第2話




鉄の扉を潜り外に出ると長い廊下に出た。

”宿泊場”と同じように厚い石で天井と壁ができている。


廊下を渡り終えると、

豊富な種類の武器が並んでいる。


「さあ、ここから好きなものを選べ!時間は60分だ」


看守(?)のリーダー格が叫ぶと、

外に出るときに着けられた手枷を外してくれた。


「さて……」



武器ね……。

握った経験のあるのは、ナイフくらいなもんなんだが……。



小剣、剣、斧、槍、鎌、メイス、スタッフ──



幾つも並ぶ武器は、

どれも奇麗に手入れされているとは言えない粗悪品ばかり。



どの武器を選ぶかは、

相手を知らなければ判断できない。

まずは武器を選ぶ前に情報収集をしよう……。



看守はリーダー格を含めて7人いる。

その内の一人に聞いてみることにした。



話の通じればいいのだが……。



「あの」

「なんだ小僧」

「俺たちが戦う相手って誰なんだ?」

「ああ、そいつはな──」

「おい貴様なにを話している!」



……おっと、リーダー格の男の気分を損ねたようだ。


「い、いえ、今日の対戦相手を知りたいそうで……」

「ふんっ、そんなことか…ならばわたしが教えてやろう……。今日の相手はな昨日に引き続いて”闘技王ジャック”だ!」

「は……?なんでだよ!」


俺が反応するよりも先に、

ほかの闘士たちが声を上げた。


「どうやら……昨日の戦いでは満足できなかったようでな。それで『昨日の倍の闘士たちを寄越せ』とな、っは!うれしいだろう……?」

「うれしくねぇよ……うそだろ」


武器を選ぶ手を止めて、あるいは落とし、

絶望の表情を見せる闘士たち。


「なんでそれがうれしいことなんだ?」


純粋な質問として聞いてみた。


「それはな──」



曰く闘技場のシステムとして、

闘士たちに勝敗への賭けによって運営が成り立っている。

もしもオッズが高い選手を倒せばその利益分が自分に返ってくる。



「……つまりは奴隷の身分から抜けられるってわけか」

「さすがにガキでも理解できたか……そういうことだ、せいぜい励めよ」


ゲヘヘッ、と笑うリーダー格の男。


「闘技王ジャックはどういう戦い方をするんだ?」


少し話が逸れたので肝心の事を聞く。


「……まあ、いいだろ。ジャックはな────」




────闘技王ジャック、別名を斬り裂きジャックという。


「おらおら、血を見せろクソ共ォ!」


人でもモンスターでも真っ二つに裂くことから来た通名。

開始の鐘が鳴って数分で既に3名が身体を大斧で引き裂かれていた。



既に血を大量に浴びてるのにまだ足りないのか……。



「次はお前だな……!」

「ひっ……!」


ジャックの気分で狙いを着けられた者は、

最後の抵抗に構える武器ごと真っ二つにされる……。




……その瞬間、


バキィィ、と金属の激しい音が鳴る。


「ほう……オレの一撃を止めるか、小僧」

「思ったより軽い一撃だな、闘技王」

「抜かせ……!」


大斧を軽く振りかぶり、

腰を横薙ぎするように一撃は放たれる。



……この体を思っているより良く動くな。



予備動作から反応し、

素早く地面を蹴って後ろへ跳ぶ。


「その歳で”迅”を使えるとはな……ここで出会う奴にしてはデキル奴だ」



なにをブツブツ言ってるんだ?



