第7話 恋をしたことがなくても、占いならできる

「お前、そういう色っぽい女にも化けることが出来たんだな?」

「色っぽいって、私が?」

「濃い口紅に、そんな露出の高い衣裳まで着込んで。何処に隠し持っていたんだ。それ?」


 誉められているのか、貶されているのか分かりはしない。

 私はありったけの不機嫌さを込めて、震える声で答えた。


「別に術なんて使ってないよ。顔は姉ちゃんに教えてもらった化粧をしただけだし、衣裳だって姉ちゃんが残していったものだ」

「なるほど。それでド派手な化粧と格好して、「恋占い」をしているんだな?」

「別に恋愛に限定したわけではないけど、でも、女性客の大半は恋愛を視て欲しいって言うから。自然と強くなる」

「恋愛の一つもしたことないくせに?」

「うるさいな。恋愛をしたことがなくったって、出来ないことはないんだよ。でも正直に話すと、お客さんが不安になるから、堂々としてろって、姉ちゃんが」

「だったら、姉ちゃんに感謝だな。……かなり、面白かった」

「他人様の私的な話に聞き耳を立てるなんて。最低だな。盗聴料金取ってやる」

「いいよ。いくら払えばいい? ついでに俺のことも占ってくれ」

「だったら、基本料金の三倍は……」


 ……と、いつもの調子で返そうとして、私は頭を横に振った。

 流されてどうする。


「……ていうか、こんなところまで私に会いに来たということは、あんたは私に「龍仙珠アレ」を返す気になったということか?」

「いいや」


 ……いいや?

 ここに来て、即答とは……。

 否定するにしても、もう少し逡巡して欲しかった。

 しかも……。


(めちゃくちゃ、見られてるし)


 今まで賑やかだった茶房の客たちが固唾を飲んでこちらの様子を窺っている。

 そんなに広くはない店内だ。

 私たちの会話なんて、筒抜けだろう。


(まったく……)


 盗みだけではなく、仕事妨害までして来るなんて、霄は私に恨みでもあるのか?


「どうせ、龍仙珠アレは今、手元にないんだろ? 近いうち、私から絶対に取り戻しに行くから。あんたは二度と私の前に顔を見せないでくれ」


 私は小声で渾身の怒りを表現しながら、立ち上がろうとしたが……。

 すぐに、ひらひらの袖を霄に掴まれてしまった。


「春天……。なぜだ? どうして、俺が当面凌げるだけの食糧と金を送ったのに、受け取らなかったんだ?」


 うわあ、怖い。


(気にするところ、そこかね?)


 彼は自分のやらかしたことを、忘れてしまったのか?

 しかも、本気で私のことを心配しているのなら、独り下山せざるを得なかった私の心配をするはずだ。


「霄……よ。あんた」


 私は怒りを抑えながら、矛盾だらけの友人に、きっぱりと言い返したのだった。

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