第1章第3話

そこから何時間したのだろうか、ガサゴソ…という音が聞こえた。


見ると、さっきユウタが倒した蛇と同じような敵だった。


「!?」


慌てて臨戦態勢に入り、穴に入っている口を刺した。


『!?クラァ!』


すると蛇は慌てて引いた。

蛇も襲う準備をする。


「うらぁぁぁぁぁぁぁ!」


そんなに叫んだら敵に見つかってしまうとは思いもせず、雄叫びをあげながら蛇に向かっていく。


そして蛇を切りつけ、剣をまっすぐにして後ろから刺す。


「はぁ、はぁ…」


まさか休む暇すら与えてくれないとは。

ダンジョンはそんなに甘くないらしい。


『キシャーー!』


「!?」


(またか!)


そう思い上を見ると、鳥がいた。


「クッ!」


ユウタは剣を構えた。

が、


『クルル…』


「えっ…」


後ろで鳴き声がした。

見るとどうやら小鳥のようだ。

つまり前にいるのは親鳥である可能性が高い。


だが、親が子を守るのは当然。

目の前で刃物を持っているニンゲンの後ろに子供がいる。

親鳥からしたら、絶対的にユウタが敵であった。


しかし、親鳥は地面に着いたかと思ったら頭を下げるような動作をした。


一瞬。

ユウタは鳥が何をしたのか分からなかった。

だが、鳥の天敵である蛇を倒し、子供の世話を見ていたと勘違いされたらしい。


でも、それはチャンスであった。

逃げるチャンス。

だがほんの数分しか寝れなかったユウタは安心したせいか、そのまま意識を遠ざけた。




「…」


ユウタは目を覚まし、周りを見ようとするが、フワフワの何かに潰されて首が動かせないし、視界が悪い。


だが、その何かが動き出した。

すぐさま動き戦闘態勢に入るが、見るとさっきの親鳥だった。


ユウタは何がどうなっているのか理解が出来なかった。


(助かった…、いや助けられた…?でも、何のために?)


親鳥は何とも言わぬような顔をして後ろを見た。

そこには、小鳥と、幾つもの大きい卵があった。


(そういうことか…)


ユウタはやっと事態を理解し始めた。


(親鳥が俺が小鳥を蛇から助けたのかと思ってるのか。)


納得の行く答えが出たが、ユウタには疑問が残っていた。


(でも、そんなんで人間に心を許すのか?)


数多の敵の家族や平和な日常を奪ってきた人間を敵は許すはずではない。


だが、ここが深層であり、沢山の人達が死んでいる事やまずここにたどり着けない事を思い出したユウタはやっと満足のいく答えが出た。


(きっと、人間との接触事態が無く、弱いと思っているから、心を許しているのだろう)


心を許している理由や事態を自分なりに解釈出来たユウタは攻撃される可能性が少ない事に安堵した。


すると親鳥は背を向けると羽をパタつかせた。


多分、乗れという意味だろう。

(もしかしたら、帰れるかかもしれない)

ユウタは期待と不安を持ちながらも、親鳥の背中へ乗った。


そうすると、親鳥はまるで、背中にユウタが乗ってないかのように、軽々しく飛んだ。


(ダンジョンの床が壊れてるから上に上がるだけだな)


