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本当なら、ロールケーキを片手に帰って来た夫は居ない。けれども、ご飯の後のテーブルにはロールケーキが。それは、美亜がパート帰りに買って来たものだった。しっかり2人分用意され、この日も誰も居ない席に話しかける。


その姿は、周りにしてみれば奇妙だろう。それでも彼女にとっては"普通"なのだ。最愛の夫と共に生きていく事こそ、美亜にとっての幸せであり、生きていると実感出来るのであった。


夫の居ない人生こそ"奇妙"であり、"不思議"であり、"非日常"なのだ。




「明日、夫と植物園行く予定で。」


ある日のパートの休憩中、美亜はベテランの女性に嬉しそうに話していた。


「あらいいわね。植物好きですものね。」


「えぇ、そうなんです。だからもう明日が待ち遠しくて。夜眠れるかしら。」


楽しそうに笑う美亜。




彼女は夫の霊と共に、あの庭付きの一軒家で幸せに暮らした。


そして80代でこの世を去った。その顔は、幸せに満ちた優しい表情だったと、近所の人達は言う。


彼女は最期まで幸せだったのだ。

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