すごい学校に到着しました




―――




 車が止まった。学校に到着したらしい。

どこだここは……俺の知らない土地だ。


っていうか、学校すげぇ……すげぇ広い。楓ちゃんの家といい勝負できるくらい広い。いや、学校と張り合えてる時点で楓ちゃんの家がおかしい。


俺がかつて通っていた高校、元カノの雲母と出会った思い出の学校を思い出す。

今目の前にある学校に比べればすごくしょぼくて平凡もいいところの母校だったが、思い出がいっぱいのいい学校だった。

今高校時代を思い出すと涙が出てきそうになる……青春時代のどこをどう思い出しても、ほとんど雲母がそばにいたから。


雲母……なんで俺を捨てた……あんなに一緒だったのに……



「涼くん、どうしたの? おーい」


ハッ!


楓ちゃんに頬をつつかれて俺は正気を取り戻した。

いかんいかん、昔を思い出してセンチメンタルな気分になってしまった。今この学校とは全然関係ないだろ。母校のことは一旦おいとけ。



「学校に着いたよ、早く降りよう」


「あ、ああ」



運転手さんにお礼を言って車から降りて、楓ちゃんと並んで校門の前に立つ。


で、この学校マジで何なんだ。校門の前に立っただけでも俺の知ってる母校と全然違うのがわかる。

俺の第一印象で言うと、学校というより城なんじゃないかって思う。なんか広いし高い。遠くから見てもわかるような高さの校舎があるぞ。

そしてピカピカと光ってる感じがする。実際に光っているわけではないがすげぇ光を感じるのだ。只者じゃないのがよくわかる学校だ。


校門には『星光院せいこういん学園』と書いてあった。



「じゃあ行こっか涼くん」


ぎゅっ


「!」



楓ちゃんは俺の手を握って学校の敷地内に入った。



「ちょっと待て楓ちゃん! 手を繋ぐのか?」


「うん。……イヤなの?」


楓ちゃんが寂しそうな表情をする。俺の飼い主なのに子犬みたいな表情をする。俺は心が少し痛んだ。


「いや俺は全然イヤじゃないけど……楓ちゃんはいいのか!? 学校内で俺と手を繋いで歩くなんて……」


「私は全然気にしないよ」



言葉通り、楓ちゃんは俺と手を繋ぎながら堂々と学校の敷地内を歩く。



ザワザワ

ヒソヒソ……



周りには生徒がたくさんいる。案の定俺は周りの生徒からすごい注目を浴びてしまい、冷や汗がダラダラと流れる。


ヤバイ、俺超目立ってる……それもそのはず、この空間で俺だけが制服を着てないし何より生徒でもなんでもない部外者だ。

そんな怪しすぎる不審者がこんなに可愛い女の子と手を繋いで歩いてたら目立ちまくるに決まっている。


っていうか……周りをよく見てみると……


女子、女子、女子。

周りの生徒は女子ばっかり。男子が全然見当たらない、女子しかいない。


まさか、この学校……



女子校!?



それじゃなおさら俺は目立つ……! この空間に男は俺1人だけだ! 制服じゃねぇし生徒じゃねぇし男だし、この空間では俺は異物にも程がある!

メチャクチャ視線を感じる。生徒の視線が痛すぎる。ああ、肩身が狭すぎる。心細すぎる。誰でもいい、ここに男性はいませんかー!?


ダメだ、いねぇ! 女の子しかいねぇ! 銅像まで女性だ!


楓ちゃんは相変わらず平静を保っている。俺は動揺しまくっていてあまりにも対照的で俺の情けなさが際立っている。結果より目立つ。



「楓ちゃん、この学校は何なんだ!?」


「知らないの涼くん。この制服を見て。どこかで見覚えない?」


「……わからん……」


楓ちゃんが着用している制服を見て、超可愛いということしかわからない。

スカートが短めで白くてピチピチの太ももがスラリと伸びててとても素晴らしい。黒のニーハイソックスもとても素晴らしい……あ、ダメだ俺、イヤラシイ目でしか彼女の制服姿を見れない。こんな変態に制服を見てとか言っちゃダメだよ楓ちゃん。



「そっか、ウチの学校テレビやネットでも紹介されたことあるんだけどなぁ」


「面目ない」


「この星光院学園はね、全国でも有名なお嬢様学校だよ」


「お嬢様学校!?」


「うん、基本的には身分が高い人しか入れない名門校。それが星光院学園」



言われてみれば、周りの女子生徒は高貴そうな人ばかりだ。誰も彼もなんとなく金持ちっぽいオーラが見える。

わっ、縦ロールの人とかもいる。初めて見たよ縦ロール。見るからにお嬢様だ。


まあ楓ちゃんもあの中条グループのご令嬢だし、こういう格式が高そうな学校に通っているのは納得。


ここが名門なお嬢様学校なのは間違いない。だったらなおさら俺は場違いじゃねぇか。男だし平凡な一般家庭だし学歴も大したことねぇし成人してるし、俺何もかもこの学校に入るのにふさわしくないぞ。



