第4話 秘書課の暗殺者ミチコ2

すぐ近くの店だからあっという間に到着した

社長の倅を連れてきてはいけない大衆焼き鳥屋。

だがしかし!

「俺のお気に入りの店なんです!美味いのにいつも空いてて予約無しでも入れます!」


電波届かないから客が少ないと思う、多分

俺のお気に入りを紹介した、この言い回しが良いんだろ?

タクシーを降りた時の不安そうな顔が、俺のお気に入りだと告げると笑顔に変わった…チョロ


「あなたは昔と変わってませんね」


「…とりあえず入りましょうか」

前世の俺は女だったのに、こんな店に入り浸るような娘だったの??


「へい、いらっしゃい!」

「おっちゃん個室いい?」

「空いてる所どうぞ!」

「奥いくね。生中2つとお任せ串盛り2人前ずつ!」

「あいよ!」


ユウスケを案内する


「奥の掘りごたつ行きましょう」

「マコトさん常連さんなんですね?」

「昔はよく来てました学生の頃の話です」


高架下だから電車が通るたびに遠くでガタゴト音がする。懐かしいね学生以来だよ

盗聴器が1つとは限らないから、わざわざ五月蝿いこの店にした。


「さて、ユウスケさんが知ってる前世の話し聞かせて下さい。俺はほとんど覚えてなくて…あなたが大切な人だったって事以外は。そのうち思い出すかなー?」


「あなたのそう言うところは変わってませんね。オレたち付き合ってました」


「それは知ってます」

だって前回愛し合ってるとかキショい事言ってたもんな…でも絞殺の時に2番目は嫌だって言ってたな。2番目が地雷かな?踏まないようにしよう


「生中2つお待たせしました!」


ドン!とテーブルにジョッキが置かれた

店全体が焼き鳥の芳ばしい香りがして食欲をそそった

「はい!お疲れ様でした!とりあえずかんぱーい」

「あ、お疲れ様でした乾杯!」


「それで続きどうぞ」

「オレの事…その愛してくれてました」

「……今は男になっちゃってゴメンナサイ?」

「いいんです…これは試練だと思います。再び巡り会えただけでいいんです。オレは今のままでもあなたを愛せます」


凄い執念だね…そんなにいい女だったの?前世の俺って絶世の美女?


「ユウスケさん、その言葉に嘘偽りはないですか?」

「どうしたら信じてくれますか?」

「私の話を聞いてあなたが私を信じるなら、私もあなたを信じます」

「あなたの話を聞かせて下さい」


聞く前から信じる言わないだけ分別があるのかな?ミチコの話は鵜呑みにするくせにな


「………ふぅ…俺が前世を覚えてないのは、この時代をタイムリープしてるからです。俺は過去に4度死んでます」

ちょっとサバ読んで数を盛っておこう


「え?タイムリープ?」

「死に戻りです」お前が好きそうな話だろ?

「まさか!信じられない!…あっ話を続けて下さい」


「タイムリープのたびに前世を思い出せなくなってます…これは推測ですが死ぬたびに魂がすり減ってるのかも?次に死ぬと完全に前世を忘れてもうタイムリープもなくなりそうです」


「そんな!!」

「…実はこの話も多分2回目です」

「まさか?!いやでも誰が?…ハッ、まさかミチコさんが?」


「とても言い辛いのですが過去の3回は、あなたに殺されてます。そのうちの2回は死因が思い出せないのですが…」

「嘘だ!オレがあなたを殺すはずがない!!」


「前回もそうやって声を荒げてました…私がこの店を選んだ理由がわかりましたか?」


「ハッ……すいません。でもオレがあなたを殺すなんてあり得ません」


「はあ?前世で私を死なせたのは覚えてるのに?

あ、責めてる訳じゃないですよ?前世の事は微塵も怒ってませんから」だって俺は知らないもん。


「すみません…前世の事もタイムリープ中の事も…オレがあなたを手に掛けたなんて信じられない。オレはあなたを今でも愛してるのに」


「…ミチコの何が良いのですか?調べればすぐに分かることなのにあなたは話しを鵜呑みにしてました」

「まさかミチコさんとオレの事を疑ってますか?」

「…私はミチコに毒殺されてます。今日行くはずだった懐石料理屋は高速で向かう所ですよね?一見さんお断りのメニューの無い奥座敷です。

あなたはそこで私に"こう言うお店はメニューを置かないんですよ"と説明してくれました。庶民の私にはあーゆー店の懐石料理なんて初体験だったので。海老しんじょうは美味しかったのですけど…多分天つゆに毒が入ってました」


「…オレは天つゆじゃなくて天ぷらは塩で食べるんです。ミチコさんなら知ってますね」


そうだったの?知らんかった…どうでもいいけど


「動けなくする薬か何かで、私は寝たきりになって1月近く頑張りましたが。ミチコに薬物を注射され徐々に弱っていき…」

「そんな…オレはその時何をしてたんですか?!」

「自分では会いに来ず、ミチコの嘘を鵜呑みにしてました。俺が会いたくないと言ってると嘘ばかり並べて馬鹿みたいに信じて。多分ですが社内報か何かで香典か弔電の確認があったのでしょうね。私の記憶はそこでおしまいです

死んでから火葬場までの時間、ほんの少しだけ彷徨ってタイムリープします…自分の葬儀を何度も見るのは色々と辛いです。家族が泣いてる姿も…

ミチコが毒を注射するたびに容態が悪化して両親が夜中に駆けつけるのです…それが辛くて早く死にたかった」


「……本当にミチコさんがそんな事を?」


まだ信じないのかこの野郎!ミチコの話は信じるのにな


「この話が盗聴されてるかもしれないので、私は命がけであなたに真実を話してるのに……あなたに信じてもらえないなら私はもう死にたくないので仕事を辞めて逃げないといけません」


「え?仕事をやめて逃げる?どこに?」


「…前世であなたの事は愛してましたけど、次はもう記憶も残らないでしょうね。でもあなたは毎回同じなのです…次はきっと全てが無かった事になります」


「全てが無かった事に?嫌だオレを忘れないで下さい」


「突然、前世がどうの言われて笑わずに話が聞けると思いますか?運良くタイムリープ出来ても、前世を全て忘れた場合…知らない人から電波なヤバい事を言われて、男の俺がどう思うと?

それ以前にタイムリープしないかもしれないので俺が死んだまま時が進むでしょうね。あなたの大好きな私の魂は擦り減って輪廻の輪とかがあっても消滅しそうですよ」

「嫌だ!せっかく巡り会えたのに!オレはどうしたらいいんですか?」


「……あなたにミチコが裁けますか?」

「ミチコさんは…父親の愛人ですが、オレの親代わりでもあるんです」


ババアだとは思ってたけど育ての親なの?!思ったより歳食ってるな…整形か?


「だからですよ、親なら息子がどこぞの男に執着してたら相手を殺してでも止めたくなるんでしょうね。まあ仮に俺が女でも嫉妬で殺されそうですけど!

何度目か忘れましたがタイムリープ先であなたもミチコの毒牙に陥落してましたよ?私を殺しといて自信喪失してミチコの言いなりのお人形さんみたいでした」これは単なる予想だ。


「っ……自分で手に掛けたなんてまだ信じられませんが、もし手にかけてたらオレは壊れるでしょうか。ミチコの言いなりですか…オレが留学先で突然前世を思い出した時にマコトさんが怪しいと教えてくれたのはミチコなんです。彼女は…その占い師です」


えっ?!…そう言えば、俺を最初から知ってたのってミチコのせいだったのか?

占い師って何だよ胡散臭いなクソババア!


「トップシークレットで口留めされてた事ですよね?」

「オレはタイムリープ先でこの事も話したのか…じゃあ知ってると思いますがミチコは会社の未来を占っています。だから排除するのは難しいです」


あっ…詰んだな。そんな重要人物なのあのオバチャン


「ミチコのやりたい放題が許される訳ですね」

「やりたい放題?」

「…巻き込みたくないから黙ってたけど、毎回俺の彼女が巻き込まれるんですよ。ミチコがやった俺の毒殺を彼女のせいにしたり、男女のトラブルが原因のストレスで自殺をはかった事にされたり。

