10年前の旅行で出会いました
―――――――――
10年前、俺は14歳、中学生だった。
1週間の家族旅行で遠くに来ていた。旅行初日、俺は1人で海辺を歩いていた。
「うえ~ん……え~ん……!」
麦わら帽子にワンピースを着た、ショートカットの女の子が泣いているのを見つけた。小学生くらいだろうか。
すごく困って泣いている様子だったので、俺はその子に声をかけた。知らない少女に声をかけるとか変質者扱いされるかもとは思ったがスルーするわけにもいかなかった。
「お嬢ちゃん、どうしたんだ?」
「……いたい……いたいの……」
よく見ると膝を擦りむいている。転んでケガをしたのか。
「ちょっと待ってろ、バンソーコー持ってるから」
俺もドジでマヌケなもんでよくケガしてたからバンソーコーを持ち歩いていた。バンソーコー持っててよかった。ドジマヌケなところが初めて役に立った。
俺は女の子の膝にバンソーコーを貼ってあげた。
女の子は泣き止んだ。よかったよかった。
「キミ、ここで1人で何してたんだ?」
「パパとママとはぐれちゃって……」
迷子か……迷子になった上にケガまでしてしまうとは災難だったな。そりゃあ大泣きするわ。パパとママを探さなきゃならないな。
「キミ、名前は?」
「……かえで……」
「楓ちゃんか。いくつ?」
「7さい……」
7歳の楓ちゃん、迷子か。
「そうか、俺は涼馬、14歳だ」
「……りょうくん……」
涼馬だよ。まあ呼び方は好きにすればいいけど。
俺は楓ちゃんと一緒にパパママを探し回った。
なんとか日が暮れる頃にはパパママを見つけることができた。パパママと会えてよかったよかった。
まさかあの時会った楓ちゃんのお父様が大企業中条グループの社長だったとは、夢にも思わなかったなぁ。
「りょうくんありがとう! ばいばい!」
楓ちゃんは嬉しそうに手を振った。
次の日も楓ちゃんに会って、旅行中の1週間、一緒にたくさん遊んだ。
―――――――――
10年前の記憶が脳内再生終了した。
「その顔……やっと思い出してくれたみたいだね、涼くん」
「……キミは……楓ちゃん……!? あの楓ちゃんなのか!?」
「そうだよ久しぶり、会えて嬉しいよ涼くん。でも気づくの遅くてちょっとおこだな私は」
「ご、ごめん……」
10年前、1週間だけの記憶。すぐに思い出すことはできなかった。
あの時の楓ちゃんは帽子をかぶってて髪型もショートカットでわからなかった。こんなにキレイな金髪だったんだな。
「あれから10年、私はずっとキミのことを想い続けてきた」
「……っ!」
美しい輝きを放つ瞳でまっすぐ見つめられ、心臓に何かが突き刺さるほどドキッとした。俺の顔、今すごく熱くなってそうだ。
「
「そ、そうだったのか」
「で、どう? 10年ぶりに会った私は。いい女になったかな?」
楓ちゃんはそう言ってセクシーポーズをした。
「っ……あ、ああ……そりゃもう、ものすごく……」
「ホント!?」
「ああ、すごくキレイになった……」
「ふふっ、嬉しいなぁ」
いい女になりすぎて目のやり場に困るというか、直視できない。
セクシーポーズでたわわな胸が強調されていて、少しだけたゆんと揺れたのが目に焼きついてしまった。発育がとても良いことを証明している。
すごいな、本当に立派に成長した。あんなに小っちゃかった女の子がここまで……
……それに引き換え、俺は……
「……ごめんな楓ちゃん。今の俺を見て幻滅しただろ」
「はぁ?」
楓ちゃんは首を傾げた。ジト目でこっちを見つめてきた。
「会社もクビになって家も失くして、落ちるところまで落ちた落ちこぼれになっちまったよ俺は……」
「涼くんまだ24でしょ? まだまだこれからだよ! 落ちちゃったんならまた這い上がればいいだけの話じゃん。涼くんならここから逆転勝利できるって私は確信してるよ」
「ありがとう、優しいな楓ちゃんは。でも無理だ。キミは俺を買いかぶりすぎだ、俺は全然大した人間じゃない。
俺たちは会ったことあるけど、10年前の1週間だけだ。あまりにも短いだろ。たった1週間程度の関係じゃ、キミに10年も想われてここまで良くしてもらえる理由にはちっとも足りないだろう」
「いいじゃん別に。時間の長さなんて関係ないよ。旅先で出会って恋に落ちるなんてロマンチックじゃない?」
「いや、恋に落ちるって言われても……あの時の楓ちゃんは7歳の小学生だったし……」
「あはは、冗談だよ」
……まあ、今の楓ちゃんには性的感情を抱いてしまっているんだけどな……本人には口が裂けても言えないけど。
あんなに純真無垢だった女の子をこんなにイヤラシイ目で見てしまうなんて、罪悪感が積もりに積もる。俺は穢れすぎた最低な男だ。
「……で、お風呂沸くけど入るの? 入んないの?」
「そ、それは……」
迷う。迷惑はかけられないという気持ちとせっかくここまで言ってくれてるんだからお言葉に甘えなよという気持ちが混ざり合っている。
「ねぇ、どうすんの?」
「っ……!」
縁側に座る俺と目線を合わせるように、楓ちゃんはしゃがみ込む。そしてズイッと俺の顔を覗き込んでくる。
心臓に悪く、楓ちゃんのまっすぐな視線と合わせられずに下を向く。
すると、胸元が開いた服を着ていたため彼女の谷間がチラッと見えてしまい、慌ててさらに視線を下に下げる。
そしたら今度はパンツが見えそうになっている。短いスカートを穿いてるからスラリと伸びた生足の破壊力がすごくて、俺は慌てて視線を逸らした。
見てない、見てないぞ。ギリギリだったけどパンツは見なかった。セーフセーフ。
「……涼くんがどうしてもここに住むのがイヤだと言うならもちろん強制はしないし今すぐ帰ってもいいけど……」
「イヤとかじゃなくて、申し訳ないというか……」
「イヤじゃないんならお風呂入って。そして寝て。これでこの話は終わり! じゃあ私は行くから」
「ま、待ってくれ楓ちゃん」
「何?」
「……いや、なんでもない」
「……私と一緒にお風呂に入る?」
「入らねぇよ!!」
…………
風呂に入るか……入るならさっさと入らないと迷惑だよな……
風呂に行った結果、かつて住んでいた家の風呂の10倍くらいの広さがあって俺は開いた口が塞がらないのであった。
―――――――――
※楓視点
涼くんが風呂に行ったのを確認して、私は自分の部屋に入る。
自分の机の上にある透明な小瓶を見る。その瓶の中にはバンソーコーが入っていた。
10年前、私がケガした時に涼くんが貼ってくれたバンソーコーだ。
私はそれを今でも大切に保存している。
「……ふふっ、ふふふ……」
涼くんが私の家に来てくれた。一生忘れない記念日になる。
バンソーコーを眺めながら、笑みが零れるのを止められなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます