とんでもないトイレでした

 !? なんだ!? 野田さんの悲鳴が……!!


「どうした野田さん!?」


「ッ、~~~ッ……」



トイレの入口から呼びかけてみたが、うめき声のような声が聞こえるだけでハッキリとした応答が帰ってこない。


一体どうしたというんだ。中に入るべきか。しかし女の子がトイレに行ってる時にそこの中に行くのは男として配慮が欠けすぎているのでは……


……いや、ちょっと待て。ここは男子トイレだ。男が男子トイレに入るのは何の問題もないはずだ。


野田さんが気がかりだし、俺はトイレに突入した。



「大丈夫か野田さん!?」


「いたたた……」


「―――!?!?!?」



トイレに入って最初に目に入ったもの。

それは、パンツ。野田さんのパンツであった。赤色のパンツだった。赤髪美少女ではあるがパンツまで赤なのか。


いやそれよりもなんでパンツ丸見えなんだ!?

野田さんはこっちに尻を向けて倒れているポーズで、スカートが完全に捲り上がっていた。パンチラどころではなくパンモロだった。


俺は慌てて反対側を向いた。パンツを目撃してしまってから向こうを向くまで1秒もなかったが、それでも現役女子高生のパンツは男には刺激が強すぎて目に焼きついてしまった。



「あれ? 安村さん。なんで向こう向いてるんですか?」


背中に野田さんの声がかけられる。緊急事態かと思ったのにのんきな感じの声だった。ていうかスカートが捲られているのに気づいてないのか!?


「野田さん! スカート! スカート!!」


俺は向こうを向いたまま必死で野田さんに伝える。


「えっ……きゃっ!?」


パンツ丸見えになっていることに気づいた野田さんはスカートを直したであろう。



「安村さん……見ました……?」


「…………ああ……」


『見てないよ!』って言うべきだったか? でも見てないのに向こう向いてるのは不自然だし見てしまったのは不可抗力だし。



「……安村さんのエッチ」



野田さんの恥ずかしそうな声が聞こえた。

俺は確かにエッチではあるが、今のは俺が悪いのか……? 男子トイレに入っただけなのに。釈然としない。



「あっ、それより見てくださいよ安村さん! このトイレ!」


もうそっち向いて大丈夫かな? 俺は野田さんの方を向いた。



ブオオオオオオ!!!!!!


「うおっ!? なんだこれ!?」



個室トイレの中の壁に通気口のようなものが出現していて、そこからものすごい強風が吹いていた。


すごい風、すごい音。こんなにすごい音がしているのに俺は野田さんのパンツに意識が集中していて今の今まで気がつかなかった。女子高生のパンツの引力は恐ろしい。


野田さんは個室トイレに入ろうとして扉を開けたら強風が吹いて吹っ飛ばされて、それでスカートが捲れ上がってしまったということか。



「安村さん、なんなんですかこの風は!?」


「こっちが聞きたい! 俺は何も知らん!」


野田さんがトイレから出たらピタリと強風は止まった。マジでなんなんだよこのトイレ。

楓ちゃんの指示でできたトイレなので楓ちゃんは知ってるはずだ。あとで楓ちゃんに聞いてみるしかない。




―――




 放課後、学校帰りの高級車の中。楓ちゃんと一緒に後部座席に座っている俺はトイレについて聞くことにした。



「楓ちゃん」


「なーに、涼くん」


「学校に作った男子トイレのことなんだが、個室に入ったら強風が吹いたんだけどどういうことなんだ?」


「えっ!? そんなはずないよ。入ったら風なんて吹かないはずだよ」


「いや、入ったのは俺じゃなく野田さんなんだけど……」


「ああー……またあの女か……」


楓ちゃんが露骨に機嫌を悪そうにした。楓ちゃんの前では野田さんの話は極力するべきではないが、今は仕方ない。



「他人の弁当を食べようとするし、涼くんのトイレも使おうとするとか、本当に図々しいねあの女。お嬢様のくせに常識がないのかな? 野田グループの教育はどうなってるのかしら」


常識がないというセリフはあんな危険なトイレを作った楓ちゃんにも刺さると思うんだが……楓ちゃんをこれ以上怒らせたくないし言わないでおこう。



「で、あのトイレなんなんだ? ちゃんと知っておかないと危険だと思うんだが」


「いやだからトイレだって言ったじゃん。使んだよ」


「…………なんで……?」


「涼くんの服に発信器をつけてあるって言ったよね? その発信器を認証するシステムがトイレのすべての便器に搭載されてるんだよ」


「発信器を認証……?」


「発信器をつけてない人がトイレを使おうとしたらセンサーが反応して通気口が出現して強風が吹くようにしてあるの」


何それ怖い……そこまでするか……俺専用ってそのまんまの意味なのかよ。

本当に強い風だからなアレ。あれでトイレするのは不可能だ。あの風で無理やりトイレしようとしたら小便が顔面にかかるレベルのとんでもない風だ。



「あの……危ないからやめた方がいいんじゃないかと……」


「なんで? 学校に男性は涼くんしかいないんだから問題ないでしょ。全裸でトイレしない限り涼くんは絶対に安全だよ。女子なのに男子トイレを使おうとする非常識な女子生徒のことなんかいちいち考慮してられないよ」