「……で、なんで俺ここに連れてこられたんだ……?」


「んー、もうちょっと待ってて」



そう言って楓ちゃんは俺を連れたまま校舎に入る。


その校舎の2階、ここは学校の事務室か。

楓ちゃんはここまで来たところで俺の手を離した。



「それじゃ涼くん、私ちょっと事務の職員さんと話をしてくるからキミはここでちょっと待ってて」


事務室のすぐ近く、階段のそばで待つように言われた。


「ああ、わかった」


「勝手にどっか行ったりしちゃダメだよ?」


「行かねぇよ」


言われなくても絶対に行かないわ。行くわけねぇだろ。こんな超絶アウェーの場所で楓ちゃんから離れるのはリスクが高すぎる。


楓ちゃんは事務室に行き、職員の人と話している。

職員に話って何だろうな……俺に何か関係があるのか? っていうか事務室の職員さんたちも見たところみんな女性だなぁ……マジで俺浮きすぎ。


ああ、心細い。楓ちゃんは俺が見えるところにいるというのに、ちょっとの間だけ1人でいるくらいでなんでこんなに寂しいんだ。子供か。


事務室の前を通る女子生徒たちがチラチラと見てくる。明らかに不審そうに見てくる。睨みつけてくる子もいる。怖い。この学校で男は俺しかいないんだから当たり前か。相当めずらしいだろうな。


辛い……早く戻ってきてくれ楓ちゃん! すぐそこにいるけど!




「あれ? めずらしいですね、この学校に男の人がいるなんて」



「!!!!!!」



俺はメチャクチャビックリした。1人の女子生徒に声をかけられた。

赤髪のハーフアップな髪型でスレンダーな体型の女の子だ。この子もすごく可愛い。この学校の女子は身分だけじゃなくて容姿もメチャクチャレベル高いんだな。



「どうかしましたか? この学校に何かご用ですか?」


「……え、俺……?」


「そうですよ? 殿方はあなたしかいません」


そ、そりゃそうだよな……男の人って言ってんだから俺のことだよな。

ヤバイ、なんて答えよう……女子高生のペットになって無理やり連れてこられたなんて言えるわけがない。でもここで黙ってると怪しまれる……



「その、いろいろな事情があって……」


言い訳が思いつかなくて適当にごまかすことにしたが……いろいろな事情ってなんだよ、そんなんでごまかせるわけねぇだろ。ヤバイ、すごく怪しまれるかも……



「へぇ、そうなんですか。じゃあ頑張ってくださいね」


赤髪の女の子は特に気にも留めずに去っていった。ごまかせた、のか……? まあ、特に何もなくてよかった……不審者として通報されるかと思ったよ。




 「お待たせ~」


あっ、楓ちゃん戻ってきた! 5分もかからなかった。5分もなかったのに俺すげぇ寂しい思いをしたよ。


……ん? 楓ちゃんは1枚の紙を持っていた。

……いやそれより、楓ちゃんの目に光がない。この目、前にも見た。なんか怖い。すげぇ怖い。ゾクッとしてつい姿勢を正してしまう。



「ねぇ涼くん、今の女の子何なの?」


「え? 今の女の子って赤い髪の子のことか? 声をかけられたんでちょっと話しただけだけど……」


「なんで私以外の子と話してんの?」


さっきから目が怖い理由ってそれ!? 嫉妬してるってこと!? 可愛いけど怖ぇって。



「えぇ!? 会話するだけでダメなのか!?」


「ダメだよ、キミは私のペットなんだから。飼い主がちょっと目を離したスキに他の女の子と接触するなんてイケナイ子だね」


えぇ、男がいるのがめずらしいみたいだからちょっと話しかけられただけなのにそんな理不尽な……なぁ、その光のない目で見つめてくるのやめてくれよ。マジで怖いよ。震えそうだよ俺。



「……まあいいや。はい涼くん、この書類にサインして」


「ん!?」



紙とペンを渡された。契約書と書かれている紙だ。一番下にサインする欄がある。

一瞬戸惑ったが、俺はペットなので言われた通りにサインした。



「はい、よくできました」


名前を書いただけだが頭を撫でてもらえた。


「それ……何の契約書なんだ……?」


サインしておいて何だが今さら不安になってきた。



「私のペットになったら仕事紹介してあげるって言ったじゃん。

キミは今日からこの星光院学園で働くことになりました」



「!?!?!?」



確かに仕事を失って新しい職業を探すつもりではあったが……

ここで働くのか俺!? この女子校で!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る