第22話 待つ敵の名はオースティン
悩みを解決する為にするべき事が多すぎるっ……。
『あら、私の貴方。 何を悩んでいるのかしら?貴方が悩んでいる時間が長すぎて退屈だったから、そうねミスティナ迄の道と使えそうな勇者魔法・女神魔法の場所を調べておいたわ』
グリムは相変わらず仕事が早いっ!
というか僕は何も指示を出した覚えがないのたけれども、これは……?
『私の貴方、私を誰だと思ってるのかしら?』
そうだった。
グリムは有り得んほどに優秀なのだった。
「助かるよ、流石はグリム。僕の最強の剣だ」
『礼はいいわ、それよりも───カエデ、貴方が気がついているのかは興味無いのだけれど……この国、あと数時間で滅亡するらしいわ』
「……何故……って言うには心当たりがありすぎるなコレは」
まぁ大方女神とか勇者の魔法のせいだろう。
あれは火薬庫みたいなものだしなぁ、うん。
それにしても、滅亡というワードをこんなにもすんなりと受け入れられる自分が少しだけ怖かった。
『だからやるべきことは慎重に選ぶべき。そう私は忠告しておくわ。 せいぜい頑張りなさいな、私の貴方』
そう言い残すとグリムは再び何処かに駆けて行ってしまった。
相変わらずのすました感じではあったが、それを受けて僕も少しずつ冷静さを取り戻しきっていたのであった。
「ん、よし。 じゃあまずはうるせぇ馬鹿魔法使いをかっ攫いに行くか。 そしたら次はこの国の滅亡の為の工作だ」
「は、はいっ!」
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僕はグリムの残したゲートの中をこっそりと覗き込む。
その中は次元を跨いでミスティナと彼女を監視する研究員とエルフ族が山ほどいたのだ。
「うわ、いっぱいじゃん。 助かるなぁ……」
僕は次元を跨いでゲートの中に呪いを解き放つ。
するとあちら側のゲートから水が染み出て居ることをしっかりと確認できた。
「んじゃあ、まずは───味わってもらうか。 停滞の水をね」
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「隊長!異常はありません!」
「ご苦労さま。 何か変わった事とかはあったか?」
「いえ、特には」
「そうか、くれぐれも気をつけておくこと。 我々の監視対象はそれだけ危険人物だからな」
「は!」
隊長と呼ばれた男は少なくともエルフでは無かった。
2メートルを超える身長と、その身の丈の半分程の剣を携えた黒髪の男だった。
額には斜め袈裟型の傷があり、それを彼はしきりに触っては拳を握りしめていた。
「来るはずなのだ。 あの男、勇者カエデは!!」
男の胸の中には、懐かしい記憶が鮮明に蘇っていた。
それはカエデというぽっと出の勇者に、自分達の役目を奪われたという悲しき過去についてだった。
「門塀の殺され方、そういったものから見抜いたが──間違いない、勇者カエデは生きているのだっ!……ふ、次に会う事があるのであれば我が剣の錆にしてくれるわ!」
男の名はオースティン。
勇者試験の最終候補者の一人にして、蛮勇轟くユークリプスの物理最終兵器。
そして、ぽっと出のカエデに全ての未来を奪われ、仲間にされること無く故郷に帰らされた悲しき男でもあった。
「隊長気合い入ってますね〜。 まぁ気持ちわかるッスよ」
その隊長の肩の上で喋っている小柄な女は、彼の剛剣ミッドランドその子ご本人様である。
「アタシもあれでしたからねぇ。 "聖剣の勇者が現れるまでのオマケ"って感じでさァ。 まーったく、勇者が死んだ途端また担ぎ上げられちゃったりしてさァ」
やれやれ、と言った顔で半笑いのミッドランド。
「そうだな。 だからこそ、私は願うのだ。 担ぎ上げられる事よりも、自分が勇者カエデと比べてどれだけ強くなったのかを証明するという事をな!」
彼は結局のところただ、戦いをしたいだけである。
勇者カエデというイレギュラーに、全ての地位を取られた自分の強さを確かめたい。
ただそれだけだ。
そして、そんな彼等に……停滞の水がゆっくりと忍び寄っていたのであった。
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【ユークリプス滅亡まで後2時間】
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