第8話 残り2日

 俺は帰り道、これまでのことを整理することにした。


 サイハが明後日『迎えに来る』と言っているのは、命日という話からしても、恐らく息子のサイジのことだろう。

 実際にはなんてなさそうだから、サイハ自身が何か行動を起こす可能性がある。

 看取って欲しいってことは、そのときに、誰かが近くに人がいて欲しいってことか?

 自殺ならすぐに発見して欲しいってのも変な感じがするし……何かを成し遂げるところを見届けて欲しい、とか?


「そんなもん、尚更俺らじゃダメじゃん」


 俺は頭をガシガシとかく。

 なんとかサイゾウと変わってもらうしかないかなー。



◇◇◇

「そういえば今日、街で偶然サイジ工場のオーナーを見かけました。働きすぎではないかと、サイハさんの体調を心配していましたよ」


 夕食時にそれとなく話題を出してみる。

 サイハには忘れたい記憶かもしれないが、俺としては全部思い出して役目をサイゾウに引き継げたら万々歳だ。思い出したらなんて言わなくなるかもしれないしな。


「ふん。バカ息子に心配される覚えはないわ。機械に任せるから身体が鈍るんだ。その点ワシは――」


 と、そのまま筋肉自慢が続く。 タカノは、それを聞きながら力強く頷いていた。


「『バカ息子』……ね」


 俺はそっと呟いた。



 その晩、タカノに昼間の話を伝えた。


「えっと、つまり……どういうことっすか?」


 タカノは首を捻る。


「とりあえず、明後日にサイゾウが来る。できればその前に『職人魂』を取って姿を消したい」


「ちょっと待ってください!サイハさんがもし病気とかじゃなく、死ぬっていうのなら……」


 タカノの顔が真っ青になる。

 まぁ、病気じゃないってんなら、そこに行き着くよな。


「俺らに止める権利はない。それで止めたら、俺らが影響したことになる」


「でもっ!」


 気持ちはわかるよ。

 でも、ダメだ。


「そもそも最期を看取るのが条件だろ」


「……じゃあ、看取る前に消えるのも条件違反じゃないっすか」


 タカノはムッと俺を睨んだ。


「その為に身内のサイゾウさんを呼んだんだ。俺らより適してるのはお前だってわかるだろ」


 俺はタカノを睨み返す。


 タカノは、反論したくても言葉が出てこないようだった。

 里の掟は絶対だ。

 俺は、サイハに条件を出された時にちゃんと忠告したはずだぞ。深く考えなかったのはお前だ。


「今さら後悔するな。自分の発言に責任を持て。最善の方法を考えろ。俺からは以上だ。とっとと寝ろ」


 俺はそう言い残して、さっさと布団に入った。

 寝ててやるから一人でしっかり考えろよ。

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