第12話 怪決策

 清子せいこ嬢が何故なにゆえに、神社の拝殿はいでんの前に呪いのスコーンを置きに行ったかは判明した。

 そして彼女の目的は、非常に遠回りな経路を辿たどって達成されたと言ってよいだろう。週末の土曜日である今日、ケーブルテレビの社員であるもう 惟秀これひでが、彼女が会いたいと思っていた土地神の万魔まんま佞狗でいくを連れて家まで来たのである。


「イクちゃん。どうやら女鹿田めかださんは今の状態に困って、イクちゃんを頼りたかったみたいだ。ところでそのドリンクなんだけど、飲んで効果が相殺そうさいできそうな物は無いかい?」


 本日のみ暫定ざんていジョージであるもう 惟秀これひでは、自分は解決策になりそうな事を言ったのではないかと思いながら、隣に座っているカワウソ型ニセゆるキャラに聞いてみた。


「あなたが万魔まんま佞狗でいくなのね。お母さんから、昔カワウソが助けてくれたって聞いて、あなたなんじゃないかと思ったの。私……仏壇に置いてあったアレを飲んだわ。お母さんと同じ名前だったから……」


 清子せいこ嬢が名前のフリガナをキヨコとしか書けなくなってしまった原因は、暫定ざんていジョージのにらんだ通り、例のドリンクを飲んだ所為せいであるらしい。

 幼い日の彼女がドリンクを飲んでしまったのは、母親の事が大好きだからという単純な動機の為であったようだ。

 彼女がイクちゃんを頼ろうとしたのは、民俗学を学ぶ過程で、母親を難病から助けてくれた存在が土地神である可能性に気がついたからだった。

 

「理由については理解した。しかし不思議なこともあるものだ。自分の名前のフリガナにだけ影響があったのか。やはり18歳未満は飲んでは駄目なのかもしれん」


 イクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくはしれっとそう言うのだが、暫定ざんていジョージとしては「年齢は関係無えだろ!」と突っ込みを入れたいところだった。

 そして暫定ざんていジョージはその時に、イクちゃんの手元を見て妙なアイデアがひらめくのを感じた。






「イクちゃん、今持ってる『俺がガニーだ』って名前のドリンクなんだけど、それって副作用はあるかい?」


 暫定ざんていジョージは自分の思い付きに従い、その「最早何も言うまい」というべき名前のドリンクについてイクちゃんに確認してみた。


「ジョージ、これは普通の健康ドリンクだ。栄養が豊富なのは認める。海兵隊に入れそうな体力も一瞬だけ身に付くのだ」


 イクちゃんの答えを聞いて、それは普通のドリンクではないのではないかと思った暫定ざんていジョージだったが、とりあえずは思い付いた事を伝え実験台になることを申し出ることにした。


「それじゃあ、同じインクを使って、ドリンクの名前を『俺がアミーだ』に変えられないかな? 俺がそれを飲んでみるよ」


 キヨコ氏と清子せいこ嬢が興味深く見守る中、イクちゃんは暫定ざんていジョージの言葉にうなずくと「少し待っていてくれ」と言って姿を消した。


「あの……ジョージさん。本当に良いんですか。私は迷惑をかけちゃったみたいだし、ジョージさんも大変な目にあってるのに……」


 清子せいこ嬢はおずおずと暫定ざんていジョージに声をかけたが、彼はそんな彼女を手で制した。一度はやってみたかった仕草しぐさであるに違いない。


「2人とも聞いてください。女鹿田めかださんも病気から回復したそうだし、こういう話はめでたしめでたしで終わらなくちゃ駄目だ。それにうちのお客様で、ドキュメンタリー番組まで契約してもらって、私としてはキヨコさんに恩があるんです」


 暫定ざんていジョージはどさくさにまぎれて、一生に一度は言ってみたい台詞の方まで言ってしまった。アミーのままでは絶対に言えない台詞だと、彼は内心でそう思った。

 そして10分もしないうちにイクちゃんが戻ってきた。片手には『俺がアミーだ』が握られているようだ。


「ジョージ、お望みの物を持って来たぞ。本当に効果があれば、私としては色々な事に応用出来るから良いのだ。では早速、飲んでみてほしい」


 イクちゃんが差し出してきた茶色い小瓶こびん暫定ざんていジョージはためらいもせずに飲んだ。


「ウソ……ケーブルテレビのお兄さん、とってもアミーっぽくなったわ! そう言えばもうさんって名前だったっけ」


 呪いのスコーンを作ってしまう様な清子せいこ嬢ではあるが、その現象をの当たりにした彼女の声は驚きにまみれていた。


 奇跡と呼んで良いのかどうか定かではないものの、暫定ざんていジョージは土曜日の間にアミーに戻ることが出来たようだった。



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