第6話 特定

「そういう解決方法も無くはないな。ではアミーの策を採用して、スコーンを置いた者を探してみるとしよう」


 イクちゃんは、アミーこともう 惟秀これひでの意見を聞いてくれるようだ。アミーは安心した。


「助かります。土地神様は関係無いのに、こんなことを頼んでしまって、本当に申し訳ありません。呪いが解けたら何かでお返ししたいんですが、俺に出来そうな事ってありますかね?」


 アミーとしては助かりたい一心ではあったが、無関係の存在を巻き込むことに罪悪感をいだいていないわけではないのだ。彼は腰を低くして聞いた。


「良いのだ。敬語もらんぞ。それに私は、時の権力者と折り合いは良かったし、人を害したいわけでもないのだ。たたり神でも土地神でもない。昔からここに居るだけだ」


 伝承によれば、万魔まんま佞狗でいくはこの地に封じられたとあるのだが、本人の語るところでは違うらしい。


「この場所に固定されているのはルールの様なものでな。5億年前からここなのだ。今でこそ陸地だが、途中は海の中で何千万年というのもあったのだ。ここはアンモナイトの化石が出るだろう?」


 どうやらイクちゃんは、人の都合とも全く関係無しにここの存在であるようだ。

 神ですらないと聞いたアミーだが、年数と文化的には、イクちゃんは神を自称しても良さそうだと思った。


「良く分からないけど、何となく理解しかけてる様な気がするよ。イクちゃん、協力してくれるのはありがたいんだけど、どうやって相手を探すんだい?」


 壮大な話になりそうだったので、アミーは話を今現在に戻そうとそう聞いた。


「あまりこの街の警察をめん方が良いぞ、アミー。ここは方々に監視カメラが設置されているのだ。もちろん神社の周辺にもある。システムに侵入して、映像をもらってこようと思う」


 イクちゃんは街の警察のことを認めているようだが、セキュリティの方はめくさっているらしかった。情報だけ抜いてくるから待てと、アミーにそう告げて姿を消したのだ。


「犬の使い魔とかが出てくるかと思ったんだけど、意外とハイテクなんだな……」


 アミーとしては、そういった感想しか出なかった。

 もう21時も過ぎようというこの時間に、照明は懐中電灯しかないような暗い神社の境内で、人間の彼は呆然として土地神が戻って来るのを待ったのである。もう何でも来いという気分だったに違いない。






「待たせたな、アミー。容疑者の特定が出来たぞ。私としては、見覚みおぼえのある人物だったのが意外なところだ」


 イクちゃんは、5分ぐらいでアミーの元へ戻って来た。


「良かった。見覚えがあるって、よくここに来る人なのかい? ここって、こう言うと何だけど、誰も来ないよね……」


 アミーとしては、相手の特定が出来たことにホッとしたのであった。


「それで良いのだ。ここは県や国からは重要文化財に指定されているのだぞ。桧皮葺ひわだぶきの屋根になっているだろう? 建物ごといただいて来てな。それで陰陽師に怒られた」


 さすがに初期の時代には、イクちゃんも公権力とめたらしい。アミーの聞いたところでは、最初の罪状は建築物の窃盗せっとうとのことだった。


「結構すごい建物なんだ。そりゃ人が来ない方が汚れないか。それよりイクちゃん、これからどうしたら良いかな?」


 イクちゃんの歴史を聞いていると夜が明けそうだったので、アミーはまたもや話を現在に戻すことになった。


「それなのだがな、今夜はもう遅い。明日の土曜日にでも相手を訪ねてみるのはどうだろうか? カエルにやられたばかりだから、アミーも今晩は無事に過ごせると思うぞ」


 イクちゃんから出たのは、意外に常識的な提案だった。


 アミーはイクちゃんと、明日の朝に神社で待ち合わせる約束をして、今日はもう自宅に帰ることにした。普通人のアミーとしては、精神的に限界に近かったという事情もある。



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