第18話 魔法の世界(2)

「次黙って離れたら承知しないからな? 」


 俺はツチネの羽織っているマントを掴んで歩き出した。

 反省したのか、ツチネはマントを掴まれながら俺の斜め後ろを大人しくついてきているようだ。


 5分ほど歩くと白い建物が見えてきた。


「ここだな。おい、着いた……ぞ? 」


 またいない?!

 いつの間にか掴んでいたのは空っぽのマント。


 中身どこいった?!


 俺はまたもや来た道を引き返そうとして、建物のすぐ脇にある小道がふと目に入った。


 そこには、道端にしゃがんで何やら楽しそうな声を上げているちびっ子が2人。


 いやがった!!!


「おいこら! お前今さっき俺が言った言葉覚えてないのか? 」


「ご……ごめん……なさい」


 さすがのツチネも、俺の形相を見て、やってしまったと思ったようだ。


「謝って済む問題じゃねーんだよ。こんな場所ではぐれたらどうなるか、一度試してみるか?」


 命を預かってる俺の身にもなれ。


 よほど俺の顔が怖いのか、ツチネは泣きそうな顔で怯えていた。

 一緒にいた男の子は既に泣いている。


 ったく。

 だから旅の試験も受けてないガキを連れて行くのは嫌だったんだ。


「ご、ごめんなさい。もうしません」


「……ん。次やったら帰るからな」


十分に反省してるみたいだし、今回は大目に見てやるか。


「で、 その子は? 」


 まだ泣きながら縮こまってるし。

 泣いてる子ども、どうしたらいいのかわからないから苦手なんだよなぁ。


 どうしたものかと頭をかいていると、ツチネはパッと顔を上げて、「この子すごいんだよ!」と男の子の両肩を掴んだ。


「あのね、 地面の土をぱぁってして、あっという間にお城作っちゃったの!! 」


 男の子の肩を揺らしながら、興奮気味に言う。

 お前は切り替え早過ぎないか?

 まぁ、いいことだけど。


「驚かせて悪かったな。俺はツチネの保護者のコウだ。俺にもそのすごい技見せてくれるか? 」


 俺はありったけの優しい声色と笑顔で話しかけた。

 どうか泣き止んでくれよ。


「……ぼく、コロン。ちょっと待ってね」


 コロンは淡い水色のマントの端で目をこすると、ふう、と一息ついた。

 どうやら見せてくれるらしい。

 よかったよかった。


 コロンが手を地面に掲げると、光がぱぁっと広がり、土がモコモコと動き出してあっという間に小さな城ができた。

 子どもが砂場で作るようなお山ではない。砦や塔があるような立派なお城だ。


「へぇ。すごいもんだな」


 俺が素直に感心すると、コロンは照れたように笑った。


「ものを作る以外にも何かできるのか? 」


「んーっとね、お父さんの畑の土を柔らかくしたり、土に聞いてお水とか肥料をあげたりできるよ。それで、畑で採れた野菜は、ぼくががんばったからおいしいって、お父さんも近所のおばちゃんも言ってくれるの」


「コロンは畑仕事が上手なんだな」


「えへへ。でもね、野菜だけじゃまだ食べていけないからって、お父さん今お仕事探してるの」


 あぁ、だからここで待ってるのか。

 それにしても、土の言葉がわかるのか? ツチネも土の精霊と仲良くなればできるかもしれない。これは試してみる価値があるな。


「ねぇねぇ、このお城ってどうやって作るの?」


 ツチネは作る方に興味津々のようだ。

 確かにここまで器用に土をいじれたら色々使いどころはありそうだな。


 色々コツを聞いているうようで、コロンの話を熱心に聞いている。

 こういう時は、子どもの方が無知ってことで何を聞いても疑問に思われないからいいな。


「コロン君は、何歳? 」


「5さい」


 手のひらをパーにして笑顔で答える。

 うわーかわいー癒されるー。


「ツチネより2つも下か。お前も負けてられないな」


「帰ったら猛特訓するもん! 」


 いい感じに闘争心が湧いたようだ。

 コロンには感謝しなくちゃな。


「もうフウト兄ちゃの前で『役立たず』なんて言わせないんだから! 」


 リョクを見返すのも時間の問題だな。……ん?


「なんだ、お前好きな奴の前で言われたからあんなに泣いてたのか」


「違うもん! 」


 ツチネは顔を赤くしてブンブンと振りながら否定する。

 あれだけフウトにくっついてたら誰でもわかるだろうが。


「違うのよ! あの、確かにこないだまでは年上っていいなーって思ってたけど、今は……年下もいいかなーって」


 チラチラとコロンを見ながら言う。

 女心と何とやら。

 やっぱりツチネは切り替えが早いな。

 当の本人には伝わってないようで、キョトンとしている。

 まぁ5歳児だし。


「さて、そろそろ帰るぞ」


 気づけばもう夕暮れ。

 今回は日帰りだし、この収穫で十分だ。


 職人技と呼べるような技術の伝授じゃなきゃ、ここでの記憶は3日くらいなら残るから、里に帰って書き出しておけば大丈夫だろう。それを何度か読むことで記憶が定着する。

 職人魂がとれた場合は、里に帰ってから職人魂を触らせてもらうことで記憶を全部蘇らせている。

 といっても、やっぱり記憶は薄れていくものなので書き出す作業はやっぱりあるわけだが。


「えーー」


 ツチネは一瞬口を尖らせたが、俺が怒ると怖いことがわかったからか、すぐに素直に従った。


「もう帰っちゃうの? 」


 コロンは眉を下げて寂し気な表情。

 この素直さ、かわいいなぁ。

 リョクもこのくらい素直なら、ツチネと仲良くできそうなものなのに。


「お前はお父さん来るまで一人で平気か? 」


「うん。あ、ツチネちゃん待って」


 コロンは魔法を使って、手のひらに小さな土の花を作った。


「これ、あげる。今日楽しかったから、ありがとう」


「ありがとうは、わたしだよ。すごく、勉強になったの。お花もありがとう」


 ツチネがコロンの手にそっと両手を添える。


 あーあ。

 その花どうしよう。


 と、思ったがツチネはその土の花をコロンに握らせただけであった。


「でも、形あるものはいつか壊れてしまうからいらないわ。思い出だけで十分よ」


 どこで覚えたそんな言葉。


「じゃあ、ほんとにありがとう。バイバイ」


「気をつけて帰れよ」


「うん! ばいばーい」


コロンは最高の笑顔で俺達を見送ってくれた。

いい出会いがあってよかったな。



◇◇◇

「ところでさっきのセリフ、どこで覚えたんだ?」


 最初の森に戻りながら、俺は気になっていたことを聞いてみた。


「シンカ姉ちゃんが言ってた」


「あいつかよ!!」


「 シンカ姉ちゃんってすごいんだよ〜。こないだねー……」


 それから俺はゲート姉妹の迎えが来るまで、シンカの話を延々と聞く羽目になった。

 知りたくねぇよ、チクショウ。

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