第16話 呼び出し

 コツコツコツコツコツコツ……


「ん……」


 朝、俺の優雅な目覚めはこの不快な音によって妨げられた。

 この音は……。嫌々ながらもカーテンを開ける。

 予想通り、窓を叩いていたのは紙飛行機であった。しつこいくらいに窓をコツコツと叩いている。

 風使いのフウトの仕業だ。


 ま、仕業と言ってもたぶん長から頼まれたんだろうけど。


 窓を開けると、紙飛行機はストンと俺の手の中に落ちた。


 開くと『来い』その2文字だけ。


 長には前置きというものがないんだろうか。


 俺、何かやらかしたっけ?

 またタカノの時みたいに急な旅だとヤだな。


 そう思いながら、身支度を手早く終えると、長の屋敷へ向かった。


「先日はご苦労。そろそろ仕事も落ち着いて暇かと思ってね」


「暇って……ようやく落ち着いたところなんだから、少し休ませてくださいよ」


「そうか。じゃあ次の仕事、コレね」


 鬼かよ。

 シュウも容赦無く資料を渡す。


「次は職人魂が要らない見学だからいいだろ。気分転換に旅してこい」


 長は気楽に言う。


「いや、旅の時点で休まらないから」


 でも、見学って珍しいな。

 旅の相手の名前を見る。


「ツチネ!? 無理無理無理無理。タカノの時も思ったけど、その何十倍も無理ですって! 何考えてんすか! 」


 まだ7歳だぞ。試験を受けてもいないガキを異世界に行かせたら、速攻不運にヤられる。


「ツチネ1人くらいお前なら守れるだろ」


「簡単に言わんでください! しかも場所は魔法の世界って!! 俺魔力ないのにどうやって防げと!? 」


 この里には数人魔法のような特殊能力を持つ人がいる。

 しかし、異世界先でも同じ魔法が使えるとも限らないし、制御できるかもわからないので行かないことになっていた。


 はずである。


 そんなルールは長の一言で簡単に覆るけど。


「先日のツチネの話を聞いて、土の使い方を学んできたらどうかと思ってね」


「そりゃ、使い道が増えればツチネも喜ぶでしょうが……魔法の世界じゃなくてもいいじゃないっすか」


 土木が盛んなとことか、もっとあるでしょうに。


「そこは……試験的な? 」


 あ、目逸らした。

 今後、魔法の世界も視野に入れるつもりだな。


「大丈夫だ。な、シュウ? 」


 俺が何か言う前に長はシュウに話をふった。


「2日前に行ってみたが1日程度なら危険も少ない。言語はこことほぼ変わらない。魔法に関する専門用語があるが、ツチネの歳なら知らなくても問題は無い」


「1日でそれだけ調べてきたのか?」


 相変わらず仕事が早いな。


「マナー等はまた追って調べる」


「準備期間は?」


「2週間だ。早い方がツチネもやる気が出るだろ」


 2週間!?

 タカノの時より短くなってるし。そんな短期間で準備する俺の身にもなってくれ。


「長は旅の主役には優しいけど、俺には厳しいっすよね」


 思わず愚痴るが漏れる。


「お前は信頼しているからね」


 長はそう言って微笑む。

 くそぅ。

 絶対掌で転がされてる。


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