第3話 秘書課の暗殺者ミチコ

あれから10分しなうちに、救急車が来て病院へ運ばれた。

翌日には彼女と家族が来た…なんか仕事に疲れて自殺未遂したみたいに警察が話していた。

彼女は「気付かなくてすみません」と俺の両親と姉ちゃんに謝っていて、両親は自分たちも同じだと泣いていた


『みんな違う!あのミチコって女がやったんだよ!こんな時にホモ野郎どこ行きやがった!』


その翌日も、彼女は泣いて落ち込んでいた。会社でも暗い顔していて、なぜか周りからヒソヒソされてる。

おかしな噂が流れてると思ったらミチコが無いこと無いこと噂をばら撒いてた


『違う違う!エリは関係ない、あのミチコってクソ女のせいだ!みんなやめろよ!クソ女殺す!呪ってやる!』


ホモ野郎は会社に来てなかった

ミチコが出かけるから呪う為に付いていく、てっきりホモ野郎の所へ行くのかと思ったら俺の病院へ…


嫌な予感しかしない


注射器を取り出して俺の点滴の袋に刺した!なんの躊躇もなくプスッと

「私の為にしばらく寝てなさい」


『俺に何したんだよ!クソババア!』


自分の体が心配で歩いて出ていくミチコの後を追えなかった。

その晩、俺の体は安定してたのにまた不安定になり、両親が呼び出されて母親は俺の手を一晩中握って泣いていた

翌日再び安定したのか母親と担当医が何か話していた。俺は転院する事になり、その手続きに母親が追われていた


翌日、会社に張り込みしミチコの動きを探りに行く……思った通り、やっぱりユウスケの自宅へ向かったな!

高層マンションの上の階、めちゃくちゃ広い部屋に1人で住んでるの?本当に死ねばいいのに


ミチコは合鍵を使って普通に入って行き寝室のドアを一応ノックして返事が来る前に遠慮なく開けた


やっぱりデキてたなお前ら!まとめて地獄に落ちろ!


「ユウスケさん、見てきましたわ。彼は大丈夫です……元々不整脈があったようです。隠して働いていたみたいなので解雇手続きが進められています」


俺に不整脈はない!クソ会社など解雇するのは構わないけどふざけんなブス!


「マコトさんは目が覚めた?」

「彼はユウスケさんに会いたくないと…今はそっとしておくほうがよくてよ」

「オレには会う資格なんてない…嫌われてしまった」

「まあ、可哀想なユウスケさん。大丈夫です私が側にいますわ」

「ミチコさん…すまないがマコトさんの家族にお詫びして下さい、彼女いましたよね?彼女にも」

「ご心配なく、全てが整ってますわ」

「すまない…マコトさんオレのせいだ」


彼女の悪評ばら撒いて何言ってんだクソババア!死ね!

ユウスケ!お前も騙されすぎなんだよ!このアバズレクソババア!殺人鬼より酷いぞ!


それからミチコは数日おきに俺の病院へ向かって、注射器で薬を入れ続けた。


その度に家族が夜中に呼び出されて俺の両親は疲弊していった。俺の顔色はどんどん悪くなり、痩せこけていく「代われるものなら代わってやりたい」と母親が泣いていた


母さんゴメン…


病院も警備がザル過ぎない?医者もヤブだし!誰か気づいてくれよ!俺死んじゃうよー!

その間にもミチコはユウスケに堂々と嘘の説明をする


「今日も見てきました、お元気そうですが…会いたくないようです。退院したら私が改めて席を設けますわ。今はそっとしてあげる時間が必要なのです」


「完全に嫌われてしまった…もう許してもらえない…せっかく前世を思い出したのに、次はもう巡り会えないかもしれない。オレが全部悪いんだ」

「ユウスケさんは何も悪くないわ」

「違うんだ、オレが悪いんだ!前世でオレが彼女を陥れたんだ…彼女が力を無くして死んだのはオレのせいなんだ」


は?彼女って誰の事?…まさかエリ?んな馬鹿な!誰だよその彼女!俺と関係なくない?


「ユウスケさんが悪いんじゃないわ、仕方なかったのよ」

「違う!彼女は怒って当然なんだ、それなのに最後までオレを信じて愛してるって笑ってた。生まれ変わってもまた好きになるからって、オレを赦してくれたんだ。彼女に会いたい、生まれ変わったマコトさんに会いたい」


衝撃的なんですけど!?

