赤髪美少女が背後にいました
ビビった。死ぬほどビビった。
俺の細胞、神経のすべてが楓ちゃんに集中していたから、それ以外の部分が完全にお留守になってたから背後に近づいてきた女の子に気づくことができなかった。
俺は恐る恐る振り向く。
あ、この子……! 前にも会ってちょっと話したことがある、赤髪のハーフアップな女の子だ。
ま、まずい……女子校の体育館を覗いている男とか、完全に変態で変質者である。
俺がこの学校で働いていることは楓ちゃんが生徒に言ってあると思うんだが、全生徒に知れ渡っているとは限らないよな。
もしこの子が俺のことを知らない場合、俺はただの変態で通報対象だ。いや俺のことを知ってたとしても俺がしていたことは変態だ。
「あ、いや……違うんだよこれは……!」
何も違わない。体育館を覗いて楓ちゃんに見惚れていたのは紛れもない事実。何も言い逃れができず俺は慌てふためく。
赤髪の女の子はそんな俺を見てクスクスと笑った。
「ふふふっ、まあ気持ちはわからんでもないですよ」
「へ?」
「ピチピチ女子高生の体育の授業とか、同性の私でもちょっと見たくなっちゃいますもん。殿方ならなおさら見たいですよね」
「え? あ、ああ、そうだな、ははは……」
もしかして俺の変態行為に理解を示してくれてる? この子めっちゃいい子じゃん。
見つかっちゃったけどいい子で助かった……
「ごめん、扉が開いてたからつい……もう覗きなんてしない。本当にごめんなさい」
「別にちょっと授業を見学するくらいいいんじゃないですか? 女子更衣室を覗いたり盗撮したりするなら絶対に許せないですけど」
「しないしない!! そんなこと絶対にしないから!!」
赤髪美少女にちょっと冷たい目で見られたから全力で手をブンブン振って否定した。
可愛い女の子いっぱいの女子校にいるとついつい更衣室の中とか妄想してしまうが、妄想は許してください。
「まあそれはおいといて、あなたは確か中条会長が連れてきた学校職員……ということでいいんですよね?」
「あ、ああ……まあ、そうだ」
正確には学校職員なんて立派なものじゃなくてただの雑用係だけどな。間違いなくこの学校で一番下っ端だ。
「中条会長が殿方を連れてきたということで学校中で話題になってますよ」
「は、ははは……」
「それですごく気になることがあるんですけど」
「な、何……?」
「あなた、もしかして……
中条会長の彼氏さんですか?」
「!?!?!?」
か、彼氏!?
俺が!? 楓ちゃんの彼氏!? え、そう思われてるのか!?
「ち、違う! それは違うぞ!」
「違うのですか? ではあなたは中条会長とどういった関係なのでしょうか?」
「そ、それは……」
「わざわざ学校に殿方を呼ぶなんて、それなりに深い関係なのではないかと思ったのですが」
「うっ……」
……言えない。言えるわけがない。
楓ちゃんのペットだなんて言えるわけがない!
成人男性が女子高生のペットになってるなんて、絶対変態だと思われる。しかも一緒に住んでるんだぞ。絶対に生徒にバレるわけにはいかないな。バレたらこの学校で働けなくなる。
じゃあなんて答えようか……あまり下手なことは言えないぞ……俺はうーんと悩む。
「……俺は……楓ちゃんの……と、友達、だよ」
まあ、ウソではないよな。10年前一緒によく遊んだ仲だしな。
「へぇ、そうなんですか。中条会長に殿方のご友人が……もし彼氏だったらひっくり返るほど驚くところでしたが、友人でも十分驚きました」
「そんなに驚くことなのか?」
「だって中条会長は男性関係のウワサとか一切聞きませんでしたから。
中条会長は容姿端麗、頭脳明晰、社長令嬢です。女子生徒たちの憧れの的です。当然中条会長に結婚を申し込もうとする男性も後を絶ちません。
でも中条会長は男性を一切受けつけませんでした。どれだけ告白されても、迷う素振りもなく断り続けてきたそうです。これはウチの学校の生徒ならほとんど知ってる有名な話です」
楓ちゃんが、男性からの求婚を断り続けてきた……
楓ちゃんは、10年前からずっと俺を好きでいてくれてた。求婚を断っていたのは、俺のため……?
