第2話 ギャルとおばちゃん
妖も寝静まった月下の街を二つの影が舞い踊る。
闇すら見蕩れて呆けるほどの流麗な動きは洗練された儀式を思わせる。
そしてこの世のものとは思えないほどに美しく透き通った音色が響き渡る。
これは如何なる楽器か。
否。
この音は、決して主を楽しませるための演奏などではない。
熟達した忍者がその音を聞けばこう思うことであろう。
これは、死神の楽譜なのだと。
並みの忍者ではあれば聞いた瞬間に地獄に引き摺りこまれる死の楽章。
つまり、恐るべき忍者同士の一撃のぶつかり合いの音である。
「やるッ!尻の青い小娘にしてはだがねッ!」
パンチパーマの中年の女性が街中に響き渡るほどの大声を放つ。
しかしその声が忍者以外に聞こえることはない。
その声は忍者のみが聞こえる特殊な周波数を帯びており、更には街中に配置された無数の忍者によって外部への音がシャットダウンされているからだ。
「は?うっさ。ウチの尻、青くねーし」
それに応えるのは髪を銀に染め上げた女子高生だ。
ジャラジャラと大量のアクセサリーをカバンや服に身に着けている彼女を見てどのように思うかは、対峙する忍者の技量によるだろう。
「ガキは寝なッ!お肌に悪いよッ!」
「うざ、消えろし」
瞬間、周囲の空気が凍り付いたように冷え切る。
先程まで人間らしく会話をしていた二人の表情は深淵のように無となった。
「おばちゃん流忍者、雲野 幸恵。いざ参る」
「ギャルりゅ~、ミユ」
これは、忍者と忍者の一騎討ち。
助太刀無用、手出し無用。
いざ尋常に、始め。
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