ユウスケさんは目の前で俺が倒れたから自分のせいだと思い込み、ミチコの話しを鵜呑みにして俺が何されようが死ぬまで引きこもって告別式にも来ませんでしたよ。

会社ではミチコが流した噂に彼女がどんどん疲弊していくんです。

言っておきますけど、俺が前世を思い出したの昨日ですからね?タイムリープも昨日が始点です

最長で1年後まで生き残りましたが、最短は1ヶ月でほぼ寝たきりで死にます」


「じゃあ彼女と同棲してるってミチコさんの話は嘘ですか?」

「は?同棲してませんよ?…月に一度の週末のお泊りデートを同棲と報告してたんですかあのアバズレ」

「では、彼女の他にヤり友が何人もいると言うのも嘘ですよね?」

「誓って彼女以外とやってません!ってか付き合ったのも最近です…ミチコの言うことは全てデタラメだ!」


その時だったニチャッとした嫌な視線を感じた

ユウスケの肩越しにミチコのような人影が見えた


「あの、今更ですけど占い師って、ユウスケさんの現在地が分かったりします?」

「さあ…そこまでは分からないかもしれませんが、どうしました……まさか?!」


ユウスケがバッと振り向いたらスッとミチコらしき人影が隠れた


「今隠れた人は…そこにミチコさんがいました?」

「いたっぽいですね…俺、今すぐ実家に逃げようかな?」

「マコトさん一緒に立ち向かいましょう!」

「…過去に何度も俺を殺しておいて信用に値するとでも?ミチコの方が何枚も上手ですよ」

「そんな…オレどうしたらいいですか?どうすればあなたに信用してもらえますか?せっかく愛し合った前世を思い出したのにあんまりだ」


「…と言いたいところですが、立ち向かいましょう。おそらく実家に逃げても追いかけてきて殺されそう。それに言っておきますけが、愛し合った記憶があったとしても気持ちまで残ったままじゃないですよ。仏の顔も三度までです。擦り減るのは魂だけじゃないです愛情もです!」

「そんなっ…すみません。今のオレじゃないけどオレがした事は取り返しがつかない事ですね」

「俺はもう死にたくない!…それと言いにくいですが俺が死ぬと高確率であなたも死んでます。しかも必ず魂が地獄に落ちます!ミチコは図太く生き残りますが、前回はトラックに弾かれてユウスケさんは即死でミチコは半身グチャグチャです。因果があるならそう言う事でしょうか?」


「オレの魂が地獄に落ちる…?」


「俺が知る限りですが、あなたは死ねば地獄行きです。今生でも相当やらかしてませんか?無数の黒い出で引きずられます。人殺しの末路としては当然じゃないですか?」

「あなたは…もうオレの事…愛してないのですか?

しょうがない事ですが面と向かって言われるとキツいです…思い出してからはあなたが心の支えになってたから」

「悲しそうな顔でなんか別れ話みたいな雰囲気出すのやめてくれる?俺が悪いみたいじゃないか!人殺しのくせに」

「あなたは変わってませんね。安心しました、挽回してみせます!オレが何としてでも殺させない!」


あれ?これ俺の死亡フラグ立ってない?

カレンダーに書いてあったメッセージは誰が書いたんだろう?


「何度もループしたけど一度もカッコイイ所見てませんから。自分の気持ち押し付けるだけ押し付けて殺してたらね?殺人鬼ババアから守って下さいよ…何となくですがミチコは今までも邪魔なやつは殺してそうですね。あなたの周りで男女問わずいなくなったりしてませんか?」


「オレの母親の死が不自然でした…ある日突発的に自殺してます」

「……犯人分って良かったですね」

「そんなっ!?だってミチコさんは一緒に泣いてくれたのに」


「まだ言うか!幼い頃からの刷り込みって怖いですね。前世の最愛恋人より殺人鬼ババアの方が大事なら、もう俺のことほっといて下さい!俺、明日から仕事バックレて逃げます」

「オレが刷り込み?そんな事あるはずが…」


「すいませーん!お会計お願いします!ここは俺が出しますよ」安いし


「いえ、オレが出します」


この店はお会計をする前にアガリ(※熱いお茶)

