1章 14話『脳内ギャンブル』

大広間は静まり返っていた。ラズールの体が床に倒れ、彼の顔は青白くなっていた。タクミは混乱したまま彼の側に駆け寄り、必死に彼を揺さぶった。


「ラズール、しっかりしろ!」

彼の声は焦りに満ちていた。周りの者たちも次々と駆け寄り、事態を把握しようと必死に動いた。


「誰か、医者を呼んで!」

タクミは叫んだ。だが、ラズールは息をすることもできず、目を閉じたまま動かなかった。彼の喉を押さえ、必死に呼吸を取り戻そうとするタクミの手は、彼の首にしっかりと力を入れた。


「いけない!ラズール!」

彼は心の中で叫びながら、ラズールの背中を叩こうとした。周囲の人々も混乱していたが、何をすべきかわからずに立ち尽くしていた。


その時、料理長が大声で指示を出した。

「こちらに私を!お前、急いで医者を探してくれ!そして、もう一人は水を持ってきて!」

指示を受けた者たちはすぐに動き出し、混乱の中で行動を開始した。


タクミはラズールの顔を見つめ、彼がどれほどの苦痛を抱えているかを感じ取ろうとした。しかし、ラズールの表情はすでに力を失っており、冷たく硬くなっていた。


「頼む、ラズール、目を開けて……」

その瞬間、タクミは無力感に押しつぶされそうになった。彼はラズールとの日々を思い出し、これから先の未来が考えられないほど暗くなってしまった。


やがて、遠くから医者の声が聞こえた。人々が通り抜ける音と、急ぐ足音が響いてくる。タクミは彼らの方に視線を向け、希望の光を見つけようとした。

医者がすぐにラズールの元に到着し、彼の状況を把握するためにすぐに動き始めた。


「何が起こったの?」

医者はラズールの体をチェックし、周りの者たちに問いかけた。混乱の中、タクミは簡潔に状況を説明した。


「飴を誤飲して……息ができないんです!」

言葉がもつれながらも、必死に医者に訴えた。


「よし、すぐに処置を始める!」

医者はすぐにラズールの喉に手を置き、緊急の処置を施し始めた。タクミは目を閉じて祈るように、彼の無事を願った。


一瞬の静寂の後、医者の手から力強い動きが伝わってきた。タクミはその瞬間を見逃さず、希望を抱いて彼を見つめ続けた。やがて、ラズールの体が大きく反応し、彼は喉を詰まらせていた飴を吐き出した。


「……うっ、がぁ!」

ラズールは苦しそうに息を吐き出し、全身が痙攣した。彼の目がゆっくりと開かれ、周囲の光景を認識するかのように動き始めた。


「タクミ……?」

ラズールの声はかすかで、まだ息が苦しそうだった。


「ラズール!お前が戻ってきた!」

タクミは嬉しさに涙がこぼれそうになりながら、彼を抱きしめるようにして応えた。


医者はラズールの体にまだ気を配りながら、他の者たちに指示を出した。周囲の人々は緊張から解放され、次第に安堵の声が漏れ始めた。


ラズールは自分の状況を理解するまでに少し時間がかかったが、彼の顔には恐怖の色が薄れ、穏やかさが戻ってきた。


「もう、飴は食べないから……」

ラズールは微笑みながらそう言った。皆は彼の軽口に少し笑い、場の空気が和やかさを取り戻した。


だが、その瞬間、タクミは彼の言葉の裏にある恐ろしい瞬間を忘れることはできなかった。友人を失うかもしれないという恐怖は、彼の心に深く刻まれていたからだ。


この出来事は、彼らの絆を一層強めるきっかけとなった。ラズールが生きている限り、二人の冒険は続いていくことを、タクミは心に決めたのだった。

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