第7話 勇者は普通に悲しくなった

【カエデ視点】


「私の貴方。 お掃除終わらせたわよ」


 ぬるりと影が人型になり、そのまま絡みつくように僕に巻きついた。


「ありがとう。 流石は僕の─────んむっ?!」


 お礼を言う前に、口の中に手を差し込まれた。


 そのまま舐め回すように僕の舌を撫でるグリム。しばらく喋れなくなった僕は、若干困るんだが?という雰囲気をそれとなくグリムにちら見せる。


 だがグリムの手は止まらない。

 グリムの細く、淑やかな指がぬるりと口の中を這い回り、やがて僕の喉に触れそうになる直前、彼女はその手を止めて引き抜いた。


「んあ…………満足したかい? ふう、それにしてもかなり丁寧に撫ででくれたね。でも指先だけで良かったのか?」


「あら、私の貴方。 本当は口で奪う予定だったのよ? でも貴方の口を見ていると、どうにも私の指で蓋をしてあげたくなってしまっただけなの」


 そう言いながら、グリムは僕の唾液が付いた指を自分の口の中で削ぎ落とすかのように吸った後、その指をまるで宝物のように大切に撫でていた。


「……昔は指先を口に突っ込むのも躊躇うぐらいだったのに……今は躊躇無く突っ込んで来るんだな。 君もそれだけ寂しかったってことかな?」


「私の貴方、よくわかっているじゃない。 流石は私のマスターなだけはあるわね。 ……いけないわ、私、もっと貴方が欲しい。 あぁ、はしたない女でごめんなさいね私の貴方」


「好きにしたら良いよ。 僕は抵抗しないし、君に合わせるだけだからさ」


 僕の言葉に、再び舌なめずりをし始めたグリム。

 だがここで時間を使いまくる訳には行かないので、僕は続きはまた後で。

 そう伝えると蘇生のための術式を起動させた。


 ****


「そういえば、誰だった? 倒した奴は」


 僕は聞いていなかった質問をグリムに投げかける。すると彼女はネームタグを差し出してきた。


「これ、私は知らない人間なのだけれど。 マスターは知ってるのかしら?」


 そのネームタグには、王国騎士団副団長アルベルトと言う名前が刻まれていた。

 ───へぇ、あの男まだ生きていたのか。


 僕は何気にあの男のしぶとさを舐めていた事を少しだけ詫びつつ、彼女にどう始末したのかを尋ねた。


「───私の剣で貫いたわ」


「あー。 アルベルト、君は……うん、可哀想だね」


 その言葉を聞いた瞬間、僕は少し同情した。

 理由は勿論、が持つ特性にある。


「あら私の貴方。 そんなに可哀想かしら? 彼、幸せそうよ?ほら────」


 彼女が指をパチン、と打ち鳴らすと、彼女の横に幻霊のような何かが姿を現した。


『やめ───殺せ───助け───誰か───』


 それは、始めは騎士のような見た目の人間だった。しかし時間経過とともにその姿をケダモノに変える。


「あら、煩いわね。 ケダモノ、ええ、あなたはケダモノ。 人としてなんて使ってあげないわ。嬉しいでしょう? 喜ばしいでしょう? 涙を流して喜ぶなんて。 決めた、あなたの名前は『獣の男ア■■■ト』、そうね。アト。 生前のあなたがどんな素晴らしい人間だったかなんて興味はないわ。 あるのはその名前と、ケダモノとしての運命。 せいぜい私の為に頑張る事ね 」


