ステータスがカンストしてたら、スキルなんていらない。

新山田

第1話 




────貴方は廃棄されることが決定しました。



「はいき……?何を言ってるんだ……」



────これでも寛大な処置です。



「……」



────さあ、望むスキルを選びなさい。



無数のスキル?なるものが頭に思い浮かぶ。

事情をはっきりと呑み込めていないがとりあえず選んでみる。


「これだ、これでいい」



────ほう、これはまたシンプルな……他は要らないのですか?



「”超回復”だとか”闇魔法”はよくわからん。これが理解できる範疇でギリギリだ」



────いいでしょう。では……そうですね、これは私からの餞別だとしましょう。



「?」



────あなたが選んだ[身体能力ステータス強化]を[身体能力ステータス最大化]にして差し上げましょう。それでは良い旅を……。







………………。


「はっ!」


目を開けると老人が顔を覗かせていた。


「おお!クロム坊や生きとったか……!」

「だれだ、爺さん……」

「まさか記憶喪失か……!」


口を開けた驚く老人は傍目に起き上がる。


「うぬ……なんと嘆かわしいことか」

「ここはどこなんだ?」

「ここはな、闘技場の宿泊場じゃ」


辺りを見渡すと、

重厚な汚れの多い石壁に囲われた広間になっていた。

天井近くの小さなには錆びた鉄格子がはめ込まれている。


思い思いに寛いでいる、

同じような麻布の薄い衣服をまとった服装をした人々もいた。


「牢屋のように見えるが……」

「まあ似たようなものじゃな、儂らは”オーナー”に買われた奴隷じゃ。投資した金額が回収されるまでここから出ることは出来ないのじゃ……ところで」

「なんだ?」

「魔法は、まだ使えるか」

「魔法?使えないぞ」

「そうか……やはり、か」


うつむく悲しむ老人。



なんだか、悪いことを言ってしまったようだな……。



「悪い爺さん……もう一度教えてもらえればもしかしたら使えるようになるかもしれない」

「おお!確かにそうじゃな、どうな時でも希望を捨ててはいかんな……!」



……元気を取り戻してくれたようで良かった。



「それではいつも通り意識を内に向けるところから始めようか……ほれ目を閉じてみろ」

「……わかった」

「うむそれで良い。何か力のようなものは感じるか?」

「…………」



…………………………何も感じない。

これではまた、爺さんがしょんぼりしてしまう。



「なにか感じる……かも」

「おお!さすがじゃクロム坊や、ほほほ!次は、ほれ目を開けろ!」

「ん……」

「うむ、ではこの”鉄のスプーン”を曲げてみろ」


爺さんは、錆びたスプーンを取り出し手渡してきた。



…………やっぱり嘘はいかんな。

爺さんが年若い少女のようなキラキラした目で見てくる。

うーん、どうしたものか……。



「……あっ」

「なんじゃ……」



…なんと古典的な……まあうまくいったからいいか。



何もない場所を指さし声を出す。

その方に見るため爺さんは後ろを振り向いた。



……この間に曲げよう。



バキッ、と響くような音を立てなんとスプーンが真っ二つに割れてしまった。


「ん?なんじゃ何もない──おお!クロム坊やうまく曲げ……おい!」



軽く力を入れただけなのに、

スプーンが容易く千切れてしまった……。



「わしのスプーン……ああスプーン」



また落ち込んでしまった。



「ま、まあ、えっと、すまない。折るつもりはなかったんだ。すまない……」

「いや、いいんじゃ。それよりもじゃ、魔法が使えているようでなによりじゃ……これで脱出計画を進められるぞ」


なんと、爺さんはここから脱出する気のようだ。


「スプーンを折るだけの魔法で脱出できるようなもんなのか……?」

「うむ、扉の南京錠を壊すには十分じゃ」

「なるほどな……」

「あとは脱出ルートの確認じゃが────」







────カンカンカン、と部屋全体に鳴り響いた。


「おい、そろそろ寝ろ!クズども!」


檻の外から看守のような者がこん棒を叩きつけ、

消灯の時間を知らせに来たようだ。


「今日はこれくらいにしよう……寝る時間じゃ」

「……わかった」



なにがなんだかわからんままだが、

ここが自分のいた世界ではないこと、

ここから脱出しなければ人並みの人生は送れなさそうなことだけは理解できた。







────カンカンカン、と部屋全体に鳴り響いた。


「……ん」


