第11話 ギャルと後始末

「終わり終わり。おら、さっさと術解け。重くて上がんねーよ」


水中に沈んでいたキナコたちを巨大な手が包み込む。

キナコはその手と聞き覚えのある声を聞いて術を解除した。


「ぼべ!?ぶぼ!?ばヤカじゃん!?生きてんじゃん!!」


キナコは海から引き揚げられるとアヤカの姿を見て思わず飛び付いた。


「うわあああん!!心配したんだぞぉ!!」


「おま、来んなや!?その格好で抱きついたら殺すからな!?」


「うぅむ、やはり百合百合は良いですなぁ」



そうしてわちゃわちゃとすること数十分、びしょ濡れの三人は埠頭の修理をする忍者を眺めながら焚き火代わりに燃えているキナコを囲んでいた。


「あのさぁ、先人の努力の結晶の忍術をこんな使い方するなんて怒られると思うんだよねぇ」


龍流忍術、龍炎尾を全身にかけたままキナコはぼやいた。


「うるさい。殺されないだけ感謝しろや」


忍者が着ている衣服やアクセサリーは忍者製の特殊な作りの物がほとんどだ。

防御力に優れたものや耐火性に優れたものなど種類は様々で一見してその性能を見抜くのは難しい。

軽装かと思ったら全身重装甲並みの防御力だったなど良くあることなのである。


「拙者としては燃えてくれた方が良かったのですがなぁ」


ぽつりと呟いたオダにびしりとキナコは指を指した。



「で、コイツはなんなの?説明してくれんだよね?」



アヤカはふぅ、とため息をつくと頬杖をついて語り出した。


「コイツはオダ、オタク流忍者。とはいっても今はフリーの忍者みたいなもんで、同盟を組む条件としてアンタと戦って試験してもらったわけ」


「ギャル流で最も弱い忍者の実力が見たかったのですが、見事に負けてしまったわけですな」


キナコは自分がギャル流最弱だと思われていたことには特に異論はなかったが、同盟を組むという部分に不満を感じていた。


「あのさぁ、同盟ってマジ?ギャル流が?秘匿性の高さと総合力がうちの強みってあーしに説教したことあるよね?」


そう、他の流派との同盟は一見すると戦力増強によるメリットが高いように感じるが、忍者の命ともいえる情報を共有するという莫大なリスクを伴うものなのだ。

裏切りや謀略が当たり前の忍者の世界において情報漏洩によって力のあった流派が滅んだのは一度や二度の話ではない。


「……昔のことを掘り返すなよ。うちの頭領かよ。……まぁ、だからコイツだけだ。同盟を組むのはコイツ一人」


「はぁー!?なおさら訳分かんねーっしょ!あーしに負けるようなやつとギャル流の崩壊を天秤にかけんの!?」


「落ち着いてほしいでござる」


言い合いに発展しそうになった二人の間にオダが割って入った。


「キナコ殿の言うことはもっとも!しかしアヤカ殿にも言えぬ想いがあるのでござる。拙者、信頼を勝ち取れるよう結果で示すでござる。故に今は収めていただきたい」


キナコは納得していないのを隠そうともしていなかったが、ここで更に食い下がるほど子供でもなかった。



「気持ちは分かるけどこの選択もそう悪くはないんだよ。こう見えてコイツは───っと悪い、電話」



簡素な着信音が辺りに響く。

キナコはそれが初期設定の着信音であることを知っており、アヤカがそういうものに無頓着なのを理解していた。


「うい、どしたん?ん、いるよ。分かった」


アヤカは通話中のスマホを二人の前に出した。


「コハルがスピーカーで話したいんだと」


コハルとはギャル流忍者最年少の忍者だ。

頭領の実の娘であり小さいながらも実力は親譲りのようでキナコに正面からパワー勝ちできるほどの剛力を持っている。

程なくしてスマホから目が覚めるような快活な声が聞こえてきた。


「やっほー!キナコちゃん!コハルだよー!」


「ういー!どしたんこんな時間に?」


先程までの剣呑な雰囲気が嘘のようにキナコは笑顔を浮かべていた。

コハルはいわばギャル流のマスコット的な存在であり、殺伐としがちなギャル流の空気をいつも緩めてくれていた。

キナコはコハルを妹のように思っており、余所から見ても二人は姉妹のように映るだろう。


「あのね?おかーさんがね?みんなにお願いしなさいって」


「お願い?」


キナコはコハルの頼みなら大抵のことは聞くつもりだが電話で、という部分に少し引っかかっていた。

コハルは遊んだり直接会話をすることを好んでおり、小さい連絡であっても顔を合わせに来ていたからだ。


「あのね、おかーさんがね、アヤカちゃんが面白いこと考えてるんだって言ってたの」


二人の視線がアヤカに向き、そこからオダヘ向かう。


「それでね?大丈夫だから好きに暴れていいよって」


反応は三者三様だった。

アヤカは目をカッと見開きその後に青ざめ、キナコは浮かべていた笑顔が引き攣り、そのまま凍ったように止まった。

オダはそんな両者を見て首をかしげる。



「───だからね?だから、あとのことお願いします!」



キナコは、通話が終わるまで耐えていたアヤカを素直に凄いと思った。



「───あんのっ、クッソ、ババアがぁぁぁぁぁぁ!!!」



無差別に千人の忍者を襲ったのなら当然その報復が起こり、その流派に連なる忍者たちやそれに便乗した忍者がギャル流に攻撃を仕掛けてくるだろう。



つまり、これはギャル流対無数の忍者の全面戦争の開始を意味していた。

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