第6話 ふさわしい人
翌日、買い出しの合間に本屋に行ってみた。
『体調が心配なときはこれ1冊』
『病気辞典』
『死ぬ前にしておきたいこと』
病気のコーナーにはいろいろな本が並んでいる。
ひとまずこれかな。俺は『死期が近づいたら』というタイトルの本をパラパラとめくった。この本を見る限り、里と同じく老衰か病死が主な死の原因っぽいな。
それから、俺は病気コーナーだけでなく怪しげな『占い』だとか『
やっぱりお迎えってのはサイハが思っているだけなんだろうか。
サイハが思い込んでいるだけで、死なないのであればそれでいい。
ただ、本当に死期が近づいていて、職人魂を取り出せないうちに亡くなられるのは困る。だから、できるだけサイハがなぜ死ぬと思ってるのか知りたかったんだけどな。
ま、ここまで調べてわからないものはしょうがない。
俺は気持ちを切り替えて、俺たちよりよっぽど看取るのにふさわしい人を探すことにした。
◇◇◇
12日目。なかなか時間が取れなかったが、ようやく俺はサイジ工場へときていた。
やっぱり看取るって言ったら親族だろう。息子は結局よくわからないし、サイゾウに聞くのが一番早い。受付でサイゾウをお願いすると、すんなりと事務室に通してくれた。
「まだこの街にいらっしゃったんですね。今日は何でしょう?」
サイゾウがコーヒーを持ってきてくれる。この世界のコーヒーは激苦だからあんまり好きじゃないんだけど……そろそろお腹に入れとかなきゃ不運が起こりそうだから、ありがたくもらっとこう。俺は覚悟を決めて口をつけた。
う……やっぱりにがい。
それから俺は、今サイゾウのところにお世話になっていることを簡単に説明した。
「あの堅物じいさんが弟子入りさせてくれるとは、よほど腕がいいんでしょうね」
「まぁ、ちょっと条件は出されましたが」
「条件?」
「えぇ。それについて、ちょっと聞きたいことがありまして。明後日ってサイハさんにとって大事な日ですか?」
早速本題に入る。なんたって期日は明後日だ。雑談している暇はない。
「明後日……どうしてです?」
眉がピクリと動いた。
何か思い当たるものがありそうだ。
「明後日、自分が死ぬので最期を看取って欲しいと言われました」
サイゾウは驚いて目を見開いた。初耳だったらしい。
「体調が悪そうなんですか?」
机をバンと叩き、身を乗り出す。本気で心配しているようだ。
「いや、こう言ってはなんですが2日後死ぬと宣言されているような身体には見えません。だから不思議に思いまして」
「そうですか……」
サイゾウはゆっくりと椅子に座り直すと、そのまま下を向いて考え込んでしまった。
サイゾウに思い当たるものがあれば、それを払拭してしまえば死なずにすむんじゃないか?
俺らがそこまで踏み込んでいいかちょっと迷うけど。
「言いにくい話なら結構ですよ」
俺は気にしてないんで、という風に首をすくめてみせる。
それから、「もう一つ、聞いてもいいですか?」と、俺はもう一つ気になっている違和感を聞いてみることにした。
「あなたは誰ですか?」
サイゾウは怪訝な顔をして、「どういう、意味です?」と首を傾げた。
「サイハさんの口からサイゾウさんの話が出ないんですよね」
「そりゃあ、嫌われてますから」
「そもそも、それが変なんですよ。機械化を言い出したのはご両親ですよね。ご両親が嫌われているならわかります」
「両親のことも嫌っていますよ」
「しかし、サイハさんは息子さんのことはよく話題にしています。あなただけ話題に上がらない。なぜです?」
サイゾウは、ふぅ、と深くため息をついた。
「私は、確かにサイハの孫のサイゾウです。ただし、祖父は私のことを覚えていない。いや、正確には私を息子のサイジだと思っている、と言った方がいいですね」
孫を息子と間違えている?
ぼけているようには見えなかったけどな。
「どういうことですか?」
「グイグイきますね」
サイゾウは苦笑した。
「気になったことは質問したい
「本当の願い?」
「俺は、本当に『看取って欲しい』人が他にいると思っています。いきなり押しかけた他人の俺らではなく……ね」
サイゾウは背もたれに寄りかかり、天井を見た。そして、姿勢を正して、俺をまっすぐに見る。
「わかりました。少し、昔話をさせてください。」
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