どうやら朝になっていたようだ。


「ふー、さすがに藁のベットじゃこの歳には堪えるの……」


爺さんは腰を手で叩きながら起き上がった。


「……おはよう」

「おはようさん……さて、少し静かにしているんじゃぞ」

「……?」


そう言って人差し指を立てる爺さんの言葉。

それで気づいたが、なにやら辺りには不穏な空気が流れていた。



ガチャ、と南京錠が解除され、

宿泊場のなかに屈強な男たちが入ってきた。


「いまから名前を呼ばれる者は外に出ろ」


男たちの中で鎧を着たリーダー格が紙を広げて読み上げた。


「マイケル、ジェレミー、ショーン、ジョン、ニコラス、アラン、オリヴァー」

「……!」


爺さんは顔を上げた。


「そうか、呼ばれてしもうたか……」


どうやら名前が挙がってしまったようだ。


「待ってくれ!オリヴァーさんは今日は酷すぎる。変えてくれねえか?」


立ち上がった男がそう叫ぶと、

周りにいた者たちも口々に賛同の意思を示した。


爺さんはその様子を見つめて目を大きくしていた。


空気が熱くなり一変するかと思われたが、


「ならお前たちの中から代わりに出るか、今日が誰の日か分かってるだろ……?」


その一言で立ち上がった男たちは押し黙ってしまった。


「……」

「心配するな……それじゃあ行ってくる」


”爺さん”こと──オリヴァーは他の名前を呼ばれた者と一緒に外に出ていった。




「おい」


オリヴァーの背中を見送っていると一人の男が話しかけてきた。


「なんだ」

「へっ態度のでかいガキだな。お悔やみを言いに来てやったんだよ」

「?」

「今日呼ばれたってのはな、死ぬことを意味してるんだよ」

「……どういうことだ」

「わかってるだろ、今日は闘技王”ジャック”が出る日だ。血を欲しがる客が今日はいっそう活気立つ日……つまりその日に呼ばれたってことは”死”を意味してんだよ、へへ」


男は意地汚い笑みを浮かべて、

名前を呼ばれた者たちがうなだれていた意味を説明してくれた。


「……そうか」

「お前ら脱出しようだなんて考えていただろ。その付けが回ったのさ……まあおかげで稼がせてもらったがよ」


見せびらかせるように硬貨を一枚投げて見せた。


「そんじゃ、お前も”時機”お呼びが掛かるだろうよ」







────その日、爺さんは帰ってこなかった。そして次の日……


「──、アルクド、それから……クロムウェル」


一斉に同じ部屋の住人たちの目がこちらを向いた。



……どうやら、俺の名前が呼ばれたようだ。



立ち上がり開いた扉へ向かうその最中、

視線の端に映る昨日の男がニヤツいているのが見えた。





────場所は変わって闘技場内。


「さて!だれが予想したでしょうか……!我らが闘技王の虐殺パーティーを多くのお客様が望んでいたことでしょう!それがなんと!無数の闘士たちが殺されていく中で!たった一人だけ!しかも少年がいまだ健闘しているではありませんか……!」


実況の言葉が鳴り響き、

彼の紡ぐ言葉に観客が熱狂し叫び声をあげている。



「ハァ……ハァハァ…」


息を上げる、闘技王ジャック。


「このオレ様がなんて様だ。ガキ一人相手に……ったく」


大振りの斧を肩に担ぎ息を整える。



あれは、ほんとにただのガキか……?

なんであんな激しい動きをして未だに息が上がっていないんだ……信じられねぇ。



そんな焦りなかで自分の内に流れる力を引き出す。



だが……さすがに”闘技王”の名に懸けてここは手加減しねぇぜ……!



「斧スキル、じゅうざんげきぃいい!」



通常でも重い大斧を、重系スキルによってさらに重く、

それによって威力の増した斬撃にさらに戦士の怒りを乗せた一撃。


誰でも、どんなモンスターでも倒してきた自慢の攻撃。




歓声の中で腕を挙げて、

その声援に応える自分のいつもの姿を想像して────彼は死んだ。



静まり返った闘技場……それもそのはずである。


長きにわたり頂点に君臨してきた、

闘技王ジャックが通る名前も持たない少年に圧倒的な実力で殺された。



転がった前王者の首と、一人立つ少年を、

熱狂を奪われた観客は眺めているだけだった。


「爺さん、とりあえず仇は討ったぞ」


そんな周りを気にする様子もなく少年──クロムウェルは、

いまはいない一人老人へと告げたのだった。


──────────────────────


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