第9話 訪問2

「ジョージ、やっと見えてきたぞ。あそこが対象者の住んでいるマンションだ。オーナーと知り合いでな。建物の名前が『ディズィネス五十山田いかいだ』とかいうのだ」


 ドリンクの副作用で、今日だけはジョージになってしまったもう 惟秀これひではようやく今日の目的地に到着した。

 案内をしてくれたイクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくは、目の前のマンションのオーナーと知り合いであるらしい。


 ケーブルテレビ会社に勤める暫定ざんていジョージは、実はこのマンションのことをよく知っていた。

 ディズィネスとは英語で『目眩めまい』の意味であり、建物の登録の際にいかに適当な名前をつけたか、オーナーの性格が分かろうという代物だった。

 それは高層建築物に付けて良い名前でもなかった。建物は32階建てなのだ。


「イクちゃん、あそこに住んでる女子大生ってすごくないかな? 家族と住んでるんだよな? ややこしい事にならないと良いけどなぁ……」


 暫定ざんていジョージとしては、今の台詞を言うべきではなかったかもしれない。現在、この街で最もややこしい事件に巻き込まれているのは、暫定ざんていジョージこともう 惟秀これひで本人なのだ。

 例え明日から通称アミーに戻れるのだとしても、高層マンション住まいの女子大生にビビっている場合でもないのである。


「ジョージ、名刺は持っているな。では20階の10号室が目的地だ。キヨコがいてくれたら良いのだが。そうでない場合には誤魔化ごまかすしかないのだ」


 意を決した暫定ざんていジョージは、マンションのロビーに足を踏み入れた。






女鹿田めかださんで思い出すべきだった。イクちゃん、ここはうちの会社のお客様の家だ。時代劇とか映画とか、ドキュメンタリーの番組パックの契約まであったんじゃないかな?」


 暫定ざんていジョージこともう 惟秀これひでは、入社してまだ日が浅い頃にここで契約を取ったことを思い出した。

 その時の暫定ざんていジョージにとって、女神の様な女性が女鹿田めかださんだったのだ。


「そうか、ジョージも女鹿田めかださんを知っておるのだな。ドキュメンタリーも見るとは。あの時に助けて良かった」


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▪リチャード・マック・マコウィッツ

▪ナイジェル・マーヴェン

▪ロナルド・リー・アーメイ

▪ベア・グリルス

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 偶然ではあるが、暫定ざんていジョージとイクちゃんの、ドキュメンタリー俳優を4人言ってみようは見事にかぶった。

 

 つまり女鹿田めかださんも、この両名にすれば滅多な真似まねはやりたくない相手なのである。


「とりあえず、女鹿田めかださんがドアホンに出てくれることを祈ろう。イクちゃんは相手があの人なら、姿を見せて事情を聞いてもらえないかな? 今回の相手は女鹿田めかだキヨコさんの娘さんだよね……」


 今回の接触したい相手は、暫定ざんていジョージとイクちゃんの共通の知人である、女鹿田めかだキヨコの娘である女子大生の女鹿田めかだ清子せいこ(21歳)なのだ。


「その方が話が早そうだな。ではさっさとインターフォンを押してみてくれ」


 イクちゃんに促されて、暫定ざんていジョージは20階10号室につながるインターフォンのボタンを押した。






「はーい、どちら様? あら、どこかでお会いしたかしら?」


 向こうのカメラには、暫定ざんていジョージの顔が映っているのだろう。

 幸いな事に、インターフォンに応じてくれたのは母親のキヨコの方であった。


「あの……マンマーTVの者です。実は今日は、色々と聞いていただきたいお話がございまして……」


「ジョージはいつもそんな事をやっておるのか? キヨコだな? 私だ。あの雨の晩に会った万魔まんま佞狗でいくだ」


 ケーブルテレビ会社の営業としては、暫定ざんていジョージの切り出しはクソも良いところだった。見かねたイクちゃんが割り込んだのはそれが理由だろう。

 イクちゃんは姿が普通に認識出来る様にして、インターフォンのカメラに映りこんだのである。


「ウソでしょ。あの時のカワウソさんなの?どうして今日ここに……」


 どうやら女鹿田めかだキヨコ氏は、昔に出会ったイクちゃんの事をおぼえてくれているようだった。



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