「まあ……野田さんが変わってるだけで他の女子生徒が使うわけはないとは思うが。でも危ないものは危ないよ。風が強すぎるんだよ。あんな人を軽く吹き飛ばすような風にしなくてもいいだろ」


「涼くんのために作ったんだから、絶対に他の人に使われたくなかったの」


俺のためにそこまでしてくれる楓ちゃんの気持ちは嬉しいけど、やり方や方向性がズレすぎてる気がするんだよ。



「でももし間違えて女子生徒が使ったりしたら……ホラ、スカートだからさ、強い風を吹かしたりしたら、その……危ないって」


「なに? 野田先輩のスカートが捲れて中を見ちゃったとか?」


「えっ!? い、いや、そんなことは……」


「……あ、図星だ」



しまった、言わなくてもいいことを言ってしまった。何を自分から墓穴掘ってんだ、バカか俺は。

楓ちゃんの瞳から光が消えてジッと睨まれる。これは何度も見た、怒ってる目だ。



「へぇ、私以外の女の子のパンツ見たんだ?」


怖い、怖い怖い……すごく美しい瞳なのに今は楓ちゃんの目を見れない。


「いや、仕方ないだろ!? トイレであんな強い風が出るなんて予想できるわけないだろうが! 俺にはどうすることもできないよ!」


「……まあ確かに、強風を出したらスカートが捲れてもおかしくない……そんな簡単なことにも気づかなかった私のミスだ。

よし、強風はやめて火炎放射器にしようかな」


「何言ってんだよ!! 火事になったらどうするんだ!!」


「ふふっ、冗談だよ」


冗談に見えないんだよ、その目が。



「……ねぇ、涼くん」


「な、なんだ?」


あ、瞳に光が戻ってる。もう怒ってはなさそうだ、よかった。



「私のパンツ、見せてあげよっか」



!?!?!?


俺は車の中でひっくり返りそうになってしまった。



「なっ……何言ってんだ楓ちゃん!」


「だって、私のミスのせいで涼くんが他の女の子とエッチなイベント起こしたなんてすごくムカつくし悔しいもん。私もパンツを見せて涼くんのエッチな想い出を上書きしたい」



そう言って、楓ちゃんは自らのスカートの裾を指で摘んで、少し持ち上げる。

柔らかそうな瑞々しさを持つピチピチの白い太もも。そしてミニスカートの奥に、視線が強く惹きつけられる。俺はゴクッと喉を鳴らす。


ま、待て待て。なんとか理性を取り戻せ。パンツが見えそうで見えないギリギリのところで、俺は警鐘を鳴らして踏みとどまった。



「だ……ダメだよ楓ちゃん! そんなはしたないこと……」


「……見たくないの?」


「いや、すごく見たいけど……女の子がそういうのを軽々しく見せちゃダメだろ……」


「涼くんは女の子に見せてもらうより、事故とかハプニングで偶然見えちゃった、みたいな方が興奮するタイプ?」


「そ、それは……」


正直に言うと事故でパンツが見えちゃって女の子が恥ずかしがるシチュみたいなのはすごく好きだが、俺の好みとかは別にどうでもよくてだな……



「確かに、自分でパンツ見せるなんてのはなんか違う気はする。あまり簡単にパンツ見れちゃうのも男の子的にはおもしろくないかも。

私が間違ってたよ。私、嫉妬でちょっとおかしくなってたみたい。冷静に考えてみれば男の子にパンツ見られるのすごく恥ずかしいよ」


よかった、楓ちゃんがまともなこと言ってくれてる。そうだよ、恥じらいはすごく重要だよ。



「わかった、ごく自然に事故でパンツが見えちゃったみたいなイベントが起こせるように頑張るよ。今すぐってわけにはいかないけどいつか必ず起こしてみせる」


「お、おう……?」


「楽しみにしててね、涼くん」



なんでそうなるのかよくわからんが、そう言われたら楽しみになるに決まってるだろ。


とりあえず今この場では楓ちゃんのパンツは見れずじまいだったが、見れなかったからこそ妄想が捗って興奮して悶々とするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る