第3章 裁縫の世界

第20話 ベビーシッター(1)

 シンカとの旅が決まってから3ヶ月。

 午前中に仕事、午後から次の異世界の授業を受ける毎日を過ごしていた。


 つまり、午後からは常にシンカと一緒ということだ。シュウが講師なので2人きりじゃないことが唯一の救いである。


 午後のことを憂鬱に思いながら、一旦仕事の報告をしに屋敷へ戻る。


「報告ご苦労。あ、次の講義は休みな」


「へ? わかりました。珍しいですね」


 やった!!久しぶりにシンカの嫌味から解放される。


「ちょっとシュウに急ぎの仕事でね。シンカにはお前から伝えておいてくれ」


 えー。

 でも、長時間一緒じゃないぶんマシか。


「わかりました」


 俺はこの時、思わぬ休息が取れる喜びで、長がひっそりとほくそ笑んだことを見逃していた。



◇◇◇

 屋敷を出た足でそのままシンカの家に向かう。

 嫌なことはさっさと済ませたい。


「おい、ちょっといいか?」


 お店の暖簾をくぐって声をかけると、奥の仕事場からシンカが出てきた。


「なによ?」


 なんで睨みながら出てくるんだよ。


「今日の講義、シュウの仕事の都合で中止になったから。そんだけ」


 俺はさっさと出て行こうとしたが、ちょうど店に入ってきた人とぶつかってしまった。


「うわ、 わりぃ。大丈夫か?」


 よろけた相手を支えて顔を見る。

 ツチネのお母さんのキヨネだった。


「んぎゃーー」


「わっ!?」


 赤ちゃん!?


 キヨネの後ろには、おんぶ紐でくくられた赤ちゃんの姿が。更にその後ろには、足にしがみついたちっこいのが1人。


ツチネの妹の、ユキネ(1歳)とハルネ(0歳3ヶ月)だ。


「よしよし。びっくりしたね。コウ君もごめんなさいね」


「いえ、大丈夫ですか?」


 泣き止まないハルネにオロオロ。

 どうすりゃいいの??


「大丈夫、大丈夫。ところでちょっと2人にお願いがあるんだけど、いいかしら?」


俺の心配を他所に、キヨネさは慣れた手つきでトントンしながら話しを続ける。


「はぁ」


 2人って、もしかしなくてもシンカと?

 思わずシンカと顔を合わせる。


 嫌な予感。


「ちょっとこの2人預かってくれない?ツチネのことで長に呼ばれて、今から行かないといけないの」


「えっと、事情はわかりましたが、何で俺達?」


 俺、赤ちゃんの世話したことないし。


「ちょうど2人の時間が空いたからって、長が」


 あぁ、なるほど。

 長の企みか。


「わかりました。シンカもいいな?」


「え? いいけど……やけにあっさりね」


 そりゃ、長には逆らえませんから。


「いいだろ。これも経験だ」


「よかったー。じゃあ早速家に来てくれるかしら。ミルクやオムツの場所とか説明するから」

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