きっとこれは勘違い

富田 りん

第1話

 今日はミスをしなかった。おかげで定時に退社でき、発売したばかりの漫画を買いに、本屋へ寄る余裕まであった。今すぐ読みたいけれど、この満員電車の中じゃ無理だ。家についてもまだ19時前後。ごはんを食べて、お風呂に入って、それからじっくり読むことにしよう。

(いや、先にお風呂かな。)

 梅雨による雨続きで、毎日じめっとしている。気温は高くないので汗だくにはなっていないはずなのに、服が肌に張りつく感じが不快だ。やはり、ごはんの前にお風呂でさっぱりしてしまおう。


 漫画の世界は最高だ。私・橘遥花たちばなはるかが何の取り柄もない平凡な会社員だということを忘れさせてくれる。あっという間に読み終わってしまった。

「相変わらず、遼介君かっこよかったー。」

 遼介君とは、この漫画の主人公の男性キャラクター・笠井遼介かさいりょうすけのことだ。イケメンで爽やかで仲間思い。常にポジティブで熱い男。そして、私が今1番恋しているキャラだ。

「実際にこんな人がいたらな。」

 いたとして、彼の様な人物が自分を好きになってくれるとは、到底思えないけれど。遼介君の彼女になる妄想は尽きない。彼の隣にいる私は、頭が良くて優しくて皆の人気者。実際はと言うと…

「…寝よ。」

 現実に引き戻されそうになったので、‘遼介君の彼女のまま’目を閉じた。


 いつも通りの朝。働きたくないと思いながら、黙々と朝食を口に運ぶ。何気なくつけていたテレビは、梅雨明けを報せていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

きっとこれは勘違い 富田 りん @rin-tomita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