第3話 勇者は何を夢見るのか

【これは数分前、つまり勇者の視点】


 真っ暗な夜が眼前に広がっている。


 それは踏み込めば、きっと帰ってくる事ができないと分かる程の真っ黒、漆黒だ。


 そしてそれはこの30年間近くずっと俺の周りにこびり付くように存在していた。


 そんなソレが───突然その色を失った。


 途端に僕の体はその真っ暗闇の中に放り投げられてしまったのだ。

 冷たい水の中に沈むような感覚がした……かと思った瞬間、僕の体は誰かの墓場の上空にあった訳だ。


 *


「急に生き返るじゃん。 まぁ別にいいけどさ」


 僕はそこまで驚きはしなかった。

 それもそのはず……自分が生き返らされる事を死んで直ぐに女神様から聞かされていたからだ。


「にしても急だし、しかもよりにもよって墓場に蘇生って。 せめて大聖堂とかで宴の真ん中とかさ?」


 と、地面にふわりと着地した僕は、すぐに近くに誰かが向かってきている気配に気が付いた。


「おっと、不味い。 いきなりエンカウントは避けたいねぇ。 それが誰であっても僕という存在が生き返ったという事だけで間違いなく面倒事になるからな」


 そんな事を考えながら、アイテムボックスを開こうとして……。


「あー、そっか。 俺のアイテム全部持ってかれたのか───何も貢献してなかった奴らめ。もうさ、 パーティメンバー全員盗賊にジョブチェンジしろよ」


 すっからかんになったアイテムボックスを閉じながら僕はふと、もうひとつの可能性に気がついた。


「待てよ? 裏アイテムボックスはアイツらも気が付かなかったんじゃないか? 」


 裏アイテムボックスとは、僕が勇者として倒した魔物や魔道具などからまたはものを仕舞っておいた呪われたアイテムの宝庫だ。


「ビンゴ!」


 僕の読みは見事に的中した。

 自分が処刑される前に見たまんまのアイテムが手の中に次々と呼び出される。


 幸い服とかは処刑前のままであり、裸とかではなかった。


「ひとまず、あの男が何をするのかを見張る必要があるな。 さっき空から見た感じ、ここは魔族の里だろうし……何より、あまり善人の気配がしないんだよなあの男から」


 僕は神話級アイテムの一つ、《見えざる神の兜ザ・ハーデス》を被る。


 この兜は、被った人間を見ることも触れることも認識することも不可能な状態にするという神の武具。

 ちなみに使わなかった理由は聖女の言葉である……使……と、聖剣エバーハートの使用条件のという制約のせいである。


 まぁ今手元に聖剣は無いし、聖女もいない。ならば遠慮なく使うとしよう。


 すぐに僕の体は闇夜と同化して消えた。

 さて、何を話してくれるのかな?

 もしかしたらファンの子供とかで、こっそりお土産とかを……待った、僕のお墓あまりにも汚くないか?


 ***


 話を聞き終えた僕は、


「よおし、君は殺す。確実に殺す。よくもまぁその首を持って墓参りとかしてくれやがったね?」


 すぐにでもこの男をぶち殺して、自らの罪を認識させなければと考えた。


 だがすぐに別の気配を感じ、僕は一旦伸ばした手を戻す。


「……これは、あーーー賢者ユリウスか。 なるほどねぇ。 じゃあ殺す対象が2人に増えたって訳かー。 ……」


 さて、そこで僕はとある悩みにぶち当たった。


 ───


 そんな贅沢な悩みに。


「本来の能力で殺すか? それとも、? ───ダメだな、まだ。 まぁそりゃそうか。 僕はまだ起きたばかりの寝坊助野郎だものな。 どんな機械だってふかし運転無しでは大惨事待ったナシだものな」


 じゃあ改めてどうやって殺すとしようか。


 まぁ一旦いい案が出るまでは───賢者となんだっけ?副団長アルベルト、君には幻の中で遊んでいて貰うとしようかな。


 僕はそういうと裏アイテムボックス……いや、本来の名前は『ヴォイドアーク』とか言ったっけ?

 まぁ、不要な物をぶち込むからゴミ箱とか言うこともある。


 まぁ、そこからを取り出した。


 鈴、と言ってもただの鈴じゃないのは当然なのだが……特徴は半透明で不規則に点滅している所ぐらいか。


「じゃあ、一旦考える時間にさせてもらおうかね。 『鳴り響け。そして惑わせ──迷わせ──虚ろわせろ。 哀れな鈴虫は一つ、暗闇に夢を忘れたのだから』……鳴れ。 《世捨て人の鈴》よ」


 "ず、るるるるるるるる───────しゃん"!!


 空間が歪む音が聞こえる。

 自分を中心にゆっくりと右回りに渦を巻いていく。

 そうして、しばらく回ったあと───静寂が訪れた。


「さてと。 流石は仙人の鈴だ。 恐ろしい効果範囲だよ」


 ひとまず、彼らが夢の中でどんな事をやっているのかを見ながら魔剣を起こす為の贄を処理していく。


 倒れた兵士を次々と潰しスクラッシュて、その血肉を集めていく。


「ふへ〜。 夢の中でそんなにボコボコにするかね普通。 そのやる気を魔王軍との戦いで使ってくれよほんとにさぁ」


 普段よりもかなりやる気満々な賢者を見ながら僕はかつてのやる気なさげの賢者達を思い返していた。


 ほんと邪魔だったんだよなぁあの人ら。


 バフもかけず、召喚もしないし魔法も適当な《賢者》。


 回復は自分と他のメンバー(勇者を除く)だけ。挙句、死霊系の魔物にビビって布団の中に逃げた《聖女》。


 自分の趣味の敵にしか戦闘しないし、謎にこだわって戦闘を長引かせて状況を悪化させまくるバカすぎる《武闘家》。


 フレンドリーファイアしかしてこなかった《大魔法使い》。


 ……よくこんなパーティを引き連れて俺は魔王を倒したよな……。

 というかこいつら、あの時点での世界最強のメンバーだったんだぜ?

 酷い詐欺のようなものだよなぁコレ。


 そんな昔話を懐かしんでいると、賢者が幻想の中の俺に勝利を収めたところであった。


「ふむ、じゃあサプライズで幻想を解いてやるとするか。 うーん、どんな反応をしてくれるのかな?楽しみだなぁ」


 少なくとも勇者としてこき使われていた時代では、愛した者以外に見せれなかった笑顔を僕はこぼした。






 ◇◇◇◇◇◇◇





 ※2024年、10月20日の投稿は2本だてです。

 次の投稿は夜19時頃になる予定です。



 もし続きが気になる、とか案外面白そうだな?とかもっとド派手な戦闘を見せて欲しい、とか思う方はぜひ☆☆☆と♡等、コメントなどで応援よろしくお願いします!













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