第21話 ベビーシッター(2)

 キヨネは必要な物の場所などを簡単に教えると、慌ただしく去って行った。

 その途端、「マァマー」と、ユキネがぐずり出す。

 シンカはハルネを抱っこ中。


 ってことは、俺か?!

 俺が何とかしなきゃいけないのか?!


 おずおずと、手を広げてみる。



 来るなら来い!



 ……じゃなくて。


「ほ、ほら、抱っこしてやるから。おいで~」


 と、言ってみるものの、無視。

 しかもシンカの後ろに隠れやがった。


「ん? 何かお前懐かれてる?」


「まぁね。何度か家にお邪魔してるから。っていうか、さっきからあんた何がしたいの? そんな怖い顔してたら逃げるに決まってるじゃない」


「え、俺の顔怖い?」


「顔、引きつってるわよ」


 まじか……ガキ相手に緊張することないよな。


 よし。


「ユキネ、遊ぼうぜ。いつも何して遊んでるんだ?」


 しゃがんで目を合わせ、できる限り自然な笑顔で話しかけてみる。


 ちょっと顔を出した。


 いける!!


 近くにあったクマのパペットを手にはめて、「あーそぼー」と、もう一度誘ってみる。


「あー!くましゃ!!」


 よしよし。食いついた。

 ユキネはこちらへ、トトト、と近寄りクマをギューっと抱きしめた。


 何これ可愛い!!!


「ぷっ」


「……なんだよ」


 シンカがいること忘れてた。

 俺は見られていた恥ずかしさで思わず睨む。


「いやーあんたもかわいいとこあるのね」


「うっせ」


 シンカはハルネの首を支えて、そっとベビーベッドへおろした。

 なんとも慣れた手つきである。


「寝たのか?」


「えぇ。次のミルクは……14時ね。その前に私達もお昼ご飯にしましょ」


 シンカが、キヨネの残したメモを見ながら言う。


 只今の時刻は12時。

 そういや腹減ったな。


「ご飯とお味噌汁があるみたい」


 さすが、用意周到だな。

 おかずは適当に、とあったのでシンカが手早く卵焼きとサラダも準備してくれる。


 俺も手伝おうとしたが、「気が散るからこっち来ないで」と言われてしまった。気が散るってなんだよ。ったく。


 ユキネはご飯だとわかると、いそいそと自分用の小さな椅子を持ってきて準備を始めた。


すげぇな。


まだちゃんと言葉は喋れないけど、こっちの言うことすることわかってるんだな。


「よし! じゃあ食うか」


 ユキネも「まーしゅ」と言って、手を合わせた。

 シンカがユキネにスプーンでご飯を運ぶと、あーん、と大きな口を開ける。


 可愛いなぁ。


「あんたもする?」


 視線を感じたのか、シンカがスプーンを差し出してきた。


「じゃあ……ほら」


 俺も挑戦してみる。


 パクッ。


「お! 食いつきいいな。じゃあトマト食うか?」


 調子に乗って、小さく切ったトマトをあげてみる。


 べー。


「!?」


 吐き出しやがった!!


「これ不味いんじゃねぇの?」


「違うわよ。たんにじゃないんでしょ」


「は?」


「ん! ん!!」


 ユキネはしきりに味噌汁を指差している。

 味噌汁の入ったスープカップを手渡すと、満足そうに飲んだ。ちょいちょい口の端からこぼれてはいるけど。


 それから、ユキネの指示通り、ご飯、味噌汁、きゅうり、卵焼き、ご飯……と全部食べ終わったところで、最後にトマトを指差す。


 食べた!!


「なぜかトマトはいつも最後にしか食べないのよ。デザート感覚なのかしら」


「変なやつ」


 と言うと、悪口言われたのがわかったのか、持っていたスプーンをベシッと投げつけられた。


 気性が荒いな、おい。

 子どもってみんなこうなの?

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