第3話 風の吹きて、波の立つ
金五郎は、“うめ”の縁談について、其れとなしに聞いている自分に気づいた。聞いて回る様な事は、憚られた。しかし、“うめ”の相手は、組こそ違えど同じく大番組。顔も知らぬ間柄ではあったが、まぁ、男ばかりの寄り合いであったとて、色に通じる話しは。殊に、出回るのも広がるのも僅かな時間だ。ましてや慶事で有れば尚更と言えた。幾日も、しないうちに唐変木の金五郎にも、凡そのことは、分かった。この話しを、纏めたのは御書院番一番組頭の、
金五郎の父、和田平助は現君の覚えめでたき人であった。然し、父に言わせると「お殿様が、俺の様な者に目をお掛け下さるのは剣一筋にて、融通も効かぬ朴念仁だからよ」と、なる。お殿様は、二心を持ち私に尽す御人が酷くお嫌いだ、との事であった。成る程に父はヤットウと酒さえあれば、満足の人であった。さて、水口様であるが、野心家であiiるが故に、ご多聞に漏れず味方も多いが、敵も多い、筆頭は同じく御書院番二番組頭、
どの様な事情であれ、宮仕の若輩者が“うめ”にしてあげられる事などない、知り合いなどと知れたなら“うめ”にどんな迷惑があるか知れたものではない。密かに“うめ”が心安からんことを祈るのみであった。
そして、“うめ”が奥入に嫁いでから早くも、半年が過ぎた。因果は回る糸車とは、誰が言ったものか?あれ程に精力的に権力を求め動いていた水口様が卒中により呆気なく不帰の旅路へと旅立った。これが思わぬ波紋を呼び、始めは
金五郎は、師走の風が身を切る様な昼下がり、二の丸廓の近くにある父が師範を勤める道場の裏手にある社に呼ばわれていた。相手は、奥入勘兵衛とその友人二人であった。
「和田金五郎、よくも、恥ずかしげ無く来れたものだな!」 「申し訳無いが、某の何に怒っておられるのか、分かりかねます」
「俺がことは、分かるか?」 「大判組頭奥入蔵人様の御嫡男、勘兵衛様で御座りましょう」 「あぁ、その通りだ、であれば分かろう俺が妻のことだ、“うめ”がことよ!」
「何を、仰いますことか?“うめ”様と某に関わりなど御座りません」 「拙者が、“うめ”を娶る前には、貴様が昵懇の仲であったと、あれの実家に近い所の者が言うておったわ!」 「何を、仰るかと思えば」「他人の讒言など、取るに足らぬことを」 「取るに足らぬと言えば、”うめ”のことよ、十五なれば、色気もこそも無いのも分からんではない」「然し、ああも、愛想のないことは」「抱いてもつまらん、まるで、丸太を抱くようなものでな、そう云った、取るに足らぬ者でも、我が物となれば放っても置けぬ」 「たとえ己が女房であろうと、何足る
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