すごい家に住めることになりました
すべてを失った俺は、金持ちでお嬢様で超美少女で金髪ロングで巨乳な女の子の家に住んでいいらしい。
……いや、なんで……?
「住んでいい!? 俺が!? この家に!? 何がどうなったらそういうことになるんだ!?」
「今さら何をそんなにうろたえてるんですか? あなた私の話聞いてましたか?
『行くあてがないなら私の家に来ませんか?』って言ったじゃないですか。私の家にずっといていいって意味ですよどう考えても」
「いやだって普通こんなにすごい家に住めるとは思わないだろ……」
「私は最初からそのつもりで家の中を案内しました」
「じゃあ外の景色を見る必要ないとか言ってたのは……」
「今日からこの家はあなたの家でもあるんですから景色なんていつでもどこでもいくらでも見れるじゃないですか、ということです」
「……いや、ちょっと待てよ……」
「何か私の家に不満でも?」
「違う、そうじゃねぇ! こんなにいい家不満なんかあるわけねぇ!!
なんで俺なんかがこの家に住む権利を得られたんだ? ってことだ! 完全に部外者だぞ俺! 一応社員と言えなくもないけどクビになってるんだぞ!?」
「別に私がいいって言ってるんだからいいじゃないですか。おじい様も納得してくださっていますし」
「よくねぇよ! ちゃんと説明してくれねぇと―――」
グゥゥ~~~
…………盛大に俺の腹が空腹の音を上げてしまった。
可愛い女の子に腹の音を聞かれて恥ずかしくて俯いた。
中条さんはクスッと微笑した。ああすげぇ恥ずかしい。
「ふふっ、すごくお腹すいてらっしゃるんですね」
そりゃあ、家を追い出されてからロクに食ってないしな……
「遠慮なさらず、ウチでごはん食べてってくださいよ」
「いやでもそこまで世話になるわけには……」
「どのみちあなたの分も用意させております。ウチの料理人たちが準備してくれているのに、あなたはそれを無下にするおつもりですか?」
「うっ……」
そう言われると断れない……俺の腹も『メシ食わせろぉー!!』と悲鳴を上げている。
巨乳に釣られた俺は、メシにも釣られることになった。俺の本能は欲望に忠実すぎる……
俺は中条さん家の夕食をいただけることになった。
夕食も本当に豪華だ。カニだカニ。カニがいっぱい。今までの俺はなかなか食えなかったものだぞ。本当に感謝しなくては。感謝しまくって拝まなくては。
「安村さん! はい、あ~ん」
「……っ!?!?!?」
俺のとなりに中条さんが座って、スプーンに乗せた料理を俺の口元に持っていっている。
メシ食わせてくれるだけでも何度土下座しても足りないくらいありがたいというのに、巨乳美少女にあ~んまでしてもらえるのか!?
あ~んなんて雲母にも一度もしてもらったことないのに、今日会ったばかりの中条さんがなんで……!?
俺は……明日死ぬのか? これは最後の晩餐なんだろうか? 幸せの供給過多でむしろ暴力になってないか。
おじいさんの方をチラッと見ると、おじいさんは向かい側の席で黙って黙々と食事している。俺たちのことは全然気にしてないようだ。
「安村さん、あ~んですよ。お口開けてください」
「だ、大丈夫、1人で食えるから……」
グイッ!
「むぐぅっ!?」
無理やり強引に俺の口の中にスプーンがねじ込まれた。強制あ~んだ。一度口に入れたものを吐き出すのは失礼すぎるし、俺はもぐもぐと咀嚼した。
「おいしいですか?」
「おいしい……!」
「よかったです。さ、どんどん食べさせてあげますね」
「いやだから1人で食うから―――」
グイッ!
「むぐっ!?」
その後も中条さんはパワープレイで俺に強引に食べさせまくった。
夕食後、久しぶりに満腹になって幸福感を得た俺は、縁側に座って休憩していた。
庭園と夜景の組み合わせもさらに美しく、幸福感を底上げする。
幸福感以上に、なんでここまで良くしてくれるんだ? という疑問も腹の中でグルグルと渦巻いている。
「安村さんっ!」
ドキッとする。俺を渦巻く疑問、その原因のすべてといってもいい存在、中条楓という女の子がやってきた。
彼女は一体何を考えているんだ。今この瞬間ほど、心を読む能力が欲しいと思ったことはない。
「安村さん、もうすぐお風呂が沸きますからね」
……! お風呂の準備までしてくれるのか。なんでここまで……
「……中条さん」
「なんですか?」
「いいかげん教えてくれないか。なんで俺なんかのためにここまでしてくれるんだ? いくらなんでも俺に都合が良すぎるだろう」
「私的にはこれでもまだまだ全然おもてなしが足りないですけどね。ごはんとお風呂くらいならどの家庭でもできます。ウチのような金持ちにしかできないようなサービスもしたいです」
「俺にそこまでする義理はないだろ」
「ありますよ」
「じゃあ教えてくれよその義理を。なんで俺にそこまですんの?
今日初めて会ったばかりの赤の他人だろ俺たちは!」
「…………」
……!?
公園で初めて会った時もこんな目をした。光を失ったような目。公園の時はすぐに元に戻ったが、今は暗い瞳のままだ。
ゾクッと背筋が凍る。彼女はすごく優しい女の子だと思っていたが、本当の彼女はそうではないんじゃないかと……根拠はないがそんな気がした。
「はぁ……本当に何にも覚えてないんだね。こうして一緒にいればすぐに思い出してくれると思ってたんだけどなぁ」
急に口調が変わって心臓を鷲掴みにされたようにドキッとさせられた。
でも、今この瞬間の中条さんは、初めて会った感じではないような気がした。
「え……もしかして、昔どこかで会ったことある……?」
「うん、あるよ。もう10年前になるかな、小学生だった私とよく一緒に遊んでくれたじゃん。
思い出して……私だよ、涼くん」
「―――……!!!!!!」
10年前、当時の俺は中学生。小学生の女の子。涼くんと呼ばれ、よく遊んだ……?
俺の脳内はフル回転してカッと覚醒する。
当時の記憶が脳内で再生される。
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