第17話 全面対決
きっかけは、唐突に訪れた。
──ドガアアアアアアア!
「「「……!?」」」
ここ“イースト街”と皇都を分ける門が、突然の爆発。
大騒ぎになるまで、数秒も必要なかった。
「「「きゃああああああっ!」」」
人々は途端に逃げ惑う。
同時に皇都側の門から現れたのは、“皇族直属部隊”だ。
「イースト街は焼き尽くす!」
「レグナス様の命によって!」
彼らは皇族が直接雇用している集団。
多くは騎士団や傭兵から引き抜かれている。
つまり、共通して
貴族直属部隊の目的は一つ。
ティアを支持する街を潰すことだ。
「「「きゃああああああっ!」」」
だが、そんな事情は知らず、人々は逃げることしかできない。
そんな中、一人の皇子が立ち上がった。
「皆の者、まずは安全を第一に! 西へ逃げるのだ!」
「「「ヴィンゼル第二皇子……!」」」
イースト街で活動をしていたヴィンゼルだ。
容姿、声、共にカリスマ的存在の彼には、市民は素直に従う。
避難経路は確保され、人々は同じ方向へ逃げ出した。
そして、ヴィンゼルはその場で立ち止まる。
「随分と手荒な真似ではないか。レグナスの使いかい?」
すると、部隊から一人の男が前に出てきた。
「その通りだ、
「……! どうして君が!」
姿を現したのは──バラム第三皇子。
シャロルによって権利を放棄させられた、“元”皇位継承権第四位の男だ。
ニヤリとしたバラムは、誇らしげに口を開く。
「ここで戦果を挙げれば、レグナス様が地位を約束してくれたのでな」
「……」
その言葉に、ヴィンゼルは思い出す。
(バラムは、何よりも地位と金が好きな男だったな……)
また、後方には他にも知る面々がいる。
皇子、皇女など、権利を放棄させられた皇族だ。
(ティアと私以外は全て丸め込んだということか)
ティア以外の皇族は、各々が独自に部隊を持つ。
それらが全てレグナス側に付いたとすれば、勢力の割合はおよそ2:8。
絶望的な戦力差だ。
ならばと、バラム達は上から誘った。
「義兄上、言いたいことはお分かりでしょう?」
「……っ」
「レグナス様に付く気はありませんか?」
これが“最後通告”だと言いたいのだ。
だが、それでもヴィンゼルは首を縦に振らない。
「──結構だ」
「なっ! なぜ!?」
「私も見たくなってしまったんだよ。ティアが作る未来を」
ヴィンゼルは正面から向き合い、手を掲げる。
周りから途端に出てくるのは、ヴィンゼルの直属部隊だ。
「そちらがその気なら、私も全力で行かせてもらう」
「「「……!」」」
ヴィンゼルの目は、すでに覚悟を決めていた。
「ティアの邪魔はさせないよ」
★
同時刻、皇都の北に位置する“ノース街”。
「チッ、なんなんだこれは!」
混乱する街の中、シャロルが人波をかき分けながら駆ける。
急いで向かうのは、
「「「きゃああああああっ!」」」
ほんの一分前、イースト街同様に奇襲が起きていた。
だが、イースト街とは違う点があった。
「久しぶりね、
「……ッ!」
皇都と街を分ける門に付くと、シャロルはコードネームを呼ばれる。
その見知った顔に、シャロルは声を上げた。
「お前は……クロネコ!」
「ふふふっ」
コードネーム『クロネコ』。
シャロルがいた闇ギルドに所属する、凄腕の傭兵である。
だが、実力はナンバー
久しぶりの再会に、クロネコは軽い
素早い動きから、いきなり隠しクナイを投げたのだ。
「足を洗ったとは聞いてたけど、ティア皇女に付いたのね!」
「そうだ、あの方は国を変える存在だ!」
対してシャロルも、左右に回避しながら言葉を交わす。
「そっちは敵になったってことでいいんだね」
「そうね。ま、私
「……!」
すると、クロネコの後ろからぞろぞろと傭兵がやってくる。
どれも裏社会では名を
つまり、ノース街を襲ったのは傭兵集団だったのだ。
「裏の連中もすっかりレグナス様の手駒だよ」
「丸ごと買収されたのね。あんた達はそれでいいわけ」
「……何言ってんの」
一瞬動きを止めると、クロネコは指で丸を作る。
「私たちが一番信頼するのは
「……」
シャロルも強い反論はできない。
少し前までは、同じ理由でレグナスの依頼を受けていたからだ。
しかし、今の彼女は考えは違う。
「それを否定する気はない。でもワタシは気づいた。いや、気づかされたんだ」
「何の話?」
「世の中、金よりもっと大切なものがあるってね」
「ふーん……」
それには、クロネコは顔をしかめた。
「やっぱり随分と
「そう言うなら教えてあげるわよ」
対して、シャロルも本気の態勢を取る。
「人を守りたいって気持ちが、どれだけ力をくれるかってことをね」
★
そして同時刻、スラム。
「ティア、下がってて」
二つの街と同じく、ここでも火の手が上がってる。
だが、アルはふいにある方向へ目を向けた。
視線の先にいるのは──第一皇子レグナスだ。
「これはあなたが仕組んだのでしょうか」
「そうだ。皇位継承の前に立場をハッキリさせようと思ってな」
手に炎を灯したレグナスは、口角を上げて言葉にした。
「俺は、俺に付いて来る者だけを優遇する。それ以外は消し炭だ」
「……!」
レグナスが同時多発で狙った三つの街は、全てティアを支持する声が大きい。
それらを潰すことで、他の街への見せしめにするつもりなのだ。
“レグナスを支持しなければ
だが、当然それを許せるティアではない。
「レグナス様、あなたは間違っています!」
「なんとでも言うが良い。自分では何も出来ぬ弱き者が」
「……っ!」
しかし、それにはアルが口を挟む。
「そんなことはありません。ティアには人々を変える力があります」
「ほう」
「僕もその内の一人です」
「……面白い」
これ以上の問答は不要だろう。
アルはティアの前に立ち、レグナス同様に構えを取った。
すると、最後にティアが告げる。
「アル様、気を付けてください」
「……?」
「レグナス様は強さも確かです。ですが、何より厄介なのは──」
その恐ろしさを知るように。
「勝利のためなら
「……!」
「それでもアル様であれば、きっと!」
「もちろん」
だが、やはりアルを信頼しているようだ。
アルも応えるように強くうなずく。
「絶対に勝ちます」
「はい!」
そうして、ティアが距離を取る──のもつかの間、突然レグナスがアルに迫る。
手段を選ばないレグナスには、会話など関係ない。
「よそ見をしているからだぞ!」
「──してませんよ」
しかし、その程度は察知していた。
気配だけで動きを読んだアルは、レグナスの剣を容易にかわす。
同時に、右手拳は強く握られている。
「以前お会いした時から、こうしたかったんです」
「……!?」
そしてそのまま──
「レグナス、お前を倒す……!」
「がはぁっ!」
強烈な拳を顔面に叩き込んだ。
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