そう思っていた。


が、何回層か上がった時、突如として親鳥がユウタを下ろしたのである。

それも、結構な高さから。


「クソ!」


ユウタは何とか着地すると、親鳥の方を見る。

やはり、ユウタを襲おうとしていたのだろうか。

そんな考えはすぐさま消え、


目の前の巨大な蛇の口で悶えてる親鳥を見た瞬間、ユウタの中で何かが爆発した。


ユウタは優しくされた者に対して自分も優しくする事がある。

それも人一倍に。

だから優しくしてくれた者が傷ついた時、

ユウタは恐ろしくなると村でも有名であった。


それは敵であるモンスターにも同じ事が言えた。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」


剣を取り出し、雄叫びを上げ、蛇に突っ込んでいく。


蛇の攻撃を素早く、そして、無駄がないように避ける。

これが数ヶ月前までスライム一匹を倒せた事を喜んでいた人の動きであろうか。


「はぁ!」


剣を振るい、体に傷を付ける。

そして、蛇が怯んだのを見計らい、蛇の目に剣を刺す。


『キリャァァァァ!』


そう悲鳴をあげると、壁にユウタをぶつけようと勢い良く体を捻る。


だがユウタはギリギリの所で抜け出し、結果的に、蛇が自分で壁に頭をぶつけた事になる。


すると、蛇は気を失い地面に倒れる。

ユウタはその隙を逃さなかった。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


蛇の頭に剣を深く刺すと、粒子のような黒い塵になって消えた。


「はぁ、やったか…」


急いで親鳥を探すと、蛇が頭を打ち付けた壁には黒い塵のような物があった。

普通、黒い塵は死んだ時にしか現れない。

蛇の黒い塵は地面に染み込んでいる。

つまり、そういうことだろう。


親鳥は、自分の命を使ってまでユウタを守ったのだ。


ユウタはそれを理解した瞬間、とてつもない虚しさに襲われた。


だが、その前にやることがある。


「…村に戻らなきゃ」


そう、数日は帰ってきていない村へと帰らなくては。


きっとカレンは怒っているだろう。

ソルフオジサンも、ニヤカト兄さんも、ハナタおばさんもきっと、心配しているだろう。


だが、村に戻ると声が出なかった。



村1面が、焼け野原へと変わり果てていたからだ。



「なん、で」


始めに出たのはそんな情けない声であった。

ユウタは、情報を理解しようにも出来なかった。

むしろ、現実逃避をしようかとしていた。


「皆!」


そう叫び、走った。


「ハナタおばさん!」


ハナタおばさんの家は潰されたように壊されていた。


「そんな…!」


近づいて確認しようと思い、足を進めた瞬間何かを踏んだ。

見てみると土まみれで何も分からない。


手に取り、土を払うとユウタは反射的にそれを離した。


それは引きちぎられたような形の指だった。

しかも、ハナタおばさんがいつもしている結婚指輪が付いていた。


「ニヤカト兄さん…」


ニヤカト兄さんの家へ行くと焼き尽くされたかの如く真っ黒だった。


「っ…!」


突然何かが倒れてきた。

黒くて、所々灰色の何かがチラチラと見られる。


それはニヤカト兄さんが焼かれた跡だった。


灰色の何かは骨だった。

骨が見えるほど、骨が灰色になるほど、強く苦しく焼かれた事に違いないだろう。


「ソルフおじさん…」


ソルフおじさんの家であり、ユウタの家でもある所へ行くと、形は何とか保っていた。

もしかしたら、この中に誰かいるかもしれない。

そんな期待を胸に抱いた。


だが、扉を開けて出てきたのは地面を溶かし、家1つ分の量の水のような物だった。


その水の中には、ソルフおじさんの亡き娘さんの写真、髪の毛、骨が、分かるか分からないか程度出入っていた。


「カレ、ン…」


もう誰か1人だけでもいい。

生きていてくれないかと、願っていた。

それはカレンには強く願っていた。


夢であるようにとも願うが、酷い頭痛が現実だと訴えてくる。


「な…」


カレンの家はもう、跡形もなく消えていた。

まるでるそこには何も無かったように。


だれが、こんな酷いことを…。


そんな事を考えていると後ろに誰かが立っていた。


「誰だ…?」


全身が黒に覆われ、顔は仮面を被り、いかにも怪しげな雰囲気を醸し出している。


そいつは質問に答える前に手をこちらに向け、放った。


「─フレム」


その瞬間、ユウタは何かを感じ、避けた。

すると、ユウタが前まで立っていた場所は燃やし尽くしてあった。


「潰れろ」


地面が割れる。

そこに足のような形の跡ができる。


「ウォーター」


水をかけてきたと思ったら地面が溶けだした。



村全体が黒い塵で覆われ、潰された跡、焼かれた跡、溶けていた跡をユウタは自分の目で見た。


「そうか、そうなのか…。お前が、お前が村の人達を!」


怒りに呑まれ、雄叫びをあげユウタはそいつを切ろうとする。


今まで敵という呼び方をモンスターなどにしたが、本当の敵は目の前のやつだった。


だが、何かに当たり、切られなかった。


それはただの空間にしか見えないが、

見えない盾、見えない壁が確かにそこにあった。


「漆黒の中の紅よ」


が詠唱を唱える。

それを辞めさせようと、剣を振るっても中々攻撃が通らない。


「黒き器に眠る赤き炎よ」


「黙れ、黙れ、黙れえぇぇぇぇぇ!」


「混沌に覆われ強欲に支配された人類を」


「村の人達を殺したくせに、余裕そうに詠唱なんかするんじゃねえ!」


「今こそ燃やし尽くせ」


「はぁぁぁぁぁぁ!」


「『ブラックフレム』」


「なっ!」


「精々、苦しみ、もがき、無様に助けを求めるがいい」


「ぁ、ぁ、ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて…





ユウタの意識はそこで途絶えた。

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