第15話 原因

「わぁぁぁん」


 大きな泣き声の主はツチネ。7歳のませた女の子。

 その前にバツが悪そうに佇む、同じく7歳の男の子、リョク。悪ガキ。


 周りがなだめようとしているが、泣いてばかりで聞く耳を持たないようだ。


「おら、泣き止め。何があったか聞かせろ」


 俺は驚かせようと、ツチネの襟首を掴みひょいと持ち上げた。


 予想通り、ツチネは「ぎゃっ」と叫んで、泣き止んだ。

 それと同時に地面の波も収まる。


 よしよし。

 そう思っておろした瞬間、後ろから頭をスパーンと叩かれた。


「いってぇ! 誰だよ! 」


 振り返ると……げ、シンカ。

 俺が最も苦手とする女が立っていた。


「女の子を何て持ち上げ方してんのよ! 」


 仁王立ちで睨んでいるその姿は、どこかの異世界で見た鬼のようだ。前髪を含め髪をきっちりと後ろで結い上げており、前髪がないぶん、切れ長の目がよく見える。濃い青のアイシャドウがつり上がって、赤いリップが引かれた口はへの字に曲がっている。

 うおーこえぇ。

 


 シンカ、24歳。特技は、見ただけでその人のサイズがわかること。シンカの一族が里全ての人の服を作っている。特に異世界用の服は全てシンカが作っているので、俺としてもお世話になっている。

 非常にお世話になっているし、すごい腕前であることは認める。


 が、気が強く、何かとつっかかってくるので面倒臭い。

 できる限り関わりたくない人ナンバーワンである。


「うるせぇな。すぐおろしたんだからいいだろ」


「よくないわよ! だからあんたは女心がわかんないダメ男なのよ」


「はいはい。ダメ男で結構ですよ。で、何があった? 喧嘩か? 」


 こいつに構っている時間がもったいない。

 俺は早いところツチネの機嫌を直して帰りたいんだ。


 ツチネを見るが、怒った表情のまま何も言わない。

 反対にリョクを見る。が、そっぽを向かれた。


 はぁ〜〜めんどくせぇ。


「ツチネ、ちょっと来い。リョクも後で話聞くから家で待ってろ。あ、逃げるなよ」


ツチネを連れてリョクの目が届かないところへ行く。


「お前ら、しょっ中喧嘩してるよな。大体リョクがお前にイタズラするからだけど。

今回もそんな感じか? 」


「……イタズラじゃない」


「違うのか。じゃあ何だ? 」


「……ひどいこと言われた」


「何て? 」


「……」


 言いたくないようなことか?


「別に無理して言わなくていいぞ。リョクには後でよく言っとくから、機嫌直せ。な?」


 ツチネはまだ俯いたままだ。

 このままだと、また異変が起きそうだな。


 霞の里には、火、風、水、土の精霊に好かれる人がいる。好かれた人達は、それぞれの力を操ることができるようになる。言わば選ばれた魔法使いのようなものだ。

 ツチネは土の精霊に好かれた。そのため、ツチネの感情が高ぶると、先ほどのように力が制御できずに地面が揺れたり、ヒビがはいったりしてしまうのだ。


「ツチネ、お前が怒ると土の精霊も怒ることはわかってるよな?逆にお前が楽しいと精霊も喜ぶ。ムカついた時は何か好きなもの思い浮かべろ」


 とは言うものの、7歳じゃまだそんな気持ちの切り替えは難しいよな。

 何かいい方法ないかな……。


「コウ兄ちゃん」


「ん? 」


「わたし、役立たず? 」


「は? 急にどうした。リョクに言われたのか? 」


 ツチネはコクンと頷く。

 ったく、あのガキ。

 でも珍しいな。普段なら言い返しそうだけど。


「フウト兄ちゃんも、カナちゃんもカイくんも、みんな電気作って、役に立つこといっぱいしててすごいのに、お前は何もしてないって……」


 そりゃまぁ、他の3人は発電の部分でだいぶ役に立っている。ちなみに、フウト(18歳)は風、カナ(15歳)は火、カイ(12歳)は水の精霊に好かれている。そもそも3人はもうそれなりに働ける年齢なんだから7歳のツチネと比べてもなぁ。


 それに、土は難しいよな。ツチネの前の人は、災害時には土を操って土砂をせき止めたり火を消したりしてたけど、普段は畑の手伝いかのほほんと茶を飲んで過ごしてた記憶しかねぇ。婆さんだったし。


「心配しなくても、お前ももう少し大きくなれば、いろんなことができるようになるよ」


「ほんと? 」


 ツチネが顔をパッと輝かせる。


「ホント、ホント。そのためにも早くお姉さんにならないとな」


 そして、早いとこ感情を安定させてくれ。


「うーん。どうやったらなれる? 」


「そうだな……ツチネの憧れるお姉さんって誰だ? 」


「シンカ姉ちゃん!! 」


 げ、よりによってシンカかよ。


「んじゃ、シンカにくっついてろ。お姉さんがどんなものか、そのうちわかるだろ」


 願わくば、あんまり影響受けて欲しくないけど。


 ツチネは納得したのか、機嫌を直して早速シンカを捜しに行った。


 俺はそれからリョクの家へ寄る。

 リョクはふくれっ面で隅っこに座っていた。俺が近づいても背を向けたままだが、逃げなかっただけよしとしよう。


「お前、役立たずはねぇだろ。好きな子イジメも大概にしないとやり直せないくらい嫌われるぞ」


 そう。リョクはツチネのことが好きなのだ。


「うっさい!! オレ別に好きじゃねーもん!! 」


「はいはい」


 はたから見てたら丸わかりなんだがな。


「……ただ、あいつフウト兄ちゃんの話ばっかでつまんねーんだもん」


「はは。一丁前にやきもちか」


 笑って頭を乱暴に撫でる。リョクは「ちげーし」と嫌がるが、なんともかわいいもんだ。


「あとでツチネに謝っとけよ」


と、念を押してから俺は報告のため長の屋敷へ向かった。ツチネがシンカにくっついとけば、もしリョクが何か言ってきてもうまくやってくれるだろ。



「あーー疲れた。全然気分転換にならなかったし、さっさと寝よ」


 疲れた時は寝るに限る。

 俺は家に帰るとベッドに倒れこんだ。

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