その彼女って俺の事だったの?二股かけてるなんか彼女的な女がいたのかと思ったのに…俺かよ


「私が愛してあげますから、もう過去のことは忘れましょう?」

「ミチコさん……オレ、ちゃんと謝りたい。もう会えなくなってもマコトさんが幸せならそれでいい。たまに覗くくらいはするかもしれないけど…最後に会って謝りたい、振られてもいいからオレの気持ち伝えたい…もしかすると前世を思い出してくれるかもしれないし」

「ユウスケさん、病みあがりで行っても迷惑ですわ。元気になって退院したらセッティングします」



その翌日俺は死んだ

転院する事が決まってた前日の夜に病院に来て、いつもとは違う注射器を刺した。それから数時間後に……

どうやら死んだら周りが見えなくなるらしい、霧の中で俺の死体の周りだけがぼんやり見える


憔悴しきった彼女が通夜に来て「ごめんなさい」と呟いてすぐに帰った。両親も姉も前回の時よりよりやつれていた


ユウスケはあれだけ会いたいとか抜かしてたのに葬儀にも来ないのかよ…どうせあのアバズレ糞醜女ババアに騙されて、まだ入院してるとか思ってそうだな…阿呆馬鹿クソホモ野郎め!


火葬場に向かう車に俺が乗せられた所でユウスケが走ってきた。隣に殺人鬼ミチコがいる

薄ぼんやりした霧の中で道路を走ってきた2人がトラックに弾かれた所が見えた


即死だったのかユウスケの体から出てきた魂は地面から出た無数の手にまた何処かへ連れ去られた。今回は霧のおかげではっきり見えなくてそんな怖くなかった。

俺を殺してないのになんでだろう?本当に前世の業か何か?それとも俺が初犯じゃ無かったのかな?


そしてミチコは半身グチャグチャだけど生きてるっぽい――


「ざまあみろクソ女!」

「キャッ?!…誰がクソ女よ!」

「秘書のミチコってババア……あれ?夢だった?ループしてる?はっエリちゃん無事だった!ちゃんとご飯食べてる?俺が不甲斐ないせいでごめんよ!」

「どんな夢見たのよ、寝ぼけすぎじゃない?」

「俺が死んだのをエリちゃんのせいにして、真犯人はミチコってクソ女だったのに、ありもしない悪評ばら撒かれた……って夢だった怖かったよぅ」


抱きついて柔らかな胸に縋り付く…夢で良かった


「秘書のミチコって秘書課の辻本ミチコさん?知ってるの?」

「夢では次期社長とデキてて、俺を毒殺しに来た陰険性悪クソババアだった」


「…確かにやり手って噂だけど、夢だよね?」

「予知夢並みにリアルな夢だった…俺、疲れてんのかな?会社辞めようかな?転職するなら早い方がいい?」


「そんなに嫌なら止めないけど…せっかく研修終わって慣れてきた所なのに、ちょっと勿体ない気がするね。転職したら会社変わって会えなくなるのも寂しい」


「うんまだ頑張る!…俺の予知夢では総務部長は結婚しても半年くらいで離婚してた。夢の中の噂では浮気がバレたとかで」

「えっ!結婚式まだなのに?昨日飲みすぎたの?」

「後ね、今日の映画館は寒いから厚手のカーディガンがいるよ?」

「本当に予知夢なの?…でも厚手のカーディガンは持って来てないから取りに帰らなきゃ」


「……俺のを貸すよ。映画の時と帰りに着たらいいから」


「ありがとチュッ、朝食作るねコーヒーとパンでいい?」

「…目玉焼きも作って下さい」


彼女は厚手のカーディガンを持ってたはずなのに…ループした先が元の時間軸じゃない?

もしかしてパラレルワールド?いくつもある並行世界の1つにループしてるのか?


それなら絞殺された俺がいて、毒殺された俺もいる…自分の仮説に背筋がゾッとした

だってあんな酷い目にあってるエリも両親もいるんだろ?


裏で糸引いてるのがミチコってことは最初の絞殺もミチコが絡んでたりして?

俺のふりしてメールか何かでユウスケとやり取りして隠し撮りした写真送ったりしたら成りすましできるよな。

デート詐欺みたいだ、よくある手口だけどミチコなら完全犯罪できそう。今度こそ未来を変えるぜ!まずはミチコを葬り去る!


