第5話 勇者はメインデッシュをとっておく
【賢者ユリウス視点】
何を撃ち込まれたッ!?
何が起きている、───カースド、そう言ったのか!?
つまりこれは、呪詛。
呪いの類か!!厄介なものをォォオ!!
まさか自分の防護結界がこうも簡単にあっさりと破壊されると思わなかったユリウスは、内心でものすごい悲鳴を奏でていた。
だがそれを決して外に出さないあたり、プライドの高さがよく伺える。
だがそれでも、額から脂汗を垂らしながらもユリウスはカエデに負けたとは決して思っていなかった。
その理由はもちろん、『解析』にある。
賢者ユリウス。 彼がなぜ賢者と呼ばれるのか?
その理由こそがこの解析に関する能力であった。
賢者ユリウスは自分が見た、もしくは受けた魔法やスキルなどを解析する事で自らのものとすることが出来る。
故に戦いが長引けば長引くほど、賢者は強くなる。
「ふふふふ、私の解析能力を侮りましたねぇ!カエデェェ!!」
そしてその能力も勿論年とともに熟練の域に到達していた。
つまりは、余裕で勇者カエデの魔法──ふん、まぁ呪詛魔法といったところのソレ程度なら解析できる。
……くくく、これで解析を終えれば、もう奴の能力をみきったも同然!
心にかけていた眼鏡をくいっ、と押してユリウスはにやりと笑った。
そうやってユリウスはカエデが自らに撃ち込んだ魔法を解析──────。
ぐしゃっ。
めきっ。
ぷしゅっ。
頭の中で音が破裂した。
情報が爆発した。
記録が破壊された。
余裕が消えた。
自らの記憶域に甚大な損傷が発生した。──模様。
「あ、れ、え? な、んで?」
鼻からどろどろと血が、脳液が溶け落ちて流れていく音がする。
体内の液体が体の外に溢れ出している/──まるで、その呪詛から逃げようと足掻くように。
視界が真っ黒に染まる。
夢が消えていく。
自分と空間の区切りが分からなくなった。
そうして、そうして。
ユリウスは自分のミスを自覚した。
……最も、ソレは正しくあとの祭りだったのだけれども。
*
【カエデ視点】
「はぁ。 馬鹿だねぇ君は」
目の前で膝から崩れ落ち、そのまま鼻血を噴き出して悶えているユリウスを踏みつけながら僕はそう言って溜息を吐き出した。
だがどれだけ蹴っても反応は返って来ない。
まぁ当然かな。
そもそも僕の魔法を解析、だなんて。
────あまりにも無駄。あまりにも無謀と言いたいなぁ。
*
ユリウスはひとつ、致命的なミスを犯した。
それはカエデの魔法を呪いの魔法と理解していながら、自分の力を過信して解析してしまったことだ。
カエデが所持する魔法は『呪魔法』に間違いは無い。
だが───その出力がそもそも桁が違う。
カエデの魔法はそもそも世界を破壊する為の魔法であり、それ故にこの三千世界常世全ての呪いを内包した物だ。
それは人が簡単に見ていい物じゃない呪詛から、見ただけで廃人になってしまうものすら、余す所なく含んでいるわけで。
そんなものをユリウスは解析して見せようとしたわけだから、まぁ。……死ぬよね。
僕は溜息をもう一度吐き出して、それからユリウスの肉体を起き上がらせると───締めを行う。
*
「きっと今の君は、不安定な状態だろう。 多分あの魔法を解析なんて馬鹿な真似をし、その結果死んでしまった。 だけどもその肉体と魂のリンクはまだ切れていない───そうだね?」
まぁ答えが返ってくるわけじゃないんだけども、とりあえずそう尋ねる。
「きっと君は直ぐにもう一つの肉体に魂を入れ直すだろう。 ……そうして、今度は僕を確実に殺す為の部隊を揃えて僕に復讐に来るのだろうね。 ───させると僕が思うかい?」
僕はそう言いながら、一つの魔法をユリウスの魂に注ぎ込む。
「───この魔法はね、『ヴァイラス・テラーカース』って言ってね? まぁ分かりやすく言うならば……増殖する呪いだね。 さながらウイルスのようにね」
ユリウスの魂の中に、釘のように一つの魔法が突き刺さった。
ソレは直ぐに魂と同化して消えてしまった。
「───じゃあ、その魔法をたっっっぷりそっちで振り撒いてくれよ?ユリウス。 ふふふふ、楽しみだなぁ。 メインデッシュはやっぱりしっかりと仕込んでおかないと美味しく無いからね」
僕はそういうと、ユリウスの魂を元の場所に返した。
****
【カエデ視点】
やがて、暫くの静寂が訪れた。
倒れ伏せた男は既に魂の抜けた死骸でしか無く、騎士団副団長のアルベルトはもうピクリとも動かない。
「────じゃあ、早いところ魔剣を呼び起こし………て……」
僕がそう言った瞬間、後ろの方でクスリと笑う声が聞こえた。
笑い声の方を振り返ると、そこには────、
女性が揺蕩っていた。
ロングヘアをいじりながら、黒い宝石の様な美しさを醸し出す女性は、こちらを見下ろしながら馴染み深い顔で微笑みをこぼした。
「あら。 お寝坊さんね、私の貴方。 私はとっくの昔に起きて眺めていたのだわ? それに気が付かないなんて存外──そうね、きっとボケてしまったのね。 じゃあその老いてしまった頭を目覚めさせるために、1回踏みつけて差し上げようかしら?」
微笑みは冷たく、冬の寒さを連想させる。
僕は少し息を吸い込むと……その女性に話を投げかける。
「勘弁してくれよ。 ───改めて、おはよう。 僕の魔剣───いや、
グリムローズ、そう呼ばれた女性はにっこりと微笑むとそのまま滑らかにお辞儀をして見せた。
そしてそのままくるりと、空を舞い……カエデに寄り添うように手を差し伸べる。
「あら、私の貴方。 ちゃんと私の名前を覚えてくれていたのね? 嬉しいわ! でも折角だから───さぁ、踊りましょう?楽しい楽しい夜のワルツを!!」
*
魔剣であり、魔鍵。
魔法武具の倉庫であり、ありとあらゆる武具を内包した絶対無二の武装。
そして、僕、カエデが戦場で振るうことが1度たりとも無かった武器。
それこそが彼女───武具にして、女性でもある……『グリムローズ』なのである。
**********
次回、可哀想なことになっている人達の話です。
あと若干グリムローズに関する掘り下げ。
ほぉ?とかふへー?とかむう?とか思ってくださった方はぜひ☆☆☆と♡を、もし出来るのであればコメントなどをしていただけるとはげみになります!!
本当に!
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