第8話 皇帝陛下の思し召し
「私が敵の施しなんて受けるはずがないだろう?」
「敵? 違う。俺はお前の唯一の友なんだろう?」
「霄。本当に友達だったらな、友達の大切な宝物を盗んだりなんかしないんだ」
「違う。盗んでなんてない。言っただろ? ちょっと拝借しただけだ」
悪びれることなく、再度の「拝借宣言」だ。
罪悪感の欠片もないらしい。
「あのな、私が了承して龍仙珠を貸したわけじゃないんだから、立派な犯罪なんだよ。それに……。天桂山の頂上で、あんたに置いていかれた私が、どんなに屈辱的な気持ちで下山したか分かるか?」
「ん? 聞いていた話と違うな。確か、近くの修行場で「今日が誕生日」と言ったら、豪華飯を馳走してもらえて、食べ過ぎたから一泊して下山したんじゃなかったのか?」
「何で、あんたがそれを知っているんだ?」
「人を雇っていたからな」
「まさか、天桂山から私を見張っていたのか? 変態め」
「変態だと? 俺が」
霄が忌々しげに唇を噛みしめている。
(そんなに悔しいのなら、どうして、最初から私に「龍仙珠を使ってしたいことがある」って、話さなかったんだよ?)
さすがに、多少は私の言わんとしていることが通じたのではないかと思ったのだが……。
「駄目だな。前言撤回だ。そんなチャラついた格好で、ふざけた占いなんかするのは、毒だ」
「はっ?」
今度は仕事妨害どころか、仕事否定までしてきた。
「見ろよ。あいつらはお前の何だ?」
促されるままに、周囲を見渡すと……。
店内にいる数人の男たちが、私に向かって、にこやかに手を振っていた。
「私のお客様だけど?」
一応、今の私は美貌の占術師で名を売っているのだ。
客=金は大事だ。
「ふふふ。皆さん、ごきげんよう! 今日は店じまいしますけど、また、いらしてくださいね」
軽く男たちに手を振り返していると、珍しく荒れた様子の霄がその手を掴んで引っ張った。
「痛いな。何するんだ!?」
「鼻の下を伸ばした男にへらへらするなって、姉ちゃんには習わなかったのか?」
「姉ちゃんは、鼻の下の伸びた男は、いいカモだから、期待すれすれのところで、躱し続けろって」
「ろくでもねえな。お前の姉ちゃん」
「何っ!? 人んちの姉ちゃんを勝手に持ち上げて、貶すな!」
「いいから来い。場所を変えるぞ」
「離せ! 何で盗人と仲良くしなきゃならないんだ? 早く盗んだモノを返せ」
「人聞きの悪い。……そのことで話があるから来たんだ。場合によっては、龍仙珠をお前に返しても良い」
「……それは本当か?」
「嘘じゃない。皇帝陛下の思し召しだからな」
「皇帝……陛下?」
なぜ、雲の上の御仁の名前がここで出て来るのか?
「……どういうこと?」
しかし、霄は私とは一切目を合わせることなく、茶房から私を引っ張って、北蓮で一番の高級飯屋に突入してしまったのだった。
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