じゃあ目は?」
「メイク次第でつり目にもたれ目にもなるわよ」
「そんなに変わるもんか?」
「じゃあ証拠見せてあげる」
そう言ってシンカは洗面所へと向かった。
程なくして、スッピンで出てくる。
わぉ。
「お前、眉毛ねぇな」
「そこじゃないわよ!っていうか眉毛もあるわよ!!」
「はいはい。確かに全然イメージ違うな。
お前つり目じゃなかったの?」
見る限りつり目でもたれ目でもなく、普通の一重。
むしろまつ毛がバシバシ立ってないぶん、おしとやかにさえ見える。
いつもは瞼の上の色が濃いので、色がないと変な感じだ。
「そうよ。ついでにほら」と、お団子もほどく。
サラッとした髪が背中にかかった。
髪下ろしたの初めて見た。
「もはや別人だな」
というか、シンカの3つ上のねーちゃんとそっくりだ。その人は温和で優しく、誰からも愛される、理想の姉だった。つまり、シンカとは真逆のタイプだ。
「それはどういう意味かしら?」
「や、いい意味で。 ほら、ギャップ?」
俺は慌てて繕う。
「ま、いいわ。明日は私に任せてもらえる?
もしかしたら、更に面倒な事になるかもだけど」
「んー……面倒事は避けてほしいけど……。と言うか、できるだけ俺らが関わらないカタチがいいんだけど」
「何で?」
「何でって……よそ者がこの世界の住人の運命を変えたらダメだろ」
「それがいい方でも?」
「ああ。例え人が死にそうでもそれを俺達が助けたら、矛盾が生じるだろ。そうなったら、この世界にどんな影響が及ぶかわからない」
「……そうね。じゃあ、選ばせるっていうのはどう?」
「選ばせる?」
「確かに生死までの大きな事は変えられないけど、ちょっと刺激を与えて、スズちゃんにこの先を選ばせるの。彼女が選ぶのなら運命を変えたことにならないんじゃない?」
「うーん。強引な気もするが……」
「私達の証拠さえ残さなきゃいいじゃない。職人魂取れば記憶は曖昧になるんだし、『そういえばお節介な人がいたような〜』くらいで済むわよ」
そうかなぁ。
「それに、大きな事、例えば人の生死とかは私達がする小さい事ではあまり影響ないんじゃないかと思うの。
私が刺激した事で気持ちを変えるなら、それは私がしなくても今後変わる可能性は十分にある。逆に変えないなら、ずっと変わらないでしょうから、その時は諦めるわ」
「なるほど……一理あるかもな」
俺はタカノとの旅を思い出す。
サイジは、『あの夜』元々死ぬ運命だったのかもしれない。
それが、俺達の介入でそれが捩れた。
しかし、結局死は少し延期されただけで運命はさほど変わらなかった。
それは、俺も考えた事項でもあった。
考えたところで、真相はわからないけれど。
友達と仲直りしたいかどうか、シンカの言う通り選ばせたら問題ない……か?
「……わかった。万が一の事態になったら俺が責任を持つ」
シンカの顔がパアッと明るくなった。
「理解力があって嬉しいわ!」
バシバシと背中を叩かれる。
「痛い痛い。で、明日はどうするつもりだ?」
「ちょっと揺さぶってみようかと」
「ふーん。まぁ任せるが、証拠だけは残すなよ」
できれば女子同士、明日のうちに目処がつくことを祈る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます