第13話 事件の終わり

「これは……良かったと言うべきだが意外な結果なのだ。本当にアミーに戻ったのだな。キヨコから見るとどうかな?」


「そうね、アミーさんって感じだわ。ここに初めて来てくれた時の自己紹介もそうだったわね。懐かしいわ~」


 イクちゃんやキヨコ氏が見ても、惟秀これひではアミーであるらしい。成功と呼んで良い結果にアミーは内心で喜んだ。ついでに清子せいこ嬢から「お兄さん」と呼ばれたことについて、これまたほっこりした気持ちになったらしい。まことに男30歳なのであった。


「次は清子せいこさんの番だな。イクちゃん、何か適当な賦活ふかつドリンクはないかな。似たようなヤツの方が良いと思うんだ」


「それについては良いものがあった。この賦活ドリンク『清子100%』なら安全に飲めそうなのだ」


 元に戻ったアミーの声に答え、イクちゃんは新しい緑の小瓶こびんを出してきた。ラベルには『清子100%』と書いてある。


 アミーとしては、胸中に漠然ばくぜんとした不安が広がる様な名前であるものの、これならキヨコさんでも、セイコさんでも、サヤコさんでも、スガコさんでも飲めそうなのは安心要素だとそう思った。


「今度は私がこれを飲めば良いのね? このラベルって細い字で達筆だし、文字が白いのにすみの匂いがするのね。小さいけどフダみたいな物なのかしら……」


 民俗学専攻の清子せいこ嬢は、見ているアミーが気になる事をつぶやいたものの、小瓶のフタをひねって開けるや中身を飲み干した。


「もう5分ぐらい待ってみよう。それから、清子せいこさんがフリガナを振ることが出来るか試してもらおうか」


 そう言うアミーにとっても、緊張感のある時間が流れた。彼としては、それなりに大変だったであろうこの女子大生が、微妙かつ不便な状態から解放される事を心から願っていた。


「そろそろ良いのではないか? では清子せいこには何かの書類に名前を書いてもらうのが良いだろう。このマンマーTVの、番組追加申し込み書でいくか」


 イクちゃんが出してきた書類は、アミーの勤めるマンマーTVの『番組追加申し込み書』だった。会社の株の5%を保有していると、書類でも何でも社内から持ってこられるものであるらしい。






「書けたわ。私の名前のフリガナ……セイコって書けた。私、わた……」


「良かった。もうお母さんが代筆しなくてもいいのね。カワウソさん、アミーさんも本当にありがとう」


 フリガナが書ける様になった清子せいこ嬢は泣き出してしまった。そんな娘を代筆で支え続けたお母さんも嬉しそうだった。


 アミーこともう 惟秀これひでは、涙腺がゆるくなりながらも、何もかも上手く行って本当に良かったとそう思った。


「本当に良かった。番組の追加申し込みの方も是非ご検討下さい。イクちゃん、今日はこれで失礼させてもらおう」


「そうだな。何となく色々とに落ちた気分なのだ。古い技術については見直しが必要かもしれん。京の陰陽師達が、ここに結界を張った時の丸パクりは不味かったのだ」


 こうしてアミーとイクちゃんは、色々とやりきった感に包まれて、女鹿田めかだ家からアパートと神社まで戻ったのである。






 翌日の日曜日は、まだ3月の上旬で肌寒いものの、少しづつ春の陽気も押し寄せて来たのか穏やかな晴れた日だった。


 そんな日の呑舞どんまい神社で、普段は本殿か不明の空間にいるイクちゃんが、境内けいだいに植えられた桜の蕾の様子をしげしげとながめながら独りごちていた。


「ふむ。何か忘れておるような気がする」


 イクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくとしては、アミーこともう 惟秀これひでの願いを聞いて、昨日は拝殿に置かれたスコーンの謎を追いかけたのだ。謎の方は判明したし、その原因は取り除かれたはずだった。


「わぁぁぁ! 助けて、イクちゃん! わしが襲って来たんだ。呑舞凧どんまいだこだぁぁ!」


 神社の前の坂を駆け下りてきたのは、ビリビリのパーカーを着たアミーだった。

 彼を猛追もうついしながら攻撃を加えているのは、翼長4メートルにもなるこの街に特有の生物だった。呑舞凧どんまいだこと呼ばれるわしである。

 この手の生物は、かつて陰陽師たちがはなった式鬼しきが自然に帰ったものなのだ。


「イクちゃん、俺の、俺の呪いの方がまだ解けてないよぉぉぉ!」


 万魔まんま佞狗でいくはようやく、昨日やり忘れたことを思い出した。そして被害の間隔が短くなっていることを不思議に思ったのだった。



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※一応、この物語は終わりなのですが、気分転換に使えそうなので、時々は続けることにしました。1800文字前後って書くのが楽だったりします。


※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。

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