が出てくる。

迂闊だった、だってミチコがここに来てたのに何もしてこないはず無かった。癖みたいなもんだから普通にお茶飲んだら、前回と同じパターンで倒れた


「マコトさん!!」

「油断した…ミチコに毒…俺、まだ、死にたくない」

「すいません救急車!マコトさん大丈夫です助かりますから!」


「キャァ!」「何だ?酔っぱらいか?」「外でやれよ」

ガヤガヤと他の客も騒いでる声がだんだんと遠くに聞こえる…


また幽体離脱する

『店のおっちゃんゴメンナサイ、俺がここを選んだばかりに巻き込んじゃった。次があるならマックとかにしようかな?公園の缶ジュース?ハァ…

本当にやらしいなあのクソババア!』


救急車が来た時には店の前が人集りになっていた

ミチコがガード下からこっちを見ていたが、ユウスケには周りが見えてないようだった


「マコトさん!しっかりして下さい!マコトさん!」

『しっかりするのはお前だろ!クッソー、こうなるならもっと色々と聞き出しておけば良かった』


前回とは違う病院に運ばれてまた家族と彼女が来ていた。

違ったのはユウスケが付き添っていて、前世がどうのとは言わずミチコの事も言わず。


ただ痴情のもつれに巻き込んでしまったと説明していた。

余計にややこしくなるやん!ヤメロよ


ミチコが病院にしれっと現れてユウスケを回収する。俺はユウスケの背後霊みたいになってミチコと対峙する。ミチコは何食わぬ顔でユウスケに寄り添う


「ユウスケさん、大変な事になりましたね」

「ミチコさんがやったんだろ?」

「酷い誤解だわ。私がするはずないでしょう?あなたが一番解ってるはずよ」

「母さんもミチコさんがやったのか?」

「まあ!あなたのお母様はノイローゼで自殺なさったのよ。ワンオペ育児は負担が多いもの…社長は忙しくて、あれはあなたのせいじゃない仕方なかったのよ」


お前の浮気が原因のノイローゼじゃないか?愛人なんだろ?


「オレのせいにして逃げるつもりか?」

「私はどこにも逃げたりしませんわ、私に罪があるならどこまでも償うつもりよ」

「勝手にしろオレに近寄るな!それからマコトさんにも近寄るな!その家族にも彼女にもだ!変な噂が流れたらお前が流したと公表してやる」

「私が流さなくても、もう噂になってるわ…彼も彼女も奔放な人たちだもの」

「違う!マコトさんはそんな人じゃない!同棲もしてなかった!この嘘つき」


ミチコはボイスレコーダーを取り出して再生する


『高校の時からの付き合いの彼と同棲してるの、だから今は遊べないわごめんなさい』

『じゃあさ別れたら付き合おうよ』

『別れたらね?』


ナンパされ、よくある断り文句を言っただけのようだが?


「私はこの証言のまま報告しただけです。彼女が嘘つきなのは認めますが、私も騙されましたわ」


ぐっ…高校の時の同級生だから間違ってないけど、聞こえようにしては高校の時から男女の関係があるみたいだ。

ってかどうせこのナンパもミチコの仕込みだろ?

いつから?本当に怖くてもう無理!


「…オレはマコトさんを信じる」

「長年あなたを支えてきた私より今日会ったばかりの人をどうやって信じるのです?何か誤解があったのではないかしら?」


あーあ…コイツ馬鹿だからもうババアの術中にハマってやがる


『俺等より長生きしてるだけに騙すのがうまいね!年増女!クソババア!ガバガバで臭そうだねオバサン死ねよ!呪ってやる!呪ってやる!地獄に落ちろ馬鹿どもめ!』


俺の意識は戻らないまま時がたち

証拠がないからミチコを罪に問えず、ユウスケも頑張っていたようだけど暖簾に腕押し。


会社で出回った噂の火消しをすればするほど広がり、次期社長に庇われるエリは他からやっかみを買い、俺とユウスケの三角関係の二股女扱いに誹謗中傷のせいで左遷され、転勤先にも噂がついて回り居づらくなって退職した


俺は体中にチューブが繋がれ、ゆっくり衰弱していった3ヶ月の入院生活の末にとうとう御臨終

ユウスケの計らいで病院は良いところだったけど、1ヶ月目で回復の見込み無しと解雇された。

それでもユウスケは入院費を出し続けてよくお見舞いに来てくれたけど、最後は泣いて謝ってた


「オレは何もできなかった…ごめんなさいごめんなさいオレの業に巻き込んでごめんなさいマコトさん行かないでオレを置いてかないで」

「ユウスケさんは手を尽くしたわ」

「お前がやったくせに!」

「散々取り調べを受けたのに酷いわ…誤解なのよ私は何もしてないわ」


『嘘つけこのクソババア!噂の流し方がエグい!警察まで咥え込んでやがった…もう凄すぎてドン引きだよ!』


エリはメンタルの病院に通って俺の葬儀に来れなかったようだ…ごめんよエリちゃん俺が迂闊だったから巻き込んじゃった――



「次会ったらその顔面蹴り飛ばしてやる!」

「キャッ!?何?え?喧嘩した夢でも見たの?」

「エリちゃん!ごめんね俺のせいで酷い目にあって」

「寝ぼけすぎよ…え?本当にどうしたの?怖い夢だった?」


ギュッと彼女を抱きしめた…俺からしたら3か月ぶりのスキンシップだ。


F−1のカレンダーが目に入る…メモ書きの所の文字に変化があった


"ヤツを貶すな受け入れろ"


確かにそれは俺の字だった

意味不明すぎるけど、どうやらあの馬鹿野郎の自尊心を傷つけてはいけないらしい。前世のアドバンテージを利用してもクソババアに勝てなかった


次は逮捕覚悟で俺も物理的に反撃に出るしかないかな?

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