第19話 次の予定


 魔法の世界から戻ってきて1週間。

 俺は仕事のついでにツチネの様子を見に行った。


「コウ兄ちゃん見て見てー!!」


 元気良く叫ぶツチネの前には、俺の身長の倍以上はありそうな土の塔。

 ただし、子どもが描いたような、頭でっかちの歪な塔なので今にも崩れそうだ。


「おーすげぇな。もっとすごくなるために、絵を習ってみたらどうだ?」


 絵の基礎を習えばマシになるんじゃねぇの。

 あ、でもコロンは既にうまかったからセンスの問題か?


「そっか! わたし、もっとすごくなる?」


「なるなる。けどもっと足元よく見ろよ」


 これだけ大きな塔を作ったので、周りの土は削られて大きなくぼみができていた。

 住宅街でこれをやられたら家傾くぞ。


「はーい!」


 まだまだ課題はあるが、積極的になったのはいいことだな。

 あれから感情も安定しているし。


 ちなみに帰ってきた当初は「遠距離恋愛って燃えるわ〜」とか言っていたが(遠距離もなにも次に会う予定は一切ない)3日後には、遠い人より近くの人。

 ツチネの塔を大げさに褒めてくれたタカノに、べったりになっている。


 女って末恐ろしいな。


 タカノはあれから、サイハから学んだ技術を取り入れ、さらに腕に磨きをかけていた。包丁の試作品を使った食堂のおっちゃんが、切れ味が抜群によくなったと喜んでいたので、がんばって異世界に行ったかいがあったというものだ。


 それから、タカノにはこの時期大きな仕事がある。毎年、里総出の月祭りが3日間あり、そこでは武闘会が行われる。もちろん殺生なし、怪我も最小限での催し物だが、一番盛り上がる行事だ。出場者はそれぞれオリジナルの武器を持つので、タカノはその武器を作るのと調整とで大忙しになる。


 ちなみに去年の優勝者はシュウ。一昨年は俺だ。今年はシュウにリベンジしなければ。

 そのためにも、次の旅はあんまりハードじゃなきゃいいんだけど。


 そんなことを思いながら、俺は長の屋敷へ向かった。




 そして、ついに来てしまった。


 嫌な予感はしていた。


 いい歳だし。


 技術は申し分ないし。


 試験結果も文句ないし。




 でも!


 でも!!


 願わくばずっと理想の異世界が見つからないでいて欲しかった。



 『ツアー参加者:シンカ』



 資料を見直しては、もう何度目かわからないため息をついた。

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