闘技王ジャックの興味を引いたようで、

その太い眉は吊り上がり目が大きく開かれた。







「っち、おいさっきからチマチマと……!!!」


ヒット&アウェイで強襲と離脱を繰り返す。



戦闘では理性を失った者から死んでいく。

どれだけの力を持っていようと冷静でなければ隙もできるはずだ。



「っちきしょうがぁあああああ!!」


大斧で床を叩きつけると長い亀裂が走った。



苛立ちはそろそろピークだな……。



「おい」


横にいた闘士が話掛けてきた。


「ジャックを怒らせてどうすんだ…!アイツは”戦士”だぞ。怒りはパワーになるんだぞ!」

「それはいま見たから分かる」

「……っくそ、じゃあどうすんだ?なにか策はあるのか?」

「怒らせるのが”策”だ」

「……なるほど”隙”を作りたいわけか」

「ああ」


青い髪の闘士は反りのある剣を両手に持っていた。


癇癪を起して床を叩き続けているジャックに、

視線を固定しながら眉を寄せて皺を作って考えている。


「……わかった。おれに任せろ」

「いいのか、下手したら死ぬぞ」

「お前がいなきゃ下手しなくても死ぬんだ……命を賭けるさ」

「わかった」


観客が沸く。


「おおっと!ジャックの久しぶりの怒り面だぁぁぁぁああ!」


実況らしき声が会場に響いた。


「っっッシュゥゥゥゥウウウ!」


口から蒸気がこぼれるほどの熱気。


「おれがもし死んだらお前に憑りつくからな……いくぞ」

「え!?おらたちもか!」

「当たり前だ、ここを生き残るにはコイツがジャックを殺すしかない。そのための隙をおれたちが作るんだよ……わかったら、来い」


青髪の闘士は恨み言葉を吐いたとおもえば、

近くにいて話を聞いていた闘士たちを説得した。


「くっそぉお、生き残るにはしょうがないべ!いぐぞ!」


訛りの強い喋り方をする闘士が槍をもって走り出した。

その跡を追う様に続々と闘士たちが駆けていく。




ジャックを取り囲む闘士たち。

その意図を理解しながらもジャックは待つ。


「シュゥゥ……もういいか」


ジリッ、と砂利を踏むような音が鳴る。


「うぉおおお!」

「……良い咆哮だが背を取ったにしては勇み足すぎるな」


背後の闘士が剣を振り上げて走り出す……。



……が迫る最初の一撃は、

素早く静かに迫って放っていた側面攻撃だった。


「んな…!?」


が空振り空を切った。

なぜなら一瞬のうちにジャックは姿を消したのだ。


と思えば、

ジャックに正面から構えていた闘士の背後に現れる。


「……まずは一人」



マズい……!!



クロムは足に力を込める。


闘技王ジャックは気付いていた。

少年に感化されたようにやる気になった闘士たちの思惑。



……オレ様の隙を作ってそこをあのガキに叩かせるつもりなんだろう。

なら逆にオレ様が奴らの隙を突いてやるまでさ……。



”怒り”は戦士の使うリソースだ。

戦士である彼であればその中に居ても冷静でいるのは当然のことである。



……が、


「はぁああ!」


青髪の闘士がそこに間に合った。

両手に持った反りのある剣を跳躍した勢いを乗せて入れた一撃。


「っち……お呼びじゃねぇぜ」


バァァアン、と激しい音を鳴らし、

青髪の闘士が吹き飛ばされた。


闘技場を囲む石壁に背中を打ちながらも叫ぶ。


「いまだお前ら!」


闘士たちが武器を握りジャックに襲い掛かった。







────戦技、|怒りの咆哮波



凄まじいほどの突風がジャックを中心に吹き荒れた。


その衝撃によって闘士たちは、

足元を取られて後ろに吹き飛んだ。


「この技は血が見られないから好きじゃなんだけどよ……」



……デザートを前じゃ関係ねぇよなぁぁぁああ。



「さあ!小僧、テメェだぁ!準備はいいかあ!」


ジャックは大斧を担ぎ、

その大きな体から想像できない速さで迫ってきた。


「あんたを殺す大義名分は、最初から持っているから問題ない」

「ははは!ムカつくじゃねぇか……!」


戦士は戦技を使用する際に”怒り”を消費する。


消費した”怒り”に合わせて威力が増し、

さらに戦闘中は、あらゆる身体能力ステータスが上昇する。



────戦技、重斬撃群


無数の斧の斬撃が発生した。


「なに!?」


それをすべて討ち落とし消滅させるクロム。


「これならどうだ……!」



戦技、重獅ざn───


ジャックの背中から風を切る音がする。


「ふん、こんなもの……!」


戦士としてのポテンシャルを振る発揮している状態。

その万能感から容易い投げ斧の一撃に反応してしまう。



……!?



その隙に素早い剣の一閃が入る……。




……が”怒り”で上昇した身体能力ステータスは防御力にも関係する。

錆びついた剣ではどれほど鋭い一撃であろうとも浅い傷しかつけられない。



……あれだ。



ジャックが使った無数の斬撃を発生させた戦技。


連続した攻撃でなければ致命傷を与えられないと、

手から伝わる感触で判断したクロムは頭の中でイメージする。




本来であれば再現できない熟練した戦士のみが使用できる技。


それを”カンスト”した身体能力ステータスが、

発揮されそれを再現させるに至る。



────戦技、斬撃群



「がぁぁぁあああ」


思わずよろめき後退するジャック。

体中についた深い切り傷から出血している。


「あんたの望んだ血だぞ……もう少し喜んだらどうだ」

「ハァ……ハァハァ…」




このオレ様がこんなガキ相手にぃぃいい……!


残された”怒り”を消費して戦技を使用する。


「じゅうざんげきぃいい!」


振り上げた足がなにかにもつれる。


それは”咆哮波”で吹き飛び、

気を失ったはずの闘士の一人の手であった。



……ほんの一瞬の意識の隙間、それがすべてを決めた。



視界が一回転し天と地が回る。

ゴトッ、と鈍い音が耳に鳴り響いた。



……なにがおきた。



大きくそびえる少年の姿にジャックは驚き、

その瞬間に自分の運命を悟った。






「爺さん、とりあえず仇は討ったぞ」


白髪の少年──クロムウェルは、

いまは亡き一人の老人へと告げたのだった。


──────────────────────


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ステータスがカンストしてたら、スキルなんていらない。 新山田 @newyamada

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