第23話 宮司《ぐうじ》をやれ

 2月も終わって3月も半ばになる頃には、アミーこともう 惟秀これひでの状態は、呪いは解除されなくとも落ち着いてきていた。

 彼はスコーンを食べきり、当たりスコーンも何もかもを消費した結果、呪いにより被害にあう頻度ひんどは以前に戻り、被害の程度の方はずっと小さいものになった。


 その代わりと言っては何だが、彼の周辺についての幸運効果の方も小さくなった為、大企業による工場の建設は続いているものの、商店街については元の閑散かんさんとした状態に戻りつつあったのだ。


「イクちゃん、何で商店街の方は駄目になってきてるんだろう? 他は割と上手く行ってるのに」


 アミーとしてはこの点は気になるらしく、桜前線も北上してくるかもしれないという週末の日曜日に、守護者であるカワウソモドキに聞いてみることにしたのである。


「スコーンのターゲットは私だったのだ。私との関わりが低いところは、効果が長続きしないのであろうな。商店街は米子よねこさんのところぐらいなのだ」


 非常に珍しい存在なのだが、この地域にもひそかな人気店というものがある。お焼きの店『お焼きジョップ』がまさにそれで、店主である所扶じょっぷ米子よねこ氏の人柄も良い所為せいか、ここでは非常に息の長い店なのであった。


「そうか、マンマーTVは株を持ってるんだよね。五十山田いかいだ社長も知り合いだって言ってたな。工場を建てに来てる企業とはどんな感じなんだい?」


 アミーとしては、永くこの地に居座る妖怪的存在が、経済的影響力も持っていることを不思議に思ったのだ。


「あれらの企業とはな、少しだけ付き合いがあるのだ。オカルト的な側面というのは、普通の社員たちから歓迎されんから滅多なことは言うなよ」


 イクちゃんの話によると、ここに進出してきた大手企業4社については多生の縁があるらしい。なかなかあなどれない影響力だとアミーは思った。


「それよりなアミー。呪いが小康状態の今のうちに話しておきたい。アミーには、ここの宮司ぐうじを兼業してもらう必要がある。それによって安全が確保出来る場合もあるのだ」


 イクちゃんが言う内容はアミーにも分かった。そういった資格を一応自分は取ったのではなかったか、とアミーは懐かしい記憶を掘り起こした。


「イクちゃん、俺も憶えてない部分があるんだけど、呑舞どんまい大学でさ選択科目で取ったような気がするんだ……」


 実は呑舞どんまい大学では、神職養成の為の『普通課程I類』と『普通課程II類 』を受講することが出来るのだ。

 アミーはそれをもって、学生時代に権正階ごんせいかいの資格を取得し、さらには研修まで受けたのであるが、今まで神社に縁が無かった所為ですっかり忘れていたのだった。

 アミーはそれについては正直にイクちゃんに話した。


「丁度いいのだ。うちは神社本庁の包括下に無い神社だからな。アミーに権正階ごんせいかいの階位があれば宮司ぐうじをやることは可能なのだ」


 アミーにとっては、取得がさらに大変な教員免許と同じぐらい意味のない資格だっただろう。だがここに来て、思わぬ不幸から権正階の階位は役に立とうとしていた。


 神社本庁とは、日本各地の神社を包括する宗教法人であり、伊勢いせ神宮を本宗(トップ)としている。

 だが呑舞どんまい神社は、これらの系統に属さない単立たんりつの神社なのだ。したがって階位としては下から2番目の権正階ごんせいかいでも、宮司ぐうじをやる要件を満たしていた。

 まつられているのが、万魔まんま佞狗でいくという因習村の神のような存在なのが難点ではある。だがイクちゃんは、公式ゆるキャラとして巻き返しをはかっている最中なのだ。上手く行けば、エジプトのメジェド様と同じぐらいに人気が出る可能性はある、とその様にアミーはぼんやりと考えた。


「イクちゃん、そういうことなら俺も頑張るよ。あの資格をどうして取ったのか、実はよく憶えてないんだ。アレが役に立つのは嬉しいけどね」


 アミーにすれば、単位の為に何となくで始めて、結局は最後まで取ってしまった資格ではある。だがそれは、アミーの新しい生活の足がかりになろうとしていた。



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