第25話 ロールバック

 滅亡ってのは別にすぐに訪れる訳じゃないんだけどね。

 でもまぁ、確実にわかる人には分かるって話しさ。


 何が言いたいかと言うとね?


「フハハハハハ!やってくれたなあの元勇者!!あんの馬鹿野郎は何をやっとるんじゃ??!───そもそもユークリプスはだぞ?!そこにやばい魔法ぶち込んだらもうサ、お終いだよ!!」


 封印されたままの可哀想な魔法使いは叫ぶしか無かったって訳である。


 そりゃさ、確かにさ?

 私だってさ?

 この国滅ぼして欲しいなぁとか思ったさ!


 行動が早すぎんだわあのカエデとか言うバカは!


 そう言いながら魔法使いミスティナは呆れるしか無かった。



 _________________________


「ふう、じゃあ封印を解いてあげるか。 ほら起きろ〜ミスティナ」


 カエデはそう言いながらミスティナに施された封印を丁寧に解いていく。

 最もそこまで悠長にしていられる時間は無いのだが、カエデは実際あと何分でユークリプスが滅亡するのかを知らなかったので、仕方の無いことではある。


「─────起きたぜ。 そんでまずは一つだけ、カエデおめぇはバカなのか?!」


「いきなり目覚めて罵倒からスタートとはねぇ」


「そんな話じゃねぇ!───カエデ、アンタがさっき撃ち込んだ魔法の効果でこの国は───あと1分で滅ぶってんだよ!!」


 ミスティナの悲痛な叫びというか、割と絶望じみた叫びにカエデは首を傾げる。


「確かにやりすぎたとは思うけどさ?そこまで酷───何だこの音……ん?魔力がめっちゃ空から湧き上がってきている?!」


 カエデは直ぐさま飛び上がり、上空を確認した。

 するとそこにいたのは────、


『キュルァァアアアアアアアアアア!!!!!』


 途方も無く巨大な、黒炎を纏う破滅的な見た目の竜であった。

 名を───『滅亡魔法解・ドラグマ=テュフォン』


 それは世界を滅ぼす式の

 この世界に存在する『魔法式』その解答の一つであった。


「─────まじか。 え、まじか」


 流石にカエデとしても想定外、想定外すぎる敵の出現であった。


 _________________________


『────宣告する。 我が命に従い、この大地に破滅を。───落日よここにデイブレイク


 巨竜は100本はある首を束ね、その口から滅びを解き放った。


 ドドドドド!という轟音がユークリプスの大地を貫き、それに合わせてユークリプスの大地を作り上げていた魔法式の全てが瓦解しだす。


 その光景を見上げながら、指導者ザイン・アルカナは呆然としながら立ち尽くすほか無かった。


「───仮に神姫が間に合ったとしても、あれは無理だ。 勝てるわけが無い」


 テュフォンの出現位置はザインのいた場所からかなり離れた場所だった。

 それ故にザインは滅亡の様子をじっくりと味わう事ができたのだ。


 眼前には、竜の放った滅びの魔法に飲み込まれて消えていく街が、人々の姿が写っている。


 対抗しようとした魔法使いはまるで紙切れのように次々と消えていく。

 その光景は正しく絶望以外の何物でも無かった。


「───誰がやった。 誰がこんな非道な事をやった」


 国に対して不満タラタラであったザインだが、それでも必死に国をより良いものにしようと頑張っていたのだ。

 かつて勇者魔法と女神魔法で大事故が起きて、そのしり拭いでお偉いさんが一斉に辞めた末に実権を押し付けられた彼は───、


 ふざけやがって、あのジジイども!


 そうほざきながらも、国を愛していた。

 だから必死に勇者魔法の解析を進めて、女神魔法を封印して、何とか頑張ろうとした矢先だったのに。


「なんで、こんな事に────」


 そう言いながら、彼は立ち尽くしてしまっていた。


 そうして、テュフォンの放った滅亡はザインのいた教会を包み込み、そうしてユークリプスの滅びは確定してしまったのだ。


 _________________________



「……想定外だったけど、僕のやりたかった事は叶ったんだよね。 そう、僕を見殺しにした世界にまたひとつ復讐が出来たって訳だからさ、別に悔やむことなんて何にもないんだけどさ───」


 そこまで言ってから、カエデは静かに目を伏せた。


「なんかなぁ、違うんだよ。 僕はさ、自分達の間違いに気がついて後悔する姿を見たかったんだ。 勇者魔法を生活に利用した弊害とかをもろに受けて、女神魔法を使って大惨事が巻き起こって、手遅れになってってさ───」


「復讐する予定だったダークエルフの物語も叶わなくて。 しかも僕の考え無しにやった魔法の弊害でこうなって。 ───違うじゃん。 僕がやろうとしていた事はこんな末路を見る事じゃない」


『あら、じゃあ私の貴方。 使うのね?私を』


 あぁその通りだ。


 僕は静かにグリムを呼び出す。


 僕は別に時間を操ったりする事はできない。

 だけどグリムは別だ。


 終葬鍵グリムローズは力がある。

 具体的に言うとバットエンドを迎えた時に、グリムの力を使う事で、ある一定時間まで遡ることが出来るのだ。


 ただし、この能力は勇者時代にはエバーハートにより使用出来なかったので、本当に初めての試みである。


「────幸い魔力は十分に残っている。 と言っても、多分コレをしたらしばらく魔力がほぼ無い状態になるだろうけどね。 それでも───コレはやり直さないと気持ちよくない。 ……じゃあやるよグリム」


『えぇ、どうぞ。私の貴方。 私はずっとどこまでも貴方について行くだけなのだから』


 鍵の形になったグリムを僕は地面に突き刺し、そして唱える。


終局再試行エンドロールバック


 途端に世界そのものが変貌を遂げる。

 やり直される事に抗うかのように、カエデの肉体を引き戻そうと、ありとあらゆる角度から手を伸ばしてくる。


 だがその手は届かない。


「やり直し、って訳じゃない。 やり残しを消す為にやるんだ。 ───安心しろよ世界。


 _________________________





 目を開けると、カエデは関門の前に立っていた。

 そこはこの国に入る前の状況だ。


「?どうしました?カエデ様ー!」


 隣には、ケルヌンノスを片手に首を傾げるリティアの姿があった。


「なんでもないさ。 それよりも、今回は一旦穏便に行くぞ。 ───具体的にはしばらく戦闘禁止なー」


「?わかりました!」


 こうして二週目がスタートしたのである。

 最も結末は変わらない。


 ただ、次の結末の時はカエデは満足していることだろう。


 _________________________


【ユークリプス滅亡まで後────日】



 _________________________





 というわけでやり残しが多すぎたので、やり直しとなりました。


 一周目と同じ人が出てきますが、今度は即死ではなくしっかりと進んでいきます。

 ひょっとしたら即死したエルフ族の長もドワーフ族の長も名前が出てくるかも知れませんよ?


 後は多分ザイン君の胃が破壊される事は多分ありません。

 多分。


 もしよろしければ☆と♡などで応援していだけると幸いです。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る