ループしてる俺が言うのも何だけど、前世とか本当にあんの?しかもユウスケの話だと俺の方が女の子だったし…あいつ前世でも騙されやすかったのかな?阿呆だな


俺はぼんやりとF−1のカレンダーを眺めた…ふとしたメモ書きが目に入った…ギョッ!


『ホモ野郎を溺愛するフリだ!生き残れ』


書いた覚えのない言葉だ…前までは無かったはず…どうなってるんだ?


まずは予定通りユウスケに偶然会う所まで同じ行動をとる。残業あるから先に帰ってと彼女からメールが来て了承する。


エントランスに人集りが出来てる、ユウスケだ!

今度はお前の厨二病っぽい前世の話しを利用させて貰うぜ?


真っ直ぐ受付に向かって来るから今度は立ったまま待つ。

「マコトさん!迎えに来ました!」


ガバっと抱きつかれた

予定通りだけど、抱きつくのは想定外だ

そして、やっぱりコイツは俺がループしてる事を知らないんだな


「あ、急にすみません!あの、ここじゃ何ですからお店行きませんか?」

「はい」


周りを見ると壁際にミチコがいた!

え?前回も来てたの?ってかなんて恐ろしい顔でこっちを見てるんだよ!お巡りさんあいつ捕まえてー!殺人鬼がいます!


外に出てタクシーに乗る時に

「あの、ユウスケさん!俺の知ってる個室行きませんか?」

「え?」

「俺…最近アレルギー症状みたいなの出てきたんです。運転手さん、とりあえずここお願いします!」


俺はスマホを運転手に見せて自分が知ってる焼き鳥屋の個室に案内した。


ミチコがあの会員制の料亭に来たのって…考えられるのはコイツが予めメールで居場所を教えていた?もしくはコイツのスマホに追跡アプリが入っていたか…。

俺が今から向かうのは電車の高架下で半地下の店だ。あそこって電波悪いから陸の孤島って俺は呼んでる。


「あの…手を繋いでいいですか?」

「……はい、どうぞ?」


うん、前も手を繋いで来たね…キモい恋人繋ぎも変わってないし親指で愛おしそうに撫でるところも一緒。

俺はホッとした。ループしてもコイツは変わって無さそうだ


「やっぱりオレの知ってる人だ」

「…それは前世の話し?」

「マコトさんも前世を覚えてるんですね!」

「俺の…私の名前言える?」

「すみません名前は思い出せないです。でもあなたを大切に思ってた事は思い出してます!オレたち愛し合ってましたよね?」

「俺も名前覚えてません。でも多分あなたを大事にしてたと思います」


チラッと見たら複雑そうな、でもすごく嬉しそうに笑ってやがった。

そんなに喜ぶ事なの?なんか罪悪感が出てきそう、俺が前世知ってるだけでそんな嬉しいの?

いやいや前世でも俺を殺してるなら2度も俺はコイツに殺されてるんだよな?

クソババアミチコの殺意もお前が俺に執着したからだろ?


「それから、スマホに追跡アプリが入ってないか確認したほうがいいですよ?あなたは盗聴されてるかもしれないし」

「なぜそれを?」

「とりあえず電源切ってこのカバンに入れて下さい」


俺は電波の届きにくくなるカバンにスマホを入れさせようとしたら


「運転手さん窓少しだけ開けて下さい!」

「え?はい…今開けます」


ギョッ!?えっ!窓からスマホ捨てやがった!?

後ろの車もびっくりするやんか!阿呆かよコイツ!


「それで、話しを続けて下さい」


「…前世の私の死因を知ってますか?」

「えっ!?それは…」

「あなたは自分がやったと思ってるでしょ?違いますよ」

「え?!」

「ミチコと言う名に聞き覚えは?」

「……はい、オレの父の秘書兼愛人です」


ドびっくりだよ!お前の愛人やないんかーい!


「ミチコは前世で私たちをはめた黒幕です…今も同じ事をしてます!現在進行系で!」

「は?ミチコが?……なんの話ですか?」

「……信じてもらえないんですね。じゃあいいです」


あれぇ?うまくいくと思ったんだけどな?

どうしよう?ってかお父さんって社長だよな、社長の愛人を殺したら俺が殺されるやんか!


前世の黒幕がミチコだったからやっつけようぜ…ってなるはずだったのになぁ。やっぱり無理があるな

前世とか厨二病みたいな事ほざいてるから乗ってくると思ったのに

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