ヤバイ、また心臓の鼓動がおかしくなってきた。キュンとするというのはこういうことを言うのだろうか。
「……あの」
「ん?」
「あなたは中条会長のことが好きですよね?」
「!?!?!?」
俺の心臓に直接攻撃を受けた気分だった。俺はまだこの子のこと何にも知らないのになぜこの子が俺の気持ちを……!?
「ついさっきまで体育の授業を覗き見していたあなたですが、ほとんど中条会長を見ていましたよね」
……その通りですね。俺はこの子に全然気づかなかったけど他人から見てもバレバレなくらい楓ちゃんに見惚れてたんだな。
「中条会長を見ていたあなたの目、ハートになってましたよ」
「は!? いやまさか……」
「いえ、めっちゃハートでした。デレデレのデレデレでしたよ」
漫画じゃあるまいし目がハートて……いや、今時漫画でもめったにない表現だぞ……
……マジでハートになってたのか俺……傍から見てわかりやすすぎなのか俺……
……ていうかちょっと待て。なんか普通に会話を進めてきたけど。話題が楓ちゃんだから俺もつい話に乗っかってしまったけど。
この子誰だ。この子は一体何なんだ。
「……あの、ところでキミは……?」
目がハートとかいう恥ずかしい話題を逸らすためにも、話の方向を強引に変えた。
「ああ、私ですか? 私は
3年生か。楓ちゃんは2年生だから楓ちゃんの先輩か。
「野田さんか……俺は安村涼馬っていうんだけど」
「安村さん、ですね。覚えておきましょう」
「別に覚えなくていいよ」
「いや、この学校に勤務する唯一の男性ですし、たぶん忘れないと思いますよ」
「……マジで男は俺しかいないの?」
「そうですよ? 星光院学園の歴史上でも男性はあなただけのはずです。
開校以来ずっと男子禁制の学校です。あなたは中条会長が強く推薦したから入れました。特例中の特例です」
うわぁ……とんでもないところに連れてきてくれたんだな楓ちゃん……仕事が欲しいとは言ったけど他にいくらでもあっただろうに。
「なぁ、ところで今は授業中じゃないのか? 野田さんはここで何してたんだ?」
「授業ダルいから仮病使ってサボってました」
え、すごくいい子そうな感じなのに意外と不良なのか。名門お嬢様学校だって聞いてるけどこういう不良っぽい子いるとは意外だな。
「授業サボっていいのか?」
「授業なんて出なくてもテスト満点余裕ですし」
うわぁ、一度は言ってみたいセリフだ。やっぱり超エリートか。俺には理解できない。エリート怖い。
「まあ私のことはどうでもいいんですよ。それより私は、学園唯一の男性であるあなたに、ちょっと興味があります」
「……え……」
俺をまっすぐ見つめてクスッと微笑む野田さん。俺はまたドキッとさせられてしまった。
「とりあえず名刺を渡しておきますね」
「え? あ、どうも……?」
名刺を差し出され、元社会人の性質でサッと受け取った。
「じゃあ私は教室に戻ります。それでは」
「ああ……」
野田さんは手を振りながら去っていった。去っていく姿もとんでもない美少女だなぁ……
渡された名刺を見てみる。
! 野田グループ!?
中条グループと並ぶ大企業と言われている、あの野田グループ!?
やっぱりすごいところのお嬢様なんだな……俺身震いが止まらないよ。
「涼くん……?」
「―――!!!!!!」
ビクッ!!!!!!
背後から聞こえた楓ちゃんの声。
ビビりまくりながら振り返ると、目に光がない、闇を宿した楓ちゃんの姿がそこにあった。
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