第21話 ピックアップトラック?

「イクちゃん、心の狭いことを言う人は居ると思う。でもこいつは、ピックアップトラックじゃないし、ランドクルーザーでもない。もちろん農作業車両でもないんだ。ハーフトラックでも良いと思うんだ」


 アミーはイクちゃんに力説した。今は認識阻害そがいの術が働いているため、彼はただ駐車場に立っているだけに見えるだろう。


 普通はハーフトラックと言えば、後輪部分がキャタピラになっている車両だ。だがマサオは4輪車である。

 後ろが荷台になっている車種はピックアップトラックと呼ばれるが、マサオの場合にはずっと小さく、ノーズ部分も短くて買い物に使うような小型車的風貌をしていた。全長も全幅も標準的なピックアップトラックに及ばない。


 しかしながら、排気量は軽トラよりもあって1800ccだし、意外なことにハイブリット車で、居住性が普通乗用車並に高く、全長が少し長くなってしまうが、取り回しも楽という良いとこ取りな車なのだった。アミーの中ではだが。


 世間的には、荷台の広さも中途半端、馬力は弱くオフロードにあまり向かず、車色がレトロ寄りでデザインがダサい、ハーフトラックというのにだまされた、ピザ屋のスリーターの方が使い道がある、などと散々な言われようで本当に売れなかった。


「とにかくな、お主の気に入りようは分かった。ちゃんと直しておくから、いい歳の男がこういうことで泣くな。色々と追加しておくから任せるが良いのだ」


 イクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくは、得体の知れない土地神的な頼もしさで車の修理を請け負った。この土地に封じられているという建前たてまえの元、2千年の長きにわたりボケ倒してきたのは伊達だてではない、という貫禄かんろくすら漂っているようだ。


「イクちゃん、ありがとうございます。それと会社が大きくなるみたいなんだ。これって良いことだし、スコーンの影響かな?」


 アミーこともう 惟秀これひで(身長178センチ)は、目下もっか気になっているもうひとつのことも聞いてみた。

 彼の愛車マサオは、燃料タンク以外が壊滅的なダメージを負ったのだ。普通なら廃車になるところである。その被害は、会社の発展というふくをもたらしたのではないかと考えることは出来た。


「状況を見るにミートボールの入っておるヤツであろう。返ってくる福の方が大きいから小吉しょうきちというところだな。身体ダメージが無いのは、清子せいこが後から作ったヤツの効果かもしれん」


 あのスコーンはやはり、食べた分だけ何かの影響をアミーに与える物であるらしい。

 しかしアミーの方は、清子せいこ嬢がプレゼントしてくれたチョコスコーンが、自分を救ってくれたのかもしれないという話に感動していた。


「俺……やっぱり、愛、なのかな……」


 アミーはそのまま、どこまでも自分に対して都合の良い妄想もうそうの迷宮へと旅立ったように見えた。


「アミー、まだ当たりも3個残っておるし、1個につき何かあるというわけでもないようなのだ。それより、早く現世に戻ってくるのだ」


 イクちゃんはそう言うと、アミーの顔に吹き矢を吹き付けた。


「ぐぁぁぁ! ハギョレモォォォ!」


 アミーはおでこを押さえながら、駐車場をのたうち回ったが、妄想もうそうの迷宮から早く現世に戻ることが出来たようだ。


「酷いじゃないかイクちゃん! こういうのは反則だろ。なんでか血も出てないけど、猛烈に痛かったよ今の」


 アミーは抗議したが、就業中の身の上でこれ以上無駄な時間を過ごすのは、社内規定に反する行為ではないのか、というような状態であることに気がついてオフィスに戻ることにした。


「怪我はしとらんから大丈夫なのだ。それと今一いまいち自動車産業の『マケレル』をくれてやるから機嫌を直すのだ。最初のデザインのヤツだぞ」


 イクちゃんは、短い吹き矢筒を袖の中に戻しながら、自信満々にそう言ってのけた。


「本当に!? 約束だぞ。アレ、欲しかったんだけど、初期型の方はもう売ってないんだよ。アレで会社に来たいなぁ」


 もらえると聞いて、アミーが子供のように喜ぶ『マケレル』とは、今一いまいち自動車産業が製造するスリーターである。今でこそ明るいカラーの丸いデザインだが、初期型はツヤ消しのダークオリーブ色で、その上武骨なカクカクした外観の売れない車両だったのだ。



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