第20話 カエデの提案は……
……なるほどねぇ。まぁ別に問題ねぇな。
そう、何一つ問題は無かった。
どうせこの国を滅ぼす事は決めていたし、そんな国のエルフとかドワーフとかがまともなわけがなかったので、そこも問題ない。
だがリミットがある気がするのだ。
頭の中に朧気に4から3時間、と表示されているような気がしなくもないのだ。
となると必然的にこの国でやりたかった事が結構出来なくなる可能性が非常に高いというね。
やりたかったこと一つ目の魔法使いの馬鹿の散策はすぐにできるから問題ないとして、次にやりたかったことそれは────、
「じゃあ一旦この国の最深部に眠る魔神を呼び覚ますか。 あれは勝手に暴れてくれるいい舞台装置になるだろうしね」
「ま、魔神?!え、えっと貴方……確かカエデ……とか言ったわよね?! あの魔神はかつて勇者カエデ様が封印してく───貴方勇者様に似てる気がするのだけれど?」
「ははは、ロレーヌ殿、その通りだよ。 僕は元、勇者カエデさ」
「へぇー。 へぁ?」
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「なるほど!カエデ様は世界をぶっ壊す為に蘇ったって事ですね怖い助けて誰か!」
テンポ感よく引かれた。
まぁ気持ちは分かる。誰だって死んだと思われた人が普通に生きていて、しかも何故か魔神を呼び覚ますとか言い始めたのだ。そりゃもう怖いとは思う。
「ははは、落ち着きたまえよ。 別に僕だって無造作に無作為に殺したりはしないさ。 それよりも君から呪いのオーラのような何かを感じてねぇ、その理由を聞かせて欲しいのだけれど。 可能かな?」
「ダ、ダークエルフって言ったら分かりますか?」
あ〜なるほどねぇ。
彼女はあの虐殺を生き延びたダークエルフって事か。
「なるほどよくわかった。 じゃあ時間もなさそうだしさっさと本題に入るとしよう。 君に復讐をできるだけの力を授けてあげようと思うのだが、君は僕の理念に従って世界を破壊するのを手伝ってくれるかな?」
「───私ひとりで、復讐なんて無理ですよ」
やはりそうか。
彼女が自らをダークエルフだと知られないようにしていたのはきっと───一人ぼっちだからなのだろう。
かつてダークエルフはエルフと共に森を守っていた種族だった。
弓と魔法に秀でたエルフと、魔剣と闇魔法に秀でたダークエルフ。
互いに高めあえる良き種族だったのだとか。
時は流れ人間とエルフの関わりが深くなったある時、宗教がエルフに広まった。
そしてその宗教の中に、闇魔法と魔剣は危険なものだから使うべきじゃない。
そういった考え方が浸透していたのだ。
そしてその結果……闇魔法と魔剣を使うダークエルフは、誅伐の対象となったのである。
……ちなみに神様自体は危険だからやめときな〜ぐらいのニュアンスでの考え方を教えていたらしいのだが、人間解釈で神様が止めろと言うものはきっと邪悪なものだ。そしてその邪悪な物を古来より使ってきた存在など悪である!みたいな感じで、ヒートアップしたんだってさ。
呆れた人間だよ本当に。
……その後ダークエルフは絶滅寸前まで追い詰められたらしいのだが、その際にこの地に眠る魔神に残った僅かなダークエルフが身を捧げて蘇らせたっていう過去もある。
まぁソレを知らなかった僕は普通に魔神を封印したんだけどね。
知ってたら───どうだろうな。
少なくとも今の僕は封印した事を後悔しているのだから、間違いだったのだろう。
そして彼女は運良く、否。
ひょっとしたら運悪く生き延びたのだろう。
そこにどれだけの犠牲と、恐怖と、絶望があったかなんて僕には計り知れないけれど。
「ロレーヌ。 君は独りだ。 独りぼっちの君には、しっかりと選択肢を与えたい。 君はここで僕に会った記憶を消して破滅に巻き込まれて死ぬ。 それとも今は亡き同胞の為に復讐を果たすか───」
「私は、どっちも嫌です。 私はエルフが嫌いです。 でも、エルフが悪いわけじゃないんです。 きっと変化を受け入れられなかったダークエルフが、悪いんですから」
「変化、か。 確かにダークエルフが魔剣や闇魔法を捨てていれば誅伐の対象にはならなかったかもしれないな。 だが多分な、どっち道にしろダークエルフは滅びていた。 何故なら人間が関わった時点で、ありとあらゆるコンテンツは消費される運命にあるのだからな。 人間ってのは傲慢で強欲で、そして他者を怖がる生き物だ」
「…………他者を……」
「馬鹿だよな。 他者との繋がりでしか強くなれない癖に、他人が自分の手の届かない場所に行くとそれを怖がって蹴落としたくなる。 ───僕はそんな人間が大嫌いだ。 ……僕の気持ちを話そう。 僕は君にこの地に眠る魔神をコントロールして欲しいと思っている。 僕は別にこのユークリプスに復讐する理由は殆どない。 だが君には理由がある。 ならば君がやれ」
「私が……復讐を……」
「そうだ。 だからこそ──────」
僕の感情がヒートアップしかけたその時。
「くうぉるぅぅああ!! 私の事忘れてるんじゃ無いんですかァァ!!!」
どこからともなく、聞き馴染みのある声が会話を遮った。
下を見ると人形の形の大魔法使いミスティナがいた。
「私を助けてからやってくれないかなァ。 怖くってサァ震えてんのよこっちはサァ!!」
……そういえばコイツは、空気をぶち壊す天才だったなぁ。
そんなことを僕は久方ぶりに思い出してしまうのであった。
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【ユークリプス滅亡まで後3時間】
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