第2章

第1話

「ん…」


次にユウタが目を覚ましたのはそこから7時間後であった。白い天井に目を向け、理解が追いつかないユウタに声がかかった。


「お目覚めになりましたか」


白い服に身を包むメイドのような女の人がそこにはいた。


「えっと…」


「色々と聞きたいことはあるでしょうが、まず、取り調べとなっております」


「…」


「体と…言いずらいでしょうが、村の事を」


「…分かった」


もう、心がどうにかしているのか、何も感じない。


軽い身体検査と状況報告を済ませ、こちらが知りたい事を聞く。


「ここはどこですか」


「ここはリャリヤ村です。アロバントリン王国の都市から約12km、貴方の住んでいたオーハタ村から約41kmの所に位置しています」


「…僕に、焼かれたような跡はありましたか」


「いえ、体に残った跡は打撲程度で済んでいます」


「分かりました。これからお世話になります」


「はい。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


こうして、ユウタの生活は一変したのだった。



だとしても、ユウタ自身が虚しい気持ちから一変する事は無かった。


「はぁ…」


リャリタ村に来てからもう10日も経つ。

それでも、ユウタは息を吐く事しか出来なかった。


眠れなくなった。

朝は起きれなくなった。

ご飯も喉を通さなくなった。

なにも感じ無くなった。


死にたくなった。


そんなマイナスの気持ちがぐるぐると周り続けて気持ち悪くなって、胃液を吐く毎日だった。


ユウタだって人間だ。

運動しなければ太るし、

食べなければ餓死し、

水を飲まなければ干からびてしまう。

ユウタは今にも死にそうだった。


だが、ユウタ自身がそれを願っているかのようにユウタは何もしなかった。

だが、ユウタは人間の3大欲求全てを成さなくとも、生きていけた。


まるで生きろと言われるように。


ユウタはバカバカしいと眠りに入った。


が、何かに叩き起された。


「っっだ!」


「ユウタ様。お言葉ですがそろそろ死んでしまうかと」


そう、メイドのような格好をした、リリハは言う。


「…なら、何も言わないでくれ」


「…確かに、オーハタ村の事は残念で残酷で、そうなるのも分かるのですが、」


「分かるだと!?」


ユウタはベットから身を乗り出し、近くの棚を叩きながら言った。


「兄のように尊敬していた人は焼かれて死んだ!母親のように慕っていた人は潰れて死んだ!父のように優しくしてくれた人は元が分からないくらい溶けて死んだ!好きな人なんか跡も残らないで死んだんだ!アイツのせいで!それを分かったって言葉で共感したつもりになってんじゃねぇ!」


リリハは少し黙り、口を開いた。


「その怒りは私ではなく、その人に向けて貰えませんでしょうか」


そうハッキリと言った。

確かに傷心しているとはいえ、心配してくれる人を突き放すのは違う。


が、人の優しさは時に人を傷つける事もまた、事実であった。


「理解した気になってるのを見せなければ人して終わっている気がします。それに、共感して欲しい人だっているのです。私のご主人様である、リリト様もそういう人ですから」


「…」


「貴方1人の対処は、分かりません。同時に貴方がどのくらい死にたいかも分かりません。ですが、それがみすぼらしく死にゆく人を黙って見過ごす理由にはなりません」


ユウタが何か反論する前にリリハは核心を突いた。


「それに貴方、死んでないじゃないですか。


「…っ!」


「まぁ、今日はご主人様に忠告するようにと言われたから来たのですが、」


メイドは扉へと向かい、言う。


「本当に死なないようにしてくださいね」


独り孤独になってしまった部屋では、深いため息が響いた。




翌日。

リリハがリリトに今日も言われて来ていた。


「失礼します」


リリハが部屋に入るとユウタはいなかった。


普通は異常事態だが、リリハにはそれの意味が分かっていた。


「はぁ…、別にいいんですけど、一言言ってくれませんかね」


同時刻、ダンジョンにて。



ユウタは、深層にいた。

前は偶然が重なり、死に直面しながらギリギリの所で帰ってこれたが、

今回は楽々とを倒せた。


そして、ユウタは穴の前に立っていた。

親鳥は死んでしまったが、小鳥達が無事か見るためだったが、


穴は見えないくらい真っ黒であった。

その漆黒は死を意味する。

黒い塵によるものであろう。


ユウタは辺りを見渡す。

すると、カラスのように黒い鳥が飛んでいた。

その漆黒は殺しを意味する。

ならば、自分の手も汚してしまおうか。


黒い剣を取り出し、飛び出す。


漆黒を支配出来るのもまた漆黒であった。



ユウタは手を見ていた。右手の人差し指の先から付け根に通して黒くなっていた。


(そういえば、アイツの手も漆黒に覆われていたな)


ユウタは思い返す。


(全身を黒く染めた鳥一匹と、他のモンスターを倒してもこれだけか)


つまりはユウタの倍以上、何かを殺しているということだった


そう思うと、相手の強さと非道さに、震えた。


だが、すぐに治まった。


(今やることは震えることじゃない。努力して、強くなる事だ)


そうユウタは決意して先へと進んだ。


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初恋の味 なゆお @askt

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