「ォォォォォ!!!」


 ケダモノとかした男は、悲痛な叫びを漏らす。

 涙を流した姿で、ケダモノとして魂の形を固定された哀れな亡霊に、僕は静かに手を合わせる。


 ───グリムローズは正式名称を、『終葬鍵ついそうけんグリムローズ』と言う。


 彼女に殺された存在は、彼女の中で永劫に永久に奴隷として使役される。

 魂が擦り切れ、摩耗しても彼女が飽きるまでその魂が解放されることは無い。

 ───死後の安寧すら、終わらせてしまう武具。


 結局グリムに殺されるというのは、僕に殺されるより酷いとすら言える。

 ……まぁ本当に同情するよ。


 ****


「それじゃあ、生き返らせようか。

『夢を載せた馬車が転け』

『空を泳ぐ金糸雀カナリアたちは大慌て』

『死神が鎌を忘れた昼寝日和』

『きっと誰も見ないふり』

『骸骨が服を着てベッドで眠りだした』

『魔女が大釜を被ってワルツを踊り』

『地獄の番犬もつられて踊り出す』

『みんな楽しく踊り狂って咲き乱れ』

『そうして死だけが置いてきぼり』

 ……さぁて、起きるんだよ。 優しい優しいマイ・フェア・レディ?」


「あら、マイ・フェア・レディなんて妬けちゃうわ。 後で私もそう呼んでね」


「───了解だ。 マイ・フェア・レディ我が愛しの貴女


 と、魔力が渦を巻き、首だけになった死体の魔族の身体に巻きついて行く。


 様々な呪詛が絡み合い、ぶつかり合い。奪い合う。


 そうしてしばらくするとそこには一人の女性が寝転んでいたのであった。


 ****

【カエデ視点】



「ん…………え、ぅぅむ……ん……え、えっ?」


「おはよう。 ご機嫌如何かな?」


 僕は静かに、にこやかに寝ぼけている女性に言葉をかけた。


「?!─────ゆ、勇者様っっ!?!わ、私は夢夢を……」


 驚いた。すんなりと僕のことに気がついて、しかも叫びながら泣き出すとは。


「夢じゃないよ。 元気そうで何よりだよ、魔王の娘『リティア』?」


「!夢、じゃないんです……ね、あ、ぁぁぁぁぁぁ!!!」


 しばらく言葉を話せそうに無いので、僕は静かにリティアの背中を撫でながら、落ち着くまで待つのであった。


 ***


「───グスッ、すん……────お、落ち着きまし……た。───すーふぅーーー。 はいっ!わたし、もう泣きません!! だって勇者様が生き返ったんですから! 泣いてなんていられませんから!」


 暫くの後、ある程度落ち着きを取り戻したリティアに、僕は静かに何が起きたのかを説明した。


 **


 現状、僕には分からないことがいくつもあるのだ。


 ひとつが、


 僕は女神に自分が生き返ることを聞かされていたが、肝心の彼女の事をこっちの世界に蘇生されてから一度も感じ取れていないのだ。


 ふたつ目に


 かろうじて王国が自分の敵である事はわかった。だが、それ以外にも国が幾つかあったはずなのだが、それらがどうなっているのか。


「?その話───ですか? わたし結構知ってますよ。 なんたって色んな国を必死に逃げて来ましたから!」


 リティアはすぐに、僕の疑問に答えてくれた。


 だが、その答えは───あまりにも度し難く、理解したくない事だったのだ。


「えっと、勇者様が処刑された次の日の事なんですけど────


「──────────は、え、え?」


 女神が、?死んでしまったとかじゃなくて……殺されたって何?!


 さすがに僕も動揺を隠せなかった。


 え、女神様って殺せるものなのか?ってかなんで?

 神様を殺すメリットis何?


「えっと、はい。 女神様は殺されました。 ヒークリフ王国とアインホルム帝国、メディリシア法国とユークリプス魔道国によって。……酷い話でしたよ?───女神様に捧げる供物を魔王の玉座を砕いたものと、魔族1万人の瞳と心臓を練りこんだものを罪なき10万人の民の魂を織り交ぜたもので汚染して、差し出したって話です」


 あ〜。なるほど、わかったぞ。


 この世界もうダメだコレ。


「そしてそれを受け取ったことで、女神様は弱体化し、それを法国が『この程度で弱る神など神様では無い!殺せ、神を名乗る不届き者を!!』って戦士を募って、殺したとか何とか……」


「………………それ、何が目的なのさ。 別にこの世界の女神悪い神じゃ無かったでしょうに」


「えっと、あたしも聞き伝なんですけど……『我々は神に縛られるべきでは無い。むしろ我々こそが神を支配し、この世界をより良くさせるために動かそうでは無いか。 そう、我々の為の我々だけの神を創り出すのだ』って言ってたらしいです」


「え、この世界ガチで終わってるくね?」


 待って?そんな思想の奴らの為に僕命かけて魔族と戦ってたの?


「それで、現在はヒークリフ王国が『勇者の肉体と勇者の権能』を保持していて、アインホルム帝国が『勇者の武具とアイテム』を、メディリシア法国が『女神の肉体と権能』を、ユークリプス魔道国が『勇者と女神の魔法』を所持していますね。

 各地で聞いた情報によると、ですけど……」


 ……えっと、ひとつ言っていいかな?


 何してくれてんのさ、この世界の奴らぁぁ!?!馬鹿じゃないの?!頭おかしいのか?!



 ********




 もし、マジかよwwって思った人とか、おいおいどうなっちまうんだこの後!

 とか思ってくれた心優しい人は、ぜひ☆☆☆と♡、あとコメントとか出来たら……その、レビューとか書いて貰えたら本当に嬉しいですっ!


 多分作者が盆踊りをします(?)


 次回は勇者が反転アンチの宣言をするお話です。乞うご期待ください!


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