第3話 繋がり

 惟秀これひでが猪にき殺されそうになってから、色々あって6ヶ月が過ぎようとしていた。今はもう2月で、まだ冬の最中という感じである。


 惟秀これひでの一時的に感じた気味の悪さというのは、今では大分収まってきているように見えた。

 秋には話題になった『万魔祭り』については、字面のインパクトもそれなりにあったものの、閑静な田舎の祭りということもあってそこそこの人気で終了した。

 大企業4社の工場については建設中ということもあり、こちらの結果については判然としない状況であったが、操業が始まってしまえば当たり前の風景になりそうな勢いだ。


 彼としては会社が大きくなるのが一番嬉しかったが、こちらについても彼自身が隣の県に行くようなことは無く、業務は前よりも広く静かに回り出して落ち着いたのである。


「先輩、大きいメーカーが来てくれるって意外に良いことですね。寮にうちの有線引いてくれるって。こういう大口契約って初めてですよ。しかも4社もあるし」


「アミー、こういう波及効果ってな、馬鹿に出来ないもんなんだ。この勢いで映画チャンネルとか売れると良いんだけどなぁ」


 惟秀これひでと彼の先輩は、この県内でも人口が多いのにさびれた街に来てくれた企業の社宅について、有線放送の契約を取って回ることになった。

 そして2人ともマンマーTV万歳とか言いたくなったことだろう。嬉しいことに、それぐらいの契約戸数はあったのである。


 一方で、彼らのケーブルテレビ会社の周辺は、商店街の盛り上がりも落ち着きを見せ、もう少しハッキリ言ってしまうと売り上げが落ちて元に戻ったようだった。


「ここも半年前は良かったんですけどね。先輩はここに買い物に来ますか?」


 惟秀これひでは会社への帰り道で、先輩にこの商店街の感想を聞いてみることにしたらしい。彼からは、完全に違和感がぬぐい去られたわけではなかった。


「ここか? そう言えば最近は来てないな。うちの嫁や子供も前ほど言わなくなった……あの盛り上がりって何だったんだろうな? ってアミーィィィ! 危ない!」


 惟秀これひでの質問に答えた彼の先輩だが、突然声を大きくして彼の方へ注意をうながした。遅かったと言うべきだが仕方のないことだろう。


「先輩? どうしたんハギョレモォォォ!」


 惟秀これひでの運も悪いと言わざるを得ないのだが、彼はまたもやこの街に特有の存在による攻撃を受けたようなのだ。

 惟秀これひでの顔面に向かって、頭部の毒腺から毒液を放射したのは、商店街のポストの上などにまれにいる『呑舞どんまいガエル』だった。今回は薬局の看板の上からの奇襲だ。


 顔をおおってうめき声をあげる彼は、即座に病院へと搬送された。






「アミー、君の主治医としては無視出来ない入院回数だよ。顔のただれが収まるまではここに居なさい。街にいて油断してると危ないのは知ってるだろう……」


 最近お世話になりっぱなしの医師からは、日本国内の地方都市に住む者とは思えない台詞が出てきたが、実際にそういう部分が無いわけでもないので惟秀これひでは黙って頭を下げた。

 彼にしても、どうして交通事故の話じゃないんだろうとは思った。だがここはこういう街で、またもや獣害だったので災害保険は適用されないのである。


 結局、惟秀これひでは経過観察も込みで10日間も入院する羽目になった。


「お帰りなさい、アミー先輩。去年から酷い目にばっかりあってますけど、おはらいとか行かないで大丈夫ですか?」


 惟秀これひでは、会社に復帰して早々に後輩の女子からそのように言われてしまった。


「心配してくれてありがとう。失明とかは無くて助かったよ。ところで、会社に来るときに商店街を見たんだけどさ。また、何かやるのかい?」


 商店街の入り口のアーチには派手なノボリがかかげられていて、またもや何かのもよおし物をやるように見受けられたのだ。


「それが先輩が入院中に、マスコットキャラの『マンマイッちゃん』が県の公式ゆるキャラになったんです。結構人気が出たらしくてお客さんが戻ったみたい」


 ここの土地神様である万魔まんま佞狗でいくは、どうやらゆるキャラになってしまったらしい。

 ここに来て惟秀これひでは、自分の身に降りかかる不幸と、地域経済の活性化に何かの繋がりがあるのではないかと疑い始めた。



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