三章 (仮)仙女の知らないところで、皇帝は勝手に初恋を拗らせている
第21話 二人の出会い
◆◆◆
第七皇子である霄が「龍仙珠」の存在を知ったのは、当時の皇帝……年の離れた兄から疎まれ、成人したのを機に、玄州の刺史に任じられた頃だった。
――龍仙珠。
如意宝珠と近しきもの。
一切の魔障、災厄を退け、無礙自在にて、己の意のままに願いを叶える珠。
そんなとんでもない「宝珠」を面白半分に探していたら、それを所有している庶民が、自分の収めている土地の小さな邑にいるという情報を掴んだ。
会ってみたいと思ったのは、暇潰しだった。
きっと、このまま自分はこの田舎で、ぼうっとしながら朽ちていくのだろう。
それも良いと思っていた。
命を懸けてまで、面倒事に関わるのはごめんだ。
しかし、干上がっていた霄の気持ちは、すぐに一変したのだ。
……紛れもない。
龍仙珠の所有者、春天との出会いがきっかけだった。
彼女は霄が見掛けた途端、仕込みかと突っ込みたくなるほど鮮やかに、幼い子供から財布を摺られていたのだった。
「ああっ! 私の財布!!」
「大丈夫か。俺、追うけど?」
まだ追いつく距離なのに、走りださない少女に痺れを切らして、声をかけたものの、しかし、彼女は「いいよ。別に」と言って、逆方向に歩きだしていた。
「何だ。財布の中身が空っぽだったのか?」
「いいや。薬草売って歩いた今月分の全財産が入っていた」
「……今からでも、追いかけよう。遅くないはずだ」
「いいって。別に。私がぼうっと歩いていたから、悪いんだ。姉ちゃんには叱られるかもしれないけど。また稼げばいいんだよ」
変な奴だった。
小柄で華奢で童顔だけど、黒々とした瞳の静けさは、大人びていた。
彼女が放つ不思議な感覚に、霄は今までにない興味を抱いた。
(龍仙珠の所有者っていうのは、偽情報だろうな……)
もし、そんなものがあるのなら、彼女は全額盗まれるなんて事態にはなってないはずだ。
のらりくらりと、天桂山に繋がる畦道を一人で歩いて行く少女の後を、霄は距離を取って、尾行していたのだが……。
「何だ。あんたも姉ちゃんの客か?」
やはり、少女にはバレていたらしい。
「姉ちゃん? 客?」
「だって、姉ちゃんに占って欲しくて私の後をつけて来たんだろう? そういうことは、ちゃんと初めに言ってくれなくちゃ」
くるりと振り返った少女は勝手な解釈をして、現時点で不審人物以外何者でもない霄のもとに駆け寄って来てくれた。
謎の人懐っこさだ。
もちろん真実を話すつもりもない霄は、開き直って首肯するしかなかった。
「まあ……そんなところだな」
「ふーん。面白い人だな。あんた。かなり上質な着物を着ているし、美形だし、望めばどんな女性も相手してくれそうなのに。そんなに、恋占いがしたいのか?」
「……恋? 俺が?」
「いいんだよ。そんな隠さなくったって。いいところの坊ちゃんっぽいのに、供も連れずに来たんだから、誰にも聞かれたくない恋の話があるんだろう? 大丈夫だよ。私、口は堅いから。……ていうか、聞いてもすぐ忘れちゃうし。ほら、もう少し登ったところに庵があるから、案内してあげるよ」
怖いくらい、警戒心のない真っ直ぐな娘だ。
現状、見知らぬ異性と二人きりなのに……。
(怖くないのか?)
さりげなく問いかけてみたら、さすがに極悪人かどうかは判別できると笑って返された。
途中、道の端にあった盛り土で作った簡易墓の前で、彼女は手を合わせていた。
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