第11話 偶然

「忘れ物を取りにきたんですが……お取り込み中の様ですね」


 にこやかに告げてみる。突然の訪問者に、強盗は戸惑いの表情だ。


「誰だてめぇ」


「誰でもいい、顔を見られたんだ。やるぞ!!」


 武器を振り上げて一斉に襲いかかってくる。


「二人とも! 逃げなさ―― うっ」


 サイハが大声を上げるが、背後にいた強盗の1人に殴られ、倒れてしまった。


「このやろっ! 」


 タカノがカッとなって反撃しようとするが、頭を掴んでそれを止める。


「俺が言ったこと、覚えてるな? 」


 俺はタカノに、家に入る前に言った言葉を思い出させる。


「奴らに触れない、触れさせない

 奴らに触れない、触れさせない……」


と、タカノはブツブツと復唱する。


「おし、大丈夫っす! 」


 俺達は、せーので逆方向に走りだす。予想通り、の強い俺に攻撃が集中する。

 その間、タカノは物陰に隠れながら、どうやって他の人に知らせるか必死に考えているようだ。


 この部屋にあるもので、大きな音が出そうなものはない。強盗に叫ばせたところで街までは届かないだろう。

 狼煙が一番いい手段なのだが、火の気もない。偶然火をおこすにはどうすればいいのか。かといって、部屋の中で火をつけるわけにもいかないしな。


 俺はかく乱するのに手一杯だし、考えるのはタカノに任せたい。

 よく考えろよ、タカノ。

 お前の腕の見せどころだ。


 俺もいい加減狭い部屋での鬼ごっこは疲れてきたし、ちょっとは人数減らしたいな。


 1人が振りかぶった刀をよけると、テーブルに置いてったコップに当たり、中の水が床にぶちまけられる。俺はそれを飛び越えて窓際まで走った。そして、追いかけてきた1人に捕まる直前に、垂直に飛び、頭上の柱にぶら下がった。


 ガッシャーン!!


 追いかけていたやつは、水で足を滑らせ、そのまま窓ガラスに突っ込んだ。


 おぉ、思ったより派手にいったな。悪い。

 だが、まぁってことで許せ。


 割れた窓の外には、裏手に広がる木が見えた。

 ふむ、なにかできそうだが……しかし、考えがまとまる前に、仲間をやられてさらに憤慨している男達が追いかけてきた。仕方ない、やっぱり考えるのはタカノに任せて鬼ごっこを再開するか。


 ただ、そろそろ動いてくれないかな。

 強盗といえど、俺の影響でけがをさせるのはあまりよくない。


 そう思ってタカノを見ると、こっそりこちらに向かおうとしていた。


 お、何か思いついたか?

 タカノの方へ駆け寄る。


「あの木に刀を刺したいんすけど」


と、タカノが耳打ちした。


 どうやら策を思いついたようだ。

 どれがいいかな。

 俺はタカノを死角に隠し、また逃げ回りながら強盗たちを見回す。

 盗賊の1人が持つ大きな刀が目に入る。


「あれでいいかな」


 大は小を兼ねるって言うし。

 戸棚の裏に隠れているタカノに目配せすると、タカノは小さくうなずいた。

 俺はまたタカノの近くまで行くと、「あいつ転ばせろ」とだけ伝えて部屋の中央に戻った。

 強盗たちはなかなか捕まらない俺に憤りながら、はぁはぁと息を切らせている。


「そこのあんたさ、そんなに太ってるから息が切れるんじゃねーの。その立派な刀もそんな図体じゃあ本来の力発揮できないだろーなー。俺がもらってやろうか?ほら、この棒の方がお前にはお似合いだよ」


 俺は、折れていた木枠の棒を拾いながら、できる限り嫌味な顔でおちょくる。


 強盗は「てんめぇ」と鼻息を荒く俺を見据えた。

 よーし、そのままこっちへこい。


「おら、捕まえてみろよ」


 走り出すと、強盗は刀を振り上げながら追ってきた。

 俺はそのまま、タカノが隠れている棚の近くを通って割れた窓の方へ向かう。


 強盗が棚の近くを通った瞬間、タカノがスライディングで足を引っかけた。


「うぉっ!」


 つまずいた強盗の手から、刀が飛び出す。


 俺の不運で刀がこちらに飛んでくるのは想定済みだ。

 俺は、待ってました、と手に持っていた棒をバットのごとく、刀の柄を打つ。

 刀は勢いを増して、ビィィィンと、目的の木に刺さった。


 よっしゃ!

 ナイスバッティング!


「てめぇ、よくも!!」

 足を引っ掛けられた男は怒ってタカノ目がけて走っていく。


 まぁ、そうだよな。

 あいつこれからどうするつもりだ?

 前に出てきたはいいけど、あいつは危機回避力が低いからどうにも心配だ。


 少し不安に思いながら見ていると、タカノは急いで足元にあった刀を拾い、男の攻撃を避けながら


「手がすべったぁーー!! 」


と思い切り振りかぶって刀をぶん投げた。全力で投げられた刀は、先ほど木に刺さった刀にぎぃぃぃぃいんと、金属音を出しながらこすれ、小さな火花を出した。


 なるほどね。

 だが、手がすべったはないだろ。

 不自然すぎ。

 さっきバットの如く打った俺が言うのもなんだけど。


 さて、火はつくかな?


 2人して盗賊達から逃げ回りながら、その様子をドキドキと見守る。


「あっ! 」


 タカノが外を指差す。

 そこには、落ち葉に小さな火がついていた。

 そこから、あっという間に火が木に燃え移る。


 街から早くも消火隊の鐘の音がする。

 随分早いな。

 こちらとしてはありがたい話だけれど。


 盗賊達は、慌てて逃げようと、外へ飛び出そうとした。が、ドアの足元にはモップが引っかかっており、そこでドミノ倒しに重なり合った。

 「おい、どけよ」「お前が先にどけ」と、お互い足を引っ張りあっているうちに、駆けつけた警察に取り押さえられた。


 勿論俺達は、事情を聴かれると面倒なので離れたところに急いで隠れる。


 駆け付けたサイゾウは、安全な場所に避難させていたサイハを見つけ、必死に呼びかけた。

 サイハはゆっくりと目を開け、「すまなかったな。お前にはさみしい思いをさせた」と、サイゾウの目をしっかり見て言った。


「じいちゃん……!」

 ようやく自分を見てくれた祖父に、サイゾウは涙をこぼしながらサイハの手をにぎりしめていた。


 サイハはそのまま病院へ搬送された。

 俺達も身を隠しながら、病院へと急ぐ。


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