第17話 魔法の世界(1)
2週間後。
俺達は予定通り、魔法の世界にいた。
着いてすぐにツチネの力が発動しないことを確認する。
ツチネの場合は、あくまでも里の土の精の力だからかな。
ツチネは残念そうだったが、俺としては暴走する可能性がなくなったのでホッとした。
少し歩いて街に到着する。
さすが魔法の世界。いろんなものが浮いているし、行き交う人の髪の色も赤、青、緑と華やかだ。目がチカチカしてきた。
ちなみに、今回の服は、前回の鍛冶屋の世界に似たような恰好だが、違うのは足首まである長いマントだ。体系を隠してくれるのでこちらとしては非常にありがたいファッションである。ただ、こちらの世界では暗い色の服は逆に目立つらしいので、俺は緑、ツチネはショッキングピンクのマントだ。普段黒づくめなので、なんだか落ち着かない。
不審に思われない程度にあたりを見渡していると、ホントに杖とかステッキを持っている人がいて面白い。
普段見ることのない風景に思わず見入っていると、背後に熱気を感じてすぐさまツチネを横に引っ張った。
その隙間を、たてがみと尻尾の先に火がついている大型犬みたいな生き物が駆け抜けて行く。
「リオ待ちなさい!! すみません避けてーー!!」
と、飼い主らしい女性が慌てて追いかけて行った。
何だあの動物?
周りをよくよく見ると、巨大イグアナみたいなのがこっちを見ていたり、『人間も獲物ですよ』と言うようにヨダレを垂らしてこちらを狙う巨大蛇がいたり……。
ゾッとしてきた。
「よし、さっさとメシ食うぞ」
「わーい! ご飯だー!!」
お前は気楽でいいな。
俺は一刻も早く里に帰りたい。
それからレストランに行くまでが大変だった。
周りで魔法を使っている人がことごとく失敗するので、ドロッとした雨が降るわ、足場が崩れるわ、何かよくわからないものが巻きついてくるわ……長には当分魔法系は無理って言おう。
食事をしながら今後の方針を立てる。
どっかで土を利用したショーとか、土魔法を仕事にしてる見学所とかかねぇかな。
仕事……あぁ、それいいかも。
「仕事紹介所に行ってみるか? 」
「ショーかいじょー? 」
ショーを見るの? って顔で首を傾げる。
「仕事を紹介するところだよ。そこに行けば土魔法系向きの仕事の紹介があるだろ。それを参考にするってどうだ? 」
「コウ兄ちゃんナイスアイディア! ショーかいじょー行こー!!」
ツチネは喜んで踊り出す。
「おい、椅子から落ちるぞ」
「うぎゃっ」
言ったそばからマントを踏んづけて落っこちそうになるツチネを支える。
さて、里でも応用の効くいい仕事が見つかるといいんだが。
それから、店の人に聞いてみると、運良く近くにあるようだ。
そこに行くまでの大通りは、露店などでとても賑わっていた。
馬車などの乗り物は無く、道幅いっぱいに人が行き交っている。
はぐれそうだな。
「おい、横歩け」と振り返ると、既にそこにツチネの姿はなかった。
「ツチネ!?」
迷子?! 誘拐?!
不運に見舞われたとか?!
いや、待て待て落ちつけ。
あいつのことだからその辺にいるだろ。
俺は深呼吸を1つ。
こういう時に焦るのが一番いけない。
さっき食べたばかりだからそうそう不運はこないはず。
大人しくさらわれるタイプじゃないし、自分から脇道に逸れた可能性は十分にある。
俺は足早に来た道を戻る。
「おいしー!! 」
「!?」
聞き覚えのある声がして、慌ててそちらに向きを変えた。
見るとそこには、楽しげに露店のおばちゃんと話すツチネの姿。
ほっ。無事だったか。
「てめーはこんなところで何してんのかな?」
頭を鷲掴みにして無理やりこちらを向かせる。
「いたい、いたーい! 」
「まず言うことは? 」
「……ごめんなさい」
「はい。で? お前金も持たないで何食ってんの。すみません、いくらですか? 」
「いいのよぉ。この子が転がったリンゴを拾ってくれたお礼にあげただけだから。お父さんもおひとつどうぞ」
「おと?! 俺は父じゃありません!! 預かっているだけです! 」
この歳でこんな大きなガキがいてたまるか。
俺老けて見えるのか?
ダメージでかいよ、おばちゃん……。
「あらあら、ごめんなさいね。はい、アップルパイどうぞ」
そのアップルパイは甘くてほんのり苦かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます