第一章 魔道国ユークリプス

第10話 カエデは悩んでいた

【カエデ視点】


「あふふふ、そんな意味があったんですね〜!流石勇者あ、間違えましたっ! カエデ様です!」


 朗らかに反転アンチの説明を聞いて笑うリティア。


 その表情は実にあどけなくて可愛らしい。


 ……だからこそ、僕は悩むのだ。

 と。


 *


 現在、目の前で朗らかな笑みを浮かべるリティアは僕が先程生き返らせた状態なのだが、その際に一旦若返らせた上で生き返らせたのである。


 その為か、彼女は自分が酷い目にあっていたことを、一応知ってはいるものの……それは自分に良く似た人間が受けた話を見ているだけのような状況だ。

 テレビでドキュメント映画を見ている時の気分に近しいとも言える。

 画面の中では悲劇が起きていても、それを見ている自分はなんともないのと同じだね。


 だが、それはきっとまずい事になる。

 現実逃避のようなものであり、それを長い事続けた場合、それを受け入れた時のダメージがでかくなる可能性が高いのだ。


 ……今の彼女は無垢なままの姿。

 だけど彼女が体験したのは無垢を無垢では無くしてしまう内容の数々。

 そしてそれを受け止めた時、彼女がどうなるのか。


 悩ましいところだと僕は思う。


 なので僕は意を決して尋ねてみることにした。


 *


「リティア……君を生き返らせた時に、僕は実はいくつかの記憶を抜いておいたんだ。 そしてそれを君に一旦返そうと思うんだけど───それはきっと君にとって死ぬ程辛いかもしれない。 どうする?君に選んで欲しいのだけれど」


 僕が辛気臭い顔で尋ねたものだから、リティアも少しびっくりしていた。

 けれど彼女は少し考えた後───、


「……確かに、私の中に変な記憶があるのは事実です。 なんか、なんとも言えないんですけど……すごく見ては駄目な内容って本能が警告を出しているんです────」


「じゃあ、その本能に従うべきかもね。 やめておこ──」


「でも、知りたいです! きっとカエデ様を探して逃げ回っていた時の記憶が必ずカエデ様のお役に立つと思うので!!」


 胸を張って大きく叫ぶリティア。

 その姿に僕もため息を零しながら、"わかった"。と答えるしか無かった。


 **


「ふぅん? 私が居ると少しだけ邪魔そうね私の貴方。 まぁいいわ。 きっと彼女は酷い事になるでしょうし、どうしようも無くなったら私を呼ぶ事ね。 じゃあ一休みしているわ」


 そういうとグリムが僕の胸の中に戻っていく。

 つまり何時もの定位置に、だ。


 如何せん胸の中に定位置があるのは些かどうなのか、とは僕もよく思ってはいたが、だがまぁ彼女がそれ以外に従ってくれるわけが無いので僕は諦めている節が若干ある。


「───じゃあ、リティア。 深呼吸をして───そう、では行くよ──────」


「は、はいっ!よろしくお願いしますっ!!」


 ***


【カエデ視点】


「がぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!殺す、殺す殺す殺すぅぅ!! 帝国もぉ!王国もぉ、法国もなんもかんも!! 私から全てを奪った奴ら全員雁首揃えて皆殺しじゃぁぁぁぁあ!!!!」


 うん。 あー、うん。

 いやぁ、参った。


「きゃははははは!!、私は赦さない。 私が殺す、私が潰す、私がねじ伏せるううう!! 潰して、潰して、潰して、同じ目にあわせてやる!男だろうがァ、女だろうがァ、知らねぇぇぇぇ!!!」


