第14話 決意表明

 「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 大きな舞台の上で、ドレスに身を包んだティアが一礼をする。


 本日は“成人の式典”。

 今年十五歳を迎えたティアが、正式に皇女として認知される場だ。


 ティアはすでに広く知られているが、本来はこの日から公的な活動をする皇族がほとんどである。


「わたし──第三皇女ティアリス・フォン・アステリアは、無事に成人を迎えることができました」


 ティアの言葉により、式典は進んでいく。


 この式典で行われる儀式は、大きく二つ。

 一つは、皇女としての決意表明である。

 しかし、それについて周囲はざわついていた。


「ティア様は皇位継承権をいかがなされるのか」

「この状況だからな……」

「影では何者かが動いているとか」

「ティア様には重すぎるであろう」


 最近、次々と皇位継承権が放棄されているからだ。

 色々な噂が飛び交うが、“闇”が動いていることは誰もが分かっている。

 そんな中で、今回のティアがどう答えるかは注目されていた。


 すると、ティアはハッキリと立場を口にする。


「わたしは皇帝を目指します」

「「「……っ!」」」


 いつもに増してれつな争いとなっている皇位継承戦に、自らも参戦すると宣言したのだ。

 これには譲れない想いが込められている。


「誰もが幸せになれる、平等な国を作るために!」

「「「……」」」


 だが、周囲の拍手は得られない。


 それもそのはず、出席しているのは高位貴族のみ。

 彼らには何のメリットもないどころか、デメリットすらあるのだから。

 しかし、それも分かってティアはあえて言葉にしたのだ。


「きっと賛同してくださる方がいると信じています」


 まだ完全には腐っていないと信じて。

 優しい心を持つ貴族がいると信じて。


 すると、とある区画からわずかな拍手が起こる。


「……!」


 シャロルだ。

 高貴な服装に身を包み、持ち前のスキルで貴族にふんしている。

 一人が拍手をすれば、それはでんしていく。


──パチパチパチパチ。


 シャロルから始まり、一人、また一人と伝わる。

 そうして、やがて会場は拍手に包まれた。


「……っ!」


 この光景はまだ偽りかもしれない。

 でも、きっとこれを現実にしてみせる。

 ティアは改めてそう決意したのだった。


 また、成人の式典は皇国中で音声放送されている。

 会場以外の街では大盛り上がりだったようだ。

 

「ティア様ばんざーい!」

「あの方はきっと国を変えて下さる!」

「ああ、私たちも住みやすい国に!」

「平民にも寄り添って下さる国に!」


 貧民街スラムの者達も、門の外からの放送を聞いていた。


「さすがティア様じゃ!」

「ティア様が皇帝になられれば!」

「ああ、この街もきっと!」

「僕もっと応援するよ!」

「私もティア様に皇帝になってほしい!」

 

 皇都以外の皇国中で歓声が湧き上がる。

 貴族を差別しないティアは、平民からは圧倒的な支持があるのだ。

 もっとも、選挙権を持つのは貴族だけのため、ぜんとして厳しい立場ではあるが。


 そして、“成人の式典”は二つ目の儀式へと移る。


「それでは、わたしの近衛騎士を指名します」


 それが“近衛騎士指名”である。

 近衛騎士は名の通り、一番信頼される者・・・・・・・・に与えられる称号だ。


 そのため、多くは公爵家、又は騎士に特化した家系から選ばれる。

 しかし、ティアはそれらと関わりを持っていない。

 再び周囲がざわつく中、ティアの言葉で入場門が開かれた。

 

「近衛騎士よ、前に」

「はっ!」

「「「……!」」」


 そこから登場したのは──アルだ。

 だが、アルは貴族でもなければこの国の者ですらない。

 当然、くらいを重んじる周囲からは声が上がる。


「なんだあの者は……!」

「貴族ではないではないか!」

「通して良いのか!?」

「だが、ティア様の印は持っておられる!」

「どうやって取り入ったのだ!」

「ふん、ティア様もさかるお年頃ということか」


 アルとティアが同年代なことから、あらぬ事まで言われる始末だ。

 もちろん二人の耳にも届いている。

 それでも、お互い真っ直ぐに見合ったまま、アルは舞台に向かって歩を進める。


 共に、理想の未来を見ているかのように。


「アル様」

「はい」


 ふっと微笑んだティアの前でアルがひざまずく。

 アルには、近衛騎士の証として剣が送られるのだ。


なんじを我が近衛騎士として指名します」

「拝命いたしました」


 ティアより証をたまわり、アルは正式に近衛騎士となった。

 振り返った舞台からは、嫌々ながらも拍手が送られている。

 またシャロルによる工作だろう。


 その光景を前に、アルは再び決意を固めた。


(僕とティアで、この国を変えてみせる……!)


 しばらく過ごす内に、アルもアステリア皇国に愛着が湧いていた。

 それと同時に、貴族や皇族に対する嫌悪感も。

 ならば、それらを解決してティアが目指す理想を叶えたいと願う。


 こうして、ティアの“成人の式典”は終えた。

 

 だが、いつもの成人の式典とは、少し違う意味を持つ。

 これにて皇位継承戦への参戦者が出そろったからだ。

 

 皇位継承権“第三位”──第三皇女ティア。


(わたしとアル様でこの国を……!)



 第二位──第二皇子ヴィンゼル。


「君はそういう感じなんだね、ティア」



 そして、第一位──第一皇子レグナス。


「ふん、下らんな」


 この日を境に、三人の皇位継承戦はさらに激しさを増していく──。

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