1章 13話『ストラングル』

夕方の陽が窓から差し込み、石造りの大広間を黄金色に染め上げていた。大理石のテーブルには豪勢な料理が並べられ、盛大な晩餐が進んでいた。天井近くを飛び交うランプの光が、食器の金属とガラスに反射してキラキラと輝く。


「今日は肉がいつもより柔らかいな! 料理長、腕を上げたな!」

ラズールは満足げに声を上げ、テーブルの端にいる料理長に親指を立てて見せた。彼の前には大皿のステーキと色とりどりの野菜、そしていつもの甘い飴が無造作に置かれていた。


タクミも少し離れた席で食事をしていた。静かにナイフとフォークを動かしつつも、ラズールが繰り返す冗談に時折微笑んでいた。食卓を囲む者たちはみな上機嫌で、笑い声が響き渡っている。


「タクミ、何だお前は! そんな顔をしても、俺のジョークが気に入ってるんだろう?」

ラズールは頬張りながら片目をウインクさせ、また一つ飴を口に放り込んだ。


「いや、別に……」

タクミは苦笑しながらも、それ以上は何も言わなかった。


ラズールは豪快に笑いながら、口の中の飴をゆっくりと舐めていた。しかしその瞬間、彼の表情がわずかに変わった。のどに何かが詰まったような違和感が生じたのだ。ラズールは大広間にて、いつものように飴を口に放り込みながら、タクミに向けて何気ない冗談を飛ばしていた。その瞬間、喉を通り過ぎる感覚に違和感を覚え、彼は一瞬、顔をしかめた。


「ん、んぐ……」


喉に違和感が増していく。いつもなら何ともないはずの飴が、なぜか今回は喉を通らずに詰まってしまったかのように感じられた。彼はすぐに飲み込もうとしたが、何かがうまくいかない。呼吸が急に詰まり、胸に重苦しい圧迫感が広がった。


「ラズール? どうしたんだ?」


タクミが声をかけたが、ラズールの反応はなく、手が自分の喉に伸び、無意識に掴み始めていた。唇の色が少しずつ変わり始め、目が大きく見開かれる。


「ラズール!」


タクミはすぐに異変に気付き、彼の背中に回って軽く叩こうとした。しかし、ラズールはもがくように両手で喉を押さえ、ますます苦しげな表情を浮かべている。


「くっ……」


ラズールは何とか声を出そうとするが、すでに声帯は圧迫されており、かすかな音しか出ない。彼の呼吸は次第に浅く、そして不規則になっていった。目は血走り、汗が額から滴り落ちる。


その瞬間、ラズールの体が激しく痙攣し始めた。彼は必死に空気を吸おうとするが、何も吸い込めず、喉に詰まった異物は一切動く気配を見せない。飴は完全に彼の気道を塞ぎ、息ができなくなっていた。


「ラズール!しっかりしろ!」


タクミは何度も彼の背中を叩いたが、何も効果がない。ラズールの体は力を失い、床に倒れ込んだ。タクミは必死に彼の名前を叫び続けたが、彼の耳にはその声が届いていないかのようだった。


最後にラズールが目にしたのは、ぼやけた天井の光。そして、目の前のすべてが暗闇に包まれた。


ラズールの異変に気づき、食卓の周囲が一瞬にして静まり返った。タクミも含め、皆が驚いた表情で彼を見つめる。


「ラズール! どうした!」

一人が叫びながら、彼の側に駆け寄ったが、ラズールはすでに倒れ込んでいた。タクミはすぐに異変に気づき、席を立って彼の背中に手を伸ばしたが、時すでに遅く、ラズールの意識は遠のいていった。


大広間の空気は一変し、先ほどまでの和やかさが嘘のように消え失せた。

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