 スプラッターな事を叫び始めたリティアを、僕はどうするべきなのだろうか。

 というかそんな感じだったんだ……。


「よくもよくもよくもよくも────私の純潔を、純粋な愛を、恋を、奪ったなぁクソナードどもぉぉお!!!? てめぇらのアレ、全部削ぎ落としてやるぅぅぅ!!」


「あのー。 り、リティアさんー? その落ち着いて貰えませんか……」


「──────はう?! わ、私としたことがッ!? お、お恥ずかしところをお見せしてしまいすみませんでしたッッ!!」


「あー。 まぁ、うん。 気持ちはよく分かる」


 僕の場合、死んだ後にすぐに生き返るという事を知らされていたからそこまで暴れたり叫んだりはしなかったけど、彼女はそれが無かった。


 だから必死に逃げてそして酷い目にあった。


 あれだけ無垢な少女だった彼女が、その記憶を思い出しただけでここまでの暴れっぷりを披露したのだ。

 どれだけの辱めを受けたのか───。

 そんなものを僕は想像もしたくない。


「……落ち着いたかい? リティア。 そして聴いて欲しい。僕は君のその心の傷を癒したりする事は出来ない。 だけど、君に復讐の機会を授ける事ぐらいは出来る」


「ぜひっ! カエデ様っ!私の復讐を手伝っていただけませんか!」


「無論さ。 だから君にこんな武器をあげよう」


 僕はそういうと裏アイテムボックスの中から、一振の長柄斧を差し出した。


 血に飢えていたリティアは、顔を真っ赤にして恥ずかしがりながらも、僕が手渡した武器を手に取った。


「これはッ!────す、凄いです! 私の怒りが伝わったのか武器が赤緑に光って────」


「その武器は『ケルヌンノス』っていう武器でね。 持ち主の復讐心とか、持ち主の殺意に合わせて身体能力を強化したり、呪いの効果を獲得する特別な武器なんだ。 君にぜひ使って欲しいと思ってね」


「!?頂いてもよろしいのですかっ!?」


「もちろんさ。 僕の復讐に付き合わせてしまっているんだから、それぐらい差し上げないと釣り合わないだろう?」


 まぁ僕の方は復讐というか、ちゃぶ台返しというかって所ではあるんだけどね。


「ッ────ありがとうございます!マイマスター!!私の、導きの星様!! ぁあカエデ様!!」


「マスター呼びは私だけのもの。 貴女は別の呼び方にしなさい」


 ぬるりと心臓部からグリムが出てきて、それだけ呟いてまた戻って行った。


「え、えっと……じゃあ……カエデ様……で」


 ……なんかごめんね?

 ちょっとシュールなのよね、グリムが僕の胴体からにゅーって出てくる様って。


「ああ、それでよろしくな。 ────じゃあしっかりした服と、その頭の角を隠せる魔道具とかもセットで付けとくからね。 パンツ何色とか指定ある?」


「?! そ、そこまでしていただく必要はッッ!」


 **




 魔族の里から僕達は少し離れた街道沿いを馬車に乗って進む事にした。


 リティアは白と緑の服を着て、馬車に乗っている。

 手にした武器である『ケルヌンノス』を大切に撫でている。


『ケルヌンノス』は黒っぽい長柄斧(ハルバードの特に斧部分がでかいヤツ)なので普通に考えて女性にはあまりに合わない無骨な武器であるはずなのだが、妙にしっくりくるなぁと僕は思った。


 ちなみに使っている馬車は勿論僕が裏マジックボックスから取り出した馬車だ。

 魔物の御者もセットで付いてくるお得な品だぞ。


 **


「───もうすぐ魔道国の国境だな。 ……ん?なんか変な看板がいっぱいある────な、ァ?」


 街道沿い、国境周辺にはおそらく旅人等に物を売るための売店が山ほど連なっていたのだが。


 そこにあった看板が俺の目にどうにも止まって仕方なかったのだ。


「…………あ? なんだこの看板。 舐めているのか?」


 そこにあった看板には───こう、書かれていた。



『勇者の魔法、販売中!

 あの伝説の勇者カエデが使用していた勇者魔法、あなたも使って見たくはありませんか?


 今ならなんと1000ギルで選び放題! 剣も盾も、槍も全部勇者仕様にして楽しもう!──魔法販売店ミロォシ』


『勇者魔法販売店 アサアゲ

 ユークリプス国営店です。認可済み。 ほかのお店より高いのは品質の証。 お申し込みはこちらの窓口まで↓』


『女神魔法である神聖魔法をタダで教えます!

 その代わり美人で、売り子になってくれる人限定! 神聖魔法販売店 ギャルリンナ』


『あの、伝説の勇者カエデ様から直々に教わったのはうちの店だけ! 勇者魔法をお求めの方はぜひバーミクス魔法店に!』


 *


 そんな目を疑う様な看板が山ほど立ち並んでいたのだ。

 それを見て、カエデが何を思ったかと言うと。


「─────ユークリプス魔道国。 よぉし、ぶっ壊す。 ふざけんな」


 まぁ当然ブチ切れ案件である。


 *****

【???(大魔法使い)】


「─────ん? あぁ、カエデ君が来たのか。 まぁ当然だね。 ふふふ、フハハハハ!!! 折角の機会だ。 この私自らその意を示してやろうじゃぁないか!!楽しみに、首を長くして待っているがいいさ!」


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