第7話 健康ドリンク

「アミー、もう良い時間だ。起きて食事をするといい。朝食の用意をしておいたぞ。まずは顔を洗って髭を剃るのだ。風呂に入るのも良いかもしれん」


 アミーこともう 惟秀これひで(30歳)にとって、週末の朝は遅い。

 ただし今日だけは、特別な日であったことを目が覚めた彼は思い出した。


「おはようイクちゃん。どうして俺の部屋に居るのかは聞かないよ。まだ朝の7時だし、具体的な時間は決めてなかったけど、遅刻とかじゃないよね?」


 アミーとしては、イクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくがアパートの部屋にいることに驚いたが、その事についての文句は出すわけにはいかない事情がある。

 そしてベッドの横のちゃぶ台には、作りたての朝食があって、狭いキッチンには黒子くろこの様な格好の人影まで居た。身長2メートルはあるだろう。


「遅刻はないから安心してほしい。あそこに居るのは『黒子くろこさん』だ。私の配下の者だ。全身が黒いからおぼえ易いと思う。支度したくは今から必要だ」


 イクちゃんから言われたので、アミーはモソモソとベッドから出ると、洗面所へとパジャマのままで向かった。

 助けてくれと頼んだのは自分だ、という自覚はアミーにもあったが、だからと言って、いきなり人の生活スペースに押し掛けないでほしいと彼は思った。


 アミーが顔を洗い、さっぱりして戻ると、

ちゃぶ台の上のトーストとベーコンエッグの横で、黒子さんがコーヒーをれてくれているところだった。割と本格的に見える。


「すごく美味しいパンだ。こんなことまでしてもらって何だか申し訳ないよ。あ、ありがとうございます」


 黒子さんの用意してくれた朝食は、シンプルながらプロの味がするという満足のいく内容だった。バターとコーンスープまで出てきたので、途中でお礼まで出てしまったのである。


「シャワーを浴びるとか何とかしたら、早速だがスコーンを焼いた女性の家に行ってみよう。女鹿田めかだ清子せいこという名前のはずだ。まだ女子大生ではないかな」


 アミーとしては、独身の30歳男として今の内容に少しひるんだ。相手は一面識も無い学生だし、自分は社会的に死なないだろうかと思った。


「アミー、ここはひるんでいる場合ではないのではないか? 相手は割と美人の部類に入る若い女性ではあるが、妙なスコーンに呪いの効果を乗せる相手なのだ。これでも飲んで、気合いを入れた方が良いのだ!」


 続けて出てきた、美人の部類に入るという情報を聞いて、アミーはますます弱ったが、イクちゃんの出して来た小瓶にとりあえず目を向けることにした。

 小瓶のラベルには『健康ドリンク 男働きざかりジョージ』とそう書いてある。


「ありがとう、イクちゃん……。これ、メーカーの名前とか無いけど、中国とかで作ってるヤツかな? うちの地元にこういうの作ってる店があるとか?」


 アミーは冷静さを取り戻しつつあった。相手は、土地神様のような存在でとにかく普通ではない。

 そういう存在が出してきた健康ドリンクとは、如何いかなる物であろうか判断がつかなかった。

 ドリンクの名前の方は、万人があやしさしか感じない独特のものがある。


「うむ。説明は必要であろうな。それは私のところで作っておる物だ。効果としては積極性が少し上がり、社会人としてこなれた頼りがいのある雰囲気▪▪▪が出る▪▪▪のだ」


 イクちゃんの今の説明を聞く限りでは、アミーにとってデメリットというものは無さそうだった。

 今日の相手は普通の女性ではなさそうであるし、アルコールでもない為、景気付けに飲むには良い物かもしれない。アミーはそう思った。


「それじゃ飲ませてもらうよ。どうやって訪ねようか、実は考えてないんだ。何か良い知恵は無いかな?」


「アミーはマンマーTVの社員なのだろう? 私のいる呑舞どんまい神社が、あそこの株の5%を持っているのだ。隣の県の会社を買収する時に資金の相談まで受けたのだぞ。営業の振りでもしていけば良いのだ」


 アミーこともう 惟秀これひで(30歳)は、イクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくの腕が意外なほど街に食い込んでいることに気がついた。

 イクちゃんは土地神でなくても、普通に地主さんである可能